第311話 毬萌と乗り越えた壁 教頭軍VS生徒連合
「おやぁ、桐島くん。綱引きのメンバーが集まったらしいねぇ。君にしては頑張ったじゃないかね。まあ、結果は出して当然だけどねぇ。生徒会なんだから」
綱が用意され、俺たち参加者はグラウンドへ移動する。
その道中、教頭に嫌味を言われる。
道中って言ったって、ほんの50メートルくらいだぞ!?
つまり、完全に嫌味を言いたいだけで俺に接近してきやがったな。
「まあ、やるからには勝たせてもらいますよ」
見てろよ、ちくしょう、このくそハゲデブ野郎!!
「ははは、君ぃ、聞くところによると、体育の成績は散々らしいねぇ? 何だい、ハンドボール投げでマイナスの記録を出したとか言うのは」
ちくしょう! ちくしょう!!
今、俺が体育テストで恥ずかしい記録出した話は関係ないだろう。
思いっきり投げたのに、ちょうど風が吹いて、ハンドボールが俺の後ろに飛んで行ったんだよ。
投げ直させてくれりゃいいのに、後がつかえているとかで、そのままスルー。
なに? それで記録はどうなったかって?
マイナス2メートルですけど!? なにか!?
「こ、今回は、団体戦なので」
「その割には、女子が多いようだねぇ。勝つ気はないのかな? ああ、そうだねぇ。女子に紛れたら、君の非力も目立たなくなるとか、そういう算段かい? ははは、考えたものだねぇ。まあ、せいぜい、怪我のないように頑張ってねぇ」
この中性脂肪の塊がぁっ!! 頭に来たぞ、俺ぁ!!
「桐島先輩、綱を持つ配置はどのようにしましょうか」
「おう。鬼瓦くん。……ちょっとそこにある石、全力で教頭に投げてみない?」
「な、なにをおっしゃっているのですか!?」
「いや、一回だけなら
「
ああ、俺としたことが。
あまりにくそデブハゲ野郎が憎くて、つい冷静さを欠いてしまっていた。
俺たちは急造チーム。
しっかりとまとめなければ。
そして、こんな時に頼りになるのが先輩である。
「土井先輩。ちょいと良いですか?」
「ええ。わたくしでよろしければ、何なりと」
もうこの対応がステキ。
吹けば飛ぶ毛髪を未練がましく撫でつけているどっかのおっさんと大違い。
もちろん、いっそセクシー。
「俺のにわか知識ですと、先頭から背の高い順に並べて、男女を交互に配置しようと思うんですが、これで大丈夫ですかね?」
「わたくしも綱引きを熟知している訳ではありませんが、それならば問題ないかと。それから、利き手によって左右どちら側に立つかが変わるようでございます」
やはり土井先輩。頼りになる。
「私は男子としてカウントしてくれて構わんぞ! これでも、体力には多少自信があるからな! それにしても、新旧副会長が相談とは、頼もしいな!」
「何を申されるのですか、天海さん。桐島くんの方が柔軟な思考に優れておりますよ。わたくしの浅知恵など、取るに足りません」
「いや、とんでもないっす! ヤメて下さいよ、土井先輩!!」
ホントにヤメて下さい。
あなたのファンに
「いや! 相談に首を突っ込んですまなかった! では、そろそろ配置に就こうか!」
「ああ、そうですね。鬼瓦くーん! 悪ぃけど、
最も力のある彼には、最後尾を任せよう。
「ゔぁい! かしこまりました!」
「そんじゃ、みんな適当に男女交互になる感じで綱の横にお願いします!」
「「「おー!!!」」」
土井先輩と天海先輩がいるおかげか、チームの士気は高い。
「ヒュー! 出雲大社にこの綱と似たヤツがあったぜぇー! ヒュー!!」
今回は俺の貴重な友人枠のインチキアメリカンキャラ。
でも、要請を快諾してくれたのだから、今日は優しくしてあげよう。
