第304話 休憩と氷野さんの失言

「コウちゃん、お帰りっ! すごかった!! カッコ良かったよぉー!!」

「本当です! 公平先輩が体育祭で活躍されるなんて……!! 感激です!!」


 戦場いくさばからフラフラになって帰還した俺を、乙女たちが褒めちぎる。


「コウちゃんが今までパフォーマンスを発揮できなかったのは、環境に影響されるところ大だったんだねぇー。うむむっ、これは盲点だったよぉー」

「仕方ないですよ、毬萌先輩。公平先輩の生態に詳しければ詳しいほど、その事実からは離れていっちゃいますから!」

「その点、武三くんは見事な着眼点だったね! えらいっ!!」

「騎馬を改造するなんて、考えましたね! あたしからも褒めてあげます!!」


「ゔぁあぁぁっ! 恐縮です! ……ところで、お二人とも」

「ほえ?」

「はい?」


「桐島先輩が思いのほかぐったりしておいでなので、椅子を繋げた簡易ベッドで寝かせてさしあげたいのですが!」


 鬼瓦くん、よくぞ言ってくれた。

 そうとも、俺は極度の緊張と、生と死の狭間でファイアーダンスするような極度のストレスにより、ほぼ体力がゼロになっていた。

 一言もセリフを発していないのがその証拠。


「ちょっと、桐島公平! すごい活躍だったじゃない! カメラ借りてきたわよ!!」

 氷野さん、それ、今の俺を撮るために?

 パシャパシャとフラッシュを浴びせられる俺。


 この写真さ、何も知らない人が見たら、普通に熱中症でダウンしたエノキタケに見えたりしないかな?

 どうせなら俺の雄姿をと言いたいところだけど、それはそれで多分恥ずかしい。

 常時内股で騎馬戦を最後まで戦い抜いたの、多分学園の歴史を振り返っても俺だけだろうから。


「き、桐島、先輩! あの、これ! レモンの蜂蜜、漬け、です!!」

 常識人の勅使河原さんキタコレ。

 しかも、回復アイテムまで持参してくれている周到さ。

 やっぱりうちのヒーラーは君だ。


「はい、コウちゃん! 口開けてーっ!」

 えっ、ちょっと待って。

 この椅子の上で伸びてる俺の口の中に、レモンねじ込むつもり!?

 そんなことしたら、絶対むせる!!


「あ、ま、毬萌、先輩!」

 そうだ、ヒーラー勅使河原さん、言ってやって!

 チートの攻撃力極振りの前衛にゃ後方支援は向いてないって!!


「真奈ちゃんの言うこと、分かります!」

 花梨!


「一度にたくさん食べた方が元気出ますよね! 毬萌穿破、あたしも手伝います!!」

 ……花梨さん。

 一瞬でも期待した俺が愚かだったよ。

 俺ぁ、君たちのことなら、そこらの野郎よりはちょいと詳しいんだ。


「あ、う、うん。そ、そうだね」

 そして勅使河原さんがログアウト。

 鬼瓦くんの胸板に抱かれて「桐島先輩を、救え、なかった!」と涙する。


 もうその行為がうちじゃ死亡フラグだから、ヤメて欲しいな。


「はい、コウちゃん! あーん! 好き嫌いはダメだよぉー」

「そうです! 一気、一気!! 早く元気になって下さい!!」


「がぼがごゔぁ! ぷぁあぁ!! お前ら、俺を殺す気かい!!」

「わーいっ! コウちゃん、復活ーっ!!」

「あたしたちの勝利ですね!!」


「あのな! レモンの蜂蜜漬けっつーのは、こんな気付薬きつけぐすりみてぇな使い方しないの!!」

 確かに立ち上がるほどの元気は湧いたけども。

 ああ、まあ、もう良いや。

 この子たち、基本的に俺の言う事聞かねぇんだもん。

 夢ならばどれほど良かったでしょう。


「あ! 大変! 真奈ちゃん、あたしたちの出番ですよ!」

「ほ、本当、だ、ね! 行かな、くっちゃ!」


「おう。次は二人でやる競技なのか?」

「まったく、良いところ見せたかと思えばグズなんだから」

 氷野さんがプログラムを渡してくれた。


「なんだこりゃ? ケツ圧競争? なに、高血圧を競うの?」

 いや、むしろ、血圧がいかに正常値かを競うのかもしれない。

 なるほど。高血圧は多くの人がわずらう現代病の一つ。

 ここで、インテリジェンスの光る、勉強になる競技を入れてきたな。


 そんな俺の論理的な建造物を、氷野さんがハンマーひとつでぶっ壊す。

「お尻で風船割るんですって。だから、ケツの圧なんでしょ」



 バカじゃないの、名前考えたヤツ! くっだらねぇ!!



