カームの森

「よーし、クレール!俺らがやるからには昨日の当番イネスとナルシスよりもっとごくじょーな食材を採ってこようぜ!レグムとか採ってきてみんなを驚かせようぜ!」

アレクシはさっきとテンションが打って変わったようにはしゃぎだした。クレールは少し笑いながらその後ろに続いた。クレールが走るたびに長く伸ばした白髪が風になびいた。アレクシがその姿に見とれていることには気づかない。

「ここがカームの森かぁ…!」

カナリア孤児院では基本的、10歳(最年長)が採掘に行くことになっている。クレールとアレクシにとって初任務だ。10歳を越えると全寮制の学校に送られることになる。四人がこの孤児院で暮らせるのもあと1年なのだ。

「ちなみにな、クレール。この草はピゼンリットっていうんだぜ。薬草にも使われているんだ。」

アレクシは草を指しながらクレールに説明を始めた。

「アレクってやっぱすごい。こんなに難しい草の名前も分かっちゃうんだね!」

クレールはニコニコと楽しそうに聞いていた。

「すごいだろ。それでな、これはグランドの実って言うんだけど…」

四つん這いになりながら植物の名前を言っていたアレクシはなにかに頭をぶつけたことに気づいた。クレールは言葉にならない声を上げながら前を指さしていた。アレクシが顔を上げると、そこには丸々太ったウサギがいた。それもただのウサギではない。二人の身長の軽く二倍は超えたウサギだ。

「ララプリンだ!!下がれ!クレール!」

クレールが土を踏みしめる音を聞くとアレクシは拳を握りしめ、巨大ウサギと対峙した。『ララプリン』、それはカームの森にのみ存在する巨大なウサギのことだ。大の大人でも手こずるほどの強敵だ。ママは毎日のように口を酸っぱくララプリンの恐ろしさについて話していた。ララプリンを見つけたら問答無用で背中を向けて逃げろ、と。でも、今回は少し状況が違った。ララプリンは真っ直ぐにアレクシを見下ろしていた。つまり、認識されている。ということはアレクシ達10歳に勝ち目はない。

(そうだ…!ララプリンは明かりに吸い寄せられる習性がある。ランプをっ!)

アレクシはリュックに手を伸ばそうとして気づいた。ランプを持ってきていないことに。アレクシは出発前に焦っていたため、準備も何もせずそのままカームの森へ来てしまったのだ。後ろで聞こえるママの声をものともせず、走り出してしまった結果がこれだ。

(っ…!くそっ!!なんとかクレールだけでも…。)

アレクシは一度ララプリンと距離を取るために一歩下がった。ララプリンはアレクシにじり寄ってくる。アレクシはなおもララプリンと距離を取ろうとしたが、後ろにあったルミエレの大木の幹に背中をぶつけた。もう下がることはできない。

「ごめんな、クレール。お前だけでも逃げてくれ。」

アレクシは近くの草むらに隠れているクレールに向かって叫ぶと、ララプリンを睨みつけた。

「アレク!だめ!!いや!」

クレールの泣き叫ぶ声が聞こえ、アレクシは無理やり笑顔を作った。アレクシはすでに死を覚悟していた。

「あのな、クレール。俺、お前のことがずっと…。」

すると、突然アレクシの視界が白い光で覆われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Unforgiven 名無死 @little_robot

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