泥中都市パピプリオ(短編版)

斧間徒平

泥中都市パピプリオ

 まるで地球の自傷行為のような超巨大地震だった。世界中の大地は完全に液状化し、泥となった。


 辛うじて地震と津波の淘汰圧とうたあつから逃れたヒトもいたが、泥上には「じゅう」をいとなめず、小さな丸いポットに全てを詰め込み生活するようになった。


 昼夜の寒暖差は巨大な泥流を生んだ。ポットは日没とともに泥中深くに没し、朝日とともに浮かび上がる。


 地震と津波は文明を一掃したが、繋がりを求めるヒトは、世界中7カ所でポットを集住させるに至った。誰が名付けたか、泥中都市パピプリオ。


 柔らかな朝日の中、とあるパピプリオを形成する無数のポットが、ポコポコと泥中から浮かび上がった。その様は草花の発芽に似ていた。文明と野蛮の端境はざかいに咲く徒花あだばな


 ある男は、この風景を「神の恩寵おんちょう」と呼んだ。別の男は聞いた。


「どう言う意味だ?」


「私の祈りが神に聞きとどけられている。神の恩寵により、毎朝、泥はを減らし、我々は太陽を見ることができる」


「泥流により我々が浮かび上がるだけだ。泥の量など変わらない」


「畏れを知らぬ者め!神の恩寵により我々は留まっている。醜い泥こそ動いているのだ」


 やがて、このパピプリオでは、泥動説でいどうせつが主流となる。まるで、かつての天動説のように。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

泥中都市パピプリオ(短編版) 斧間徒平 @onoma_tohei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