 普通に風船割り競争とかで良いじゃないか。

 競技自体は普通に存在するのだから。


「しかし、よくオーケイが出たな。女子の反対があったんじゃないの?」

「何言ってんのよ。男子もやるのよ。そしたら不公平じゃないでしょ?」



 男が尻で風船を!?



「それでは、僕も行ってまいります」

「た、武三、さん! 頑張ろう、ね!」


「ちなみに、男子は一人で、女子はペアで参加するのよ。まあ、冴木花梨みたいにスタイル良かったら、一人でも楽勝でしょうけど。……どうしたのよ、変な顔して」

 氷野さん、それはあかんヤツ。



「……マルさん先輩? あたし、お尻大きいですか?」



「ひぃぃっ!? あ、違うの! 違うのよ!? 今のは別に、お尻が大きいとかじゃなくて、ほら、あんた、モデル体型って言うか、安産型って言うの、ねぇ!?」


 俺は絶対に助けない。

 すまない、氷野さん。

 そっちの奥の方に血の池地獄が見えるんだ。


「あたし、お尻大きいんですか? マルさん先輩、そう言えば、お尻も小さくていいですよねー? あはは、体育祭が終わったら、おうちで研究させて下さいねー」


「ちょっ、えっ!? さ、冴木花梨!? どこまでがガチなの!? こんな時、私はどんな顔をすればいいの!?」

「あははは。笑えばいいんじゃないですか?」



 笑えないね!!



「おう。花梨、ぼちぼち行かねぇとまずいんじゃないか?」

「あ、ホントですね! もぉー。先輩は、あたしのお尻見ないで下さいね?」

「おう! 穴があくほど凝視しとく!!」

「……エッチ! じゃあ、先輩方、行ってきます!!」

 駆けて行く花梨。

 そしてくるりとこちらを見て、最後に一言付け加える。



「マルさん先輩、明日の予定、空けておいてくださいよ?」

「ひぃぃぃぃっ!? き、きき、桐島公平!? ねぇ、あんた失言し慣れてるでしょう!? こんな時は、どうすればいいの!? 正解を教えて!!」


「コウちゃん、レモン甘くておいしーよ! 食べよーっ!!」

「おう。そうだな。せっかくだし、頂いちまおう。ったく、さっきのは全然味わえなかったからな」

「えーっ? 美味しそうにしてたじゃん!」

「してねぇよ! 喉にレモン汁垂れてきて死ぬかと思ったわ!!」


「ちょっと!? なんで無視するのよ!? 桐島公平ぃぃぃぃっ! お願いよぉぉぉぉっ!! 何でもするから、助けてちょうだいぃぃぃぃぃっ!!」


 さすがにこれは見ていられない。

 でも、これを彼女に告げたところで、問題の解決にはならないのだが。

 まあ、いっか!


「氷野さん」

「えっ!? あ、な、なに!?」



「一回火の付いた花梨からはね、逃げられない。絶対に」



「ちょっと口が滑っただけなのよぉぉぉぉっ!! 違うの、ホントにぃぃぃぃっ!!」



 氷野さんの明日の予定が埋まった。

 そして、レモンの蜂蜜漬けによって俺の体力ゲージも黄色まで回復。


 さて、精々みんなを応援するとしますかね。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


角川スニーカー文庫公式、毎日更新、『幼スキ』特別SS


最新話 毬萌と午後の紅茶

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054919223328


一つ前 毬萌とギャップ萌え

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991/episodes/1177354054919223304


目次 またの名をお品書き

https://kakuyomu.jp/works/1177354054919222991


書籍情報公開中! 随時更新!!

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894182669/episodes/1177354054921171298

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る