「なんだ、高橋。出雲行ってきたの? 以外に渋いな。出雲そば食った? あれ、美味いよなー」
「ヒュー! 公平ちゃん、オレっちが蕎麦なんて食うと思うかい!? もちろん、ハンバーガー食べて来たぜぇー! ビッグマック最高だぜぇー! ヒュー!!」
風情もなにもありゃしねぇ。
「茂木。すまんが、前後の女子が一年生だから、様子を気にかけてくれるか?」
「ああ、任せてくれ。年下のお嬢さんに怪我されちゃ悪いからな」
雰囲気イケメンの茂木が、イケメンっぽい事を言うものだから、前後の一年生女子がキャーキャーとはしゃぐ。
俺の周り、イケメン多くない? あ、やっぱそう思う? ヘイ、ゴッド。
『それでは! 午後の競技を始めます! まずは教職員対生徒連合の綱引き勝負! スタートの合図は私、風紀委員一年、松井が務めます! ……それでは、開始!!』
俺は慌てて近場の隙間に入り込む。
周りに指示出すのに夢中になって、綱を持つのを忘れるとか、俺はバカなのかな。
「みゃーっ……」
「さあ! 神野くん、一緒に力を合わせようじゃないか!!」
そこは毬萌にとっての地獄だった。
確かに、天海先輩は男子として隙間を埋めると言っていた。
ならば、毬萌の近くに、隣をチョイスするのはもはや必然。
何と言う配慮の足りなさか。思慮の浅さか。
しかも、競技中だという事もあり、毬萌は耐えている。
後ろ姿を見るだけでも、それくらいは分かる。
何年こいつの幼馴染やっていると思っているのだ。
俺の心が燃えた。
教頭に対して憎しみの心を燃やしていた俺だが、そっちは一旦消火。
代わりに、健気な毬萌に対する、
こう見えて、一度火が付くと割と恥ずかしい事をする俺である。
え? 知ってるって? じゃあ、今回は見逃しておくれ、ヘイ、ゴッド。
「みゃっ!?」
俺は、毬萌の手に、か細くて貧相な手のひらを重ねた。
そして、彼女にだけにしか聞こえない声で、言う。
「毬萌。お前の
「お前の苦手は、全部俺が引き受けてやる」
「だから、お前も苦手を怖がるな。天才のお前に怖いものなんかねぇはずだ」
「天海先輩がどうした。よく見ろ、ただの優等生な先輩だ」
「俺ぁ、お前の方が先輩より凄いってとこを、10個、いや、100個は言える!!」
——ヤダ、恥ずかしい。
毬萌は何も答えない。
アレかい? ちょっとキモ過ぎてドン引きしちゃった系かい?
少しの間があって、毬萌がこちらを振り返る。
その表情には、満面の笑みが浮かんでいた。
「……コウちゃん! わたし、もう天海先輩のこと、怖くないかも!!」
「だって、怖くなったら、コウちゃんが居てくれるんだよねっ!?」
「そう考えたら、全然平気だよ! 合理的に計算しても、怖いはずないもんっ!!」
「コウちゃん、今までありがとねっ! これからも、頼りにしてるからっ!!」
「にははっ。……大好きっ!!」
——ヤダ、恥ずかしい。
「オーエス! オーエス!」と言う掛け声のおかげで、俺たちの交信は内緒で済んだようである。
そして、毬萌が一つ、壁を乗り越えた瞬間でもあった。
「おっし! 勝つぞ、毬萌!!」
「任せてーっ!! みゃーっ!!」
重ねた手のひらは一旦離す。安全面のためだから致し方ない。
代わりに心は重ねたまま。今も、この先もずっと。
勝負は呆気ないほど簡単に決した。
時間にして、2分とかからなかっただろう。
結果を聞きたい?
そんなもん、快勝さ。
悔しそうに座り込む教頭を見つけたので、一言だけ告げてやった。
「教頭先生。頭がテカテカしておられますが、頭頂部に
はーっはっは!! 言ってやったぞ、こんにゃろー!!
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