第338話 セッスクくんと空中きりもみ回転

 八百万やおよろずのゴッド各位にご報告。

 今回の話は、かつてない程カオスな内容になっております。

 読み進めて「何言ってんのこいつら」と思われた場合は、ブラウザバックをお勧めいたします。また、頭痛などの症状が現れた際にも同様です。

 次回からは通常の話に戻りますので、ゴッド各位には申し訳ございません。

 ちなみにこの話を読み飛ばしても、今後の展開には一切問題がない、と付言しておきます。




「ハーイ! コウスケ! 今日もしっぽりやってはりますヨネックス!!」


 出来ればエンカウントせずにパーティーを終えたかった。

 でも、出会ってしまった。

 ちくしょう。なんて日だ。


「毬萌サン、とってもビューティーなヴァンパイアね! 思わず見惚れちゃいマッスル!」

「にははーっ、ありがとーっ」

「ところで毬萌サン、ワタシの名前、呼んでくれませんカ?」

「ほえ? 良いよーっ」


 俺の危機管理システムに警報が走る。

 素早い動きで俺は毬萌の背後に回り込む。

 さながら忍者の如し。

 前に花梨のとこでバイトした時、秘書の田中さんにしのびのイロハを聞いといて助かった。



「……こほんっ。セック」



「ちょっ! まぁああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「みゃあっ!? コウちゃん、何するのーっ!?」


 それはこっちのセリフである。

 お前、何言おうとしてんの!!

 いいや、違うな。今回は毬萌に非はない。

 悪いヤツの名前はハッキリしている。


「あー。毬萌、悪ぃんだけど、心菜ちゃんたちの様子見に行ってくれねぇか? ほれ、そろそろ鬼瓦くんたちに任せとくのも、な?」

「そっか! 武三くんたちも好きなご飯食べたいよねっ! 分かったーっ!」

「おう。すまんな。俺もすぐ行くから」

「了解なのだっ! 先に行ってるねーっ!!」


 駆けて行く毬萌。

 お前、ヒールの高い靴履いてるんだから、さっきみたいに転ぶなよ?


 さて、毬萌の背中が見えなくなったところで、俺にはやるべき事がある。


「てめぇ、このセッスクくんよぉ。お前、うちの大事な幼馴染に何言わせようとしてんだ? ああ、コラ、言ってみろ」

「オーウ! コウスケ、ヒートアップはノーね! ラブアンドピースでいくよろし!」

「……そうだな。ちょっと俺も、あまりにもアレだったから、言い方が強くなっちまった。悪ぃ、悪ぃ。で、返答は?」



「モチのロンで、セックスです!!」

「てめぇ! 覚悟はできてんだろうな!?」



 思えばこの野郎、初めて会った時から毬萌に卑猥なワードを言わせようとしていた。

 え? 最初の紹介の時は違うんじゃないか?

 違わねぇよ! 見ろよ、この邪悪な顔を! ヘイ、ゴッド!!


「オーウ! 金ピカのコウスケは固い上に熱くて困りマースね! ……コウスケ? 今気づきましたが、金も含めて、とんでもない猥褻物わいせつぶつデース!! HAHAHA!!」

「や・め・ろ!! でけぇ声でなんつーこと抜かしやがる!! その口を閉じろ!!」

「ノンノン、ワタシの口が閉じるのは、ディナーを楽しむときと、愛を表現するときだけデース!」



 このセックス野郎!!

 もうぜってぇ半荘はんちゃんの終盤でドラ差し込んでやんねぇからな!!



