第3話 水神姉妹様

 最後の仕事とは、水の神への訪問。つまりは、『水神神社』への訪問だ。なにせ、この島の初代の王の宮殿だったため、境内はとても広い。と言っても、もう300年も前の話だが。広大な土地に、絢爛な造り。よほどの悪党でも侵入するのが憚られるという神社なのだ。


「この島の約40%がこの神社の境内です。」

「…はあ⁈40%⁈」

「正確には、37.2%ですが。」

「いや正確さは求めてないんだけど!…ちなみにその他はどうなってるの?」

「12%が山の神の家で立ち入り禁止。0.8%が涼風家。」


 確かに、一家の家にしてはでかいなあとは思ってたけど、そんなに大きかったのか…


「そして、残りが人間の土地です。」


 なるほどねえ。ちなみに、この神社が人間界と神怪との境界線になっているんだとか。…でも待てよ。


「それだと、さっき行った砦が含まれてないじゃないか。たとえ3年前だとは言え、ちゃんとデータは更新しないといけないぜ。まあ、そこまで大きくないとしても、涼風家と同じくらいには大きさがあると、苦言を呈したくなっちゃうね。」

「…」

「あれあれ、もしかして言いすぎちゃった?いやいや、そこまで言うつもりじゃなかったんだよ、ごめんね。」


「別に、傷ついてはないです。あなたの記憶力のなさに言葉がないだけです。」


「え、記憶力?」

「あそこの砦は、水神神社の境内です。最初にお呼びしたときにそういったじゃないですか。」


 …そうだっけ?あの時はまだ神怪について右も左も分からなかったから忘れたというより、頭がパニックになっていたんじゃないかな。


「さすが、鶏並みの記憶力の持ち主です。」

「鶏並みってことはないだろ?」

「いえいえ、褒めてます。だって、嫌なことでもすぐ忘れられるんでしょう?」

「そんなことは!…ねえよ。」


 皮肉のように言ったのかもしれないが、俺にはもう自虐的なそれにしか聞こえず、強く反発するのは憚られた。


「さあ、それより着きましたよ。」

「あ、おはようございます。薮坂さん!」

「おう、おはよう。」

「おじさんおはよう!」

「おはよう。」

「こら、泉咲ちゃん!お兄さんに向かって失礼でしょ!」

「ごめんなさい、お兄ちゃん。」

「素直でよろしい。」


 この子の名前が、水神三波。水神家の長女にして、神事の伝承者。真面目な性格で、しっかり者。まさに、お姉ちゃんと言う感じだ。

 そして、隣の子が水神泉咲。三女ではあるものの、その力は絶大で、本気で泣かれたら、マジで島がなくなるそうだ。


 あと一人いるはずなんだが…


「そういえば、奈波ちゃんは?」

「彼女、風邪をひいちゃって…部屋で寝てます。何事もないといいんですけどね。」

「そっかぁ。」

「そういった話、聞きませんか?役場とか、人間界とか。」

「う~ん。確認しとくわ。」

「ありがとうございます!ぜひとも、宜しくお願いします!」

「おねがいします。」

「分かったよ!でも、人間にも優しいよね、三波ちゃんって。」

「そ、そうですか?まあでも、人間のおかげで生きられているというところもありますからね。それに、だいぶ前に迷惑もかけちゃったわけで、茉釣さんには気にするなと言われましたけど、やっぱり申し訳ないことをしちゃったなあと思いますし。それに人間では、良い人がいるってわかりましたからね。」


 その眼は、光り輝いていた。そんな目をしてみたいものだ。


「なら、良かったよ。じゃあ、調べてみるよ。くれぐれも」

「喧嘩はしないように、ですよね。了解です。」

「じゃあ、頼むよ。」

「はい!」

「はーい。」


 仕事は終わったものの、そこからまた仕事が増えた。とりあえず、神社を後にし、役場に向かう。


「じゃーねー!」


 泉咲ちゃんが力いっぱい手を振ってくれた。それに精一杯応える。

 神那ちゃんも手を振っていた。決して、仲が悪いわけではないようだ。

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出陽国物語集 三河安城 @kossie

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