第303話 公平と騎馬戦

「居たぞ、副会長だ!」

「おう、やっちまえ!!」

「あんたに恨みはねぇが、最初に潰させてもらうぜ!」

「けっひっひ! 良い声で鳴きなぁぁぁ!!」



 君らはなんつー事を言うとるのかね。



 開始早々、俺は4つの騎馬に周りを囲まれていた。

 馬も騎手も目をギラつかせている。

 もう完全にアレだ。売店でレッドブルなんて売ってたせいだ。

 この人たち、エナジーチャージして翼が生えてるよ。


「くっ。やはり桐島先輩を狙ってきましたね。優秀な指揮官は最初に潰そうと言う魂胆のようです」

「……そうね」

 普通に俺が全ての騎手の中で一番弱々しいからだよ?

 鬼瓦くん。生きて帰れたら、俺の事を正面から見てもらおうかな。

 俺の事を尊敬してくれるのは嬉しいけど、過剰な評価は死期を早めるのだよ。


 お・れ・の!!


「どうする、鬼瓦くん。意見が聞きたい。回り込むか?」

「待てよ足立。ここは正面突破が良いんじゃないか」

 足立くんと堀内くんも結構好き勝手言ってるよ。

 正面突破して、もみくちゃにされた挙句、首を取られるのは俺だよ。


「そうだね。まずは向かいにいる騎馬を倒して、開けた場所に出よう」

「了解」

「がってん」

「あばばばばばばばばば」


「ひっひっひ! 相談は終わったかい?」

 よりにもよって、一番狂戦士バーサーカーっぽい人が騎手の部隊が真向かいに。


「桐島先輩、僕の背中にしっかりと捕まっておいてください!」

「お、おう」

 とりあえず、指示に従わないと振り落とされて死にそうであるからして、ここは全力で鬼瓦くんの背中に張り付く。

 鬼神ベッタリ。


「では、行きますよ、お二方。……ゔぁあぁぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁっ!!」


「ひぃぎゃあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁああぁ」


 前方に居たはずの騎馬が、ボーリングのピンみたいに綺麗にすっ飛んだ。

 そして何が怖いって、俺の騎馬、全然揺れもしねぇでやんの。

 なに、この安定感。

 プリウスかな?


「お、おお! とりあえず助かった! って、おい!? 今すっ飛ばしたヤツら、また騎馬組んでるぞ!? どういうこと!?」

 騎手が落ちたら失格でしょうよ!?


「くっ。ハチマキを取られない限り何度でも復活を可としたルールが、やはり裏目に出ましたか」

「ええっ!? なんでそんなルール変更したの!?」

「盛り上がるかと思いまして」

「盛り上がってるけども!! じゃあ、いつまで経っても敵、減らないじゃん!!」



「失礼いたします。こちらも。そちらも。僭越せんえつながら、桐島くんに集中しすぎるあまり、防御がおろそかになっておりますよ」

 そこには、3つの赤いハチマキを奪い取った、味方の騎馬が。



「ど、土井せんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!!」

「これは桐島くん。申し訳ございません、あなたの獲物を勝手に奪ってしまいました。彼ら、肉食獣さながら視野が狭いようでしたので、つい」

「いや、とんでもねぇっす! ホント、助かりました!!」


 そこで、俺の自己保身に満ちた頭脳が計算を始める。

 屈強で絶対に倒れない俺の騎馬。

 鋭く相手の隙をついて、命を刈り取る土井先輩。



 俺のセーフティゾーンはここだ!!



「鬼瓦くん、土井先輩について行こう!」

「なるほど。確かに、桐島先輩の知略と土井先輩の華麗さが合わされば、鬼に金棒ですね。さすがです、先輩」

 もう、何でもいいよ! そして鬼は君だ!!

 それ行け、土井先輩の尻を追い回すのだ!!