「ご歓談のところ、失礼するぞ! 実行委員会の天海だ!」


 天海先輩の姿は見えないが、その堂々とした声は彼女のものに違いなかった。

 先輩、この歩く猥褻物をどうか排除して下さい。


 そんな願いが通じたのか、天海先輩は続ける。


「これより、実行委員会、留学生代表のセッスクくんが、ひとつ余興よきょうをするので、是非ご覧あれ! 想い人と共通の話題に困っている人は必見だぞ!!」

 会場から笑いが起きる。


「セッスクくん、何かすんの?」

「オーウ! コウスケ、ちょうど良いから手伝ってクレメンス!!」

「嫌だ! ぜってぇ嫌だ!!」



「……コウスケが欲しがってた、イギリス生まれの武術・ディフェンドゥーの教本、いらないデスか? 実家から送ってもらったのデース!」

「ちくしょう! ちょっとだけだからな!!」



 ディフェンドゥーとは、第二次大戦下で連合国軍が採用したと言われる近接格闘術の一つであり、現在の軍用格闘術の源流とも言われている。

 なんでそんな事を知っているのかと問われたらば、俺が男の子だから、としか答えようがない。


 そして、世の中に近接格闘術に興味のない男の子はいない。

 反論は受け付けるが、討議は熾烈しれつを極める事を覚悟されたし。


「で、俺ぁ何すりゃ良いんだ?」

「それはデスね、オーウ! 出てきましたでおじゃる!」

 本当に何か出てきた。


 それは、3メートルほどの鉄の棒であった。

 両端には、でっぱりが付いている。

 その上の方を指して、セッスクくんは言う。


「これからワタシ、テッペンに鯉のぼりみたいに張り付くので、コウスケはこの棒を持って、グルグル回ってくだサーイ!!」



 ちょっと何言ってんのか分からねぇな。



「俺の耳が正常なら、この棒を持って、魔王軍に捕まった人がさせられる強制労働よろしく、意味もなく回転しろって聞こえたんだけど」

「コウスケ! 耳も良ければ頭もナイスね! あっちもこっちも固くなるのに、腹筋がポニョポニョ魚の子なのだけが無念でおじゃる!!」


 要するに、セッスクくんが捕まって横に伸びる懸垂けんすいみたいな姿勢になって引っ付いた棒を、人力で回せって事か?

 試しに俺は、でっぱりを握って、少し回ってみることにした。



 ——微動だにしねぇでやんの。



「オーウ! コウスケ、バブルスライムよりパワーがないデース」

「だ・ま・れ! とにかく、そんな大役俺にゃ無理だ」

「じゃあ、誰か助けを呼んでくだサーイ! もうワタシ、ハシゴを外されたも同然デース!!」

「そんな都合よく力自慢が見つかってたまるか!!」


「桐島先輩、困りごとですか?」



 学園一の力自慢、来ちゃった。



 なるほど、毬萌が中二コンビの見守り役を引き受けた結果、自由になった鬼瓦くんがたまたま、偶然、意図せずしてここに来た、と。


 そんな偶然ってある!?


「ああ、これはセッスク先輩。こうしてご挨拶するのは初めてですね」

「オーウ! 大魔神じゃないデスか! コウスケ、人脈広いデース! このすけこまし!!」

「難しい言葉知ってんなぁ。でもそれ、誤用だかんな!?」


 俺を無視して、セッスクくんは鬼瓦くんに俺にしたものと同じ要請をする。


「僕でお役に立てるなら、喜んで!」

「いや、ヤメとこう、鬼瓦くん。こいつに付き合って得るものは何もないよ」

「……ディフェンドゥーの教本」


「しかたねぇな! 今回だけだぞ!! 鬼瓦くん、いっちょやるか!」

「ゔぁい!!」



「準備が整ったようだな! それでは、セッスクくんによる、英国式・回転飛行機だそうだ! みんな、見てやってくれ!!」


 セッスクくんが3メートルの頭上から、俺に向かって合図をする。

 もう知らん。ヤケだ。

 回せばいいんだな?


「鬼瓦くん、やったれ!」

「ゔぁい! ゔぁあぁあぁあぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」


 セッスクくんが、空中で回転を始める。

 そりゃそうだよ。

 支柱を回してんだから、上にくっ付いてる英国の変態も回るよ。

 何度でも言うよ。このイギリス人の面汚つらよごしめ。


「オオオオウ! 今日はぁぁ、ミナサン、楽しんでぇぇぇぇぇ! 行ってくだサァァァァァーイ!! マイネームイズ、セェェェェェェェックス、でーした!!」



 何だ、これは。



 会場がざわつき始める。


「おい、あの金色の、副会長じゃね?」「ああ、セックスフレンドとか言う?」

「あの先輩、時々奇行に走るよね……」「会長さん、可哀想……」



 ちょっと待って。なんで非難が俺に集まってんの!?



「ゔぁあぁぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁぁっ!!」

「ヒァァウィィィィィ! ゴォォォォォォォォォウ!! セェェェェェクッス!!」



 それから3分ほど、セッスクくんはご機嫌で回り続けた。

 それだけでは飽き足らず、きりもみ回転して見せた。

 英国空軍仕込みかは知らんが、アクロバット飛行であった事は認めよう。

 その身体能力の意外な高さも、なるほど、評価に値するだろう。



 その上で、俺は自分に問いたい。



 何してんの、俺。

 静かな会場。

 セッスクくんの奇声と鬼瓦くんの咆哮だけが響くハロウィンナイト。


 こいつぁ、アレだな。

 確かにうっかり出てきた悪魔も「えらいこっちゃ」と逃げ帰るね。

 問題は、はらうべき対象が別にいる事だろうか。



「ヒィヤァフゥゥゥゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」



 だ・ま・れ!!




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SS最終話 毬萌といつも一緒

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目次 またの名をお品書き

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