第10話
私の両親はいつも忙しそうにしていたのを幼いながらに覚えている。
いつも家に両親は居なかった。帰って来たと思うとすぐにお風呂に入って綺麗な服に着替えてまたすぐに家を出でしまう。
『動物園に行きたい。』
とまだ幼稚園の楓は母にお願いをした。
『動物園?遠足で行けるといいわね。じゃ、良い子にしてるのよ。ママはお仕事なの。じゃあね。』
そう言われて寂しかったのをよく覚えている。
今度は『遊園地に行きたい。』
と父にお願いをした。
『遊園地?遊園地に行っても身長が足りなくて何も乗れないぞ。』
と父に言われて悲しかったのを覚えている。
動物園じゃなくてもいい、遊園地じゃなくてもいい。
母と父と一緒にお出掛けがしたかった。
――寂しかった。
全然私なんて眼中に無いのが嫌でもわかった。
お絵かきで賞をとっても
作文で賞をとっても
何をしても見向きもしてくれなかった。
まるで『私』なんて存在していないかのように。
小学校に上がる頃には両親は海外へと行ってしまった。
だから楓も両親のことは居ないものだと考えるようになった。
その方が心が少しは楽になる気がした。
だけど、小学校の帰り道、同い年の子供が親と話す内容が羨ましかった。
『今日の夜ご飯なにー?』
『うーん?カレーがいい?ハンバーグ?』
『ハンバーグがいい……!!』
楓には夜ご飯を問う相手は祖父母しかいない。
手を繋いで家路に帰ることもない。
それが現実だった。
居ないもの、と考えても現実はいつも辛かった。羨ましかった。妬ましかった。
それでも顔に出さず、態度に出さず、いつもニコニコとしていた。
そうすると周りの大人が優しくしてくれたから。
自分を作り、偽り、笑った。
これが上手な生き方だと幼いながらに身につけた。
ただただ、純粋にもっと両親に[関心]をもらいたかったのに。
___寂しかった。
ビー玉少女 くらげちゃん @kurage-0829
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