 この俺の金魚のフン作戦が見事にはまった。

 敵は俺を見つけると、舌なめずりしながら駆け寄って来る。

 そして、慌てふためく俺に注意が向いているところを、反転し後背こうはいから颯爽と現れる土井先輩が華麗な一撃をもって騎手のハチマキを奪う。


 敵が迫ってくるとお漏らししそうになるものの、気付けば俺の完璧な防御陣形が完成していた。


 そして戦いは進み、グラウンドに残る騎馬も、両軍ともに3隊のみとなった。

 でも、大丈夫。

 俺には土井先輩がいる。


「すみません、桐島くん。わたくしたちはここまでのようです」

「えっ!? ええっ!?」

膝頭ひざがしらくんが、すねを負傷してしまいました。これ以上の戦闘は不可能と考え、降伏することとします。桐島くん、ご武運を祈っておりますよ」

 そして自らハチマキを捨てる土井先輩。



 あ、これは死ぬな。



 膝頭先輩が、膝ではなく脛を負傷したせいで、頼りのほこがなくなった。

 そして、振り返ると味方の騎馬がちょうどやられたところだった。

 つまり、戦況は3対1。

 圧倒的に不利である。


「けっひっひ! 今度こそ観念しなぁ!」



 ちくしょう! こいつかよ! まだ生きてやがった!!



「桐島先輩。こうなったら、各個撃破しか活路はありません。行きます!」

 ……逝くんですって。


「ゔぁあぁぁぁあぁぁっ!!」

 相手も必死の抵抗を見せて、初めて俺の騎馬がバランスを崩した。

 その刹那、を失った俺は、前のめりになり、とりあえず近場の物を掴む。


「危ねっ! はああ、落ちるとこだったぜ。……おう?」

 俺の手には、何故か赤いハチマキが。

「きしぇええぇぇっ!! やられちまった!」

 そして相手の騎手はハチマキを失っていた。


「さすがです、桐島先輩! お見事!」

「副会長、完璧でした!」

「これまで何もしてこなかったのはこの時のためっすか!」

 違うよ? 偶然だよ。


「次が来ます、先輩!」

「うおおっ!? そんな急に転回したららめぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 遠心力に逆らえるはずもなく、俺の体は鞭のようにしなる。

 しかし、土台がガッチリしているため、すっ飛んでもいけない。

 体がもげるのを防ぐため、俺は遮二無二、手を振り散らかした。


「……おう。マジかよ」

 そしたら、また何故かハチマキを手で掴んでやんの。

 どういう理屈なのかは、もう俺も知らん。


『いよいよ一騎打ちとなりました! 勝利を手にするのは、赤組か!? 白組か!?』


 とんでもねぇ事になってしまった。

 残った相手を見るに、名前は知らんけども、運動部でブイブイ言わせていたどこぞの先輩。

 諦めて、降参すれば痛い思いをしなくても済むだろうか。



「コウちゃん! 行けーっ!! やっちゃえーっ!!」

「公平先輩! もうちょっとですよー!! 頑張ってー!!」



 そこで聞こえたのは、うちの女子の応援である。

 まったく、好き勝手なこと言いやがって。


 これで降参もできなくなったじゃないか。


「ゔぁあぁぁあぁぁぁあぁぁっ!!」

 鬼神タックル炸裂。

 相手も歴戦を勝ち残って来ただけあって安定感のある騎馬だが、うちの鬼瓦くんに比べたら全然大した事がない。


「おし! 鬼瓦くん、左翼が崩れた! さらにそこに突っ込んじまえ!!」

「ゔぁい!!」

 目論見通り、相手の騎馬が崩れる。

 あとは手を伸ばせば、一緒になって倒れる騎手のハチマキを——。


「ひゃあぁぁあぁぁ!! きぃやぁぁあぁぁいっ!! みょにぃぃぃいぃっ!!」



 我ながら、何と言う気合か。ちなみに全て裏声である。



『決まったー! 白組、桐島副会長率いる騎馬が、今、最後のハチマキを取りましたー!! 騎馬戦の勝利は、白組のものです! おめでとうございます!!』



「マジか。勝っちまったよ」


「お見事でした、桐島先輩!!」

「いや、俺ぁ何も。3人の方こそ、ありがとな」


 俺たちは、爽やかに握手を交わす。



『最後に聞こえた、桐島副会長の悲鳴! こちらのリピート再生の準備が整いました! では、皆さん、お聞きください!』


「ひゃあぁぁあぁぁ!! きぃやぁぁあぁぁいっ!! みょにぃぃぃいぃっ!!」



 そして俺の恥ずかしい悲鳴がグラウンドに響き渡った。


 その日から、俺はしばらくマンドラゴラと呼ばれる事になったのだが、そんなこと、この勝利に比べたら些末なことさ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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最新話 毬萌とギャップ萌え

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