異世界マネージャーが仕事を受けてくれない

ちびまるフォイ

どうしても使えない人

「え!? この街に勇者様が来てくれるんですか!?」

「やったー! ついに勇者さまが助けに来てくれたのか!」

「こんな辺境の地のモンスター退治に来てくれるなんて!」


街はにわかに沸き立った。

これまで苦しめられていたあらゆる獣害を勇者が持ち前のご都合チートで

なんら苦労することなくやっつけると信じていた。


到着したのは二人組だった。


「はじめまして、私は勇者のマネージャーでございます。

 勇者に対しての依頼はかならず私を通すようにお願いします」


「えっと……なんかイメージ違いますね」


「イメージというと?」


「勇者さまってひとりで来るものかと思っていたんで」


「勇者さまのタイムスケジュールとキャパをマネジメントすることで

 パフォーマンスを最大化することができるのですよ」


「お、おお……?」


「それでご依頼は?」


「実は、この先の洞窟でゴブリンが巣を作り始めたんだ。

 これじゃ夜襲が怖くておちおち眠れないんだ。倒してくれないか」


「なるほど……」


マナージャーは手帳を開いてうんうんとうなづいた。


「NGで」


「NG!? なんで!?」


「勇者さまはちょっと以前にゴブリン討伐の際に苦い思い出がありまして

 それ以来、共演NGなんですよ。ゴブリンとは」


「いやいやいや! 共演ではないでしょう!?」

「とにかくNGで」


今度は村の町娘が悪い男たち(量産型)から逃げてきた。


「お願いです! 勇者さま! 悪い男に追われているんです! 助けてください!」


女はマネジャーをすっとばし勇者にがぶりよる。


「ヘヘヘ、姉ちゃんもう逃げられないぜ」

「おとなしくしてりゃ痛い目に合わなかったのによぉ」


「勇者さま!!」


「あ、勇者さまはそういった小さな仕事もNGなんですよ」


助けに伸ばした手へさっそうとマネージャーが食らいつく。


「いやNGって……どう考えても助ける以外の選択肢ないでしょう!?」


「あのね、勇者さまの日々のエネルギーには限界があるんです。

 限りある魔法貯蔵量をこんな見るからに弱そうな相手を倒すことに使って、

 最終的に世界の命運をかけた戦いで動けなくなったらどうするんですか」


「勇者って……」


「こういう小さい仕事を多くやると、これきっかけでどんどん舞い込むんですよ。

 "あの勇者ならなんでもやってくれる"ってね。肝心の本業がおろそかになるんです。

 いいですか、勇者の力をしかるべき状況で使うことがもっともよいのです」


「ひ、ひとでなしーー!」


「私はより多くの人間を救うための最善策を選んでいるだけです」


わずか数日で勇者へのあこがれは消え去り、

村人の間では持ち上げられて叩き落されたことによる不信感が募った。


そんなこんなで開かれた村での緊急集会。


「どうする? 勇者さまはなんでもやってくると思っていたが……」


「勇者が解決する前提でいろいろ依頼もストックしてきたんだがのぅ……」


「とにもかくにも、あのマネージャーが問題だ。

 あいつが仕事を管理している限り我々のようなクソザコナメクジのために

 ひと肌ぬぐような慈善事業はしてくれないだろう」


「そんな資金もないしのぅ……」


失意にくれていると村の占い師が叫んだ。


「窮地じゃああああーーーーー!!」


「おばば様、いったいどうしたんですか!? たしかに窮地ですが……」


「窮地を勇者に与えるのじゃ! そうして、逆に勇者を助けて借りを作るのじゃ!

 そうすれば、勇者はこの村のために仕事を断れなくなるのじゃ!!」


「な、なるほど!!」


村の人達は占い師の言葉に従って勇者とゴブリンを鉢合わせさせる作戦に出た。

邪魔なマネージャーは打ち合わせと称して勇者と離す。


「勇者さま、マネージャーさんからちょっと……」


「うむ」


「こちらについてきてくれますか?」


勇者をあれよあれよとゴブリンの巣へと誘導する。

受けてくれなかった依頼なのでまさかここがその場所だとは気づくまい。


「今度の仕事の依頼がここの洞窟の奥にある財宝探索ということで

 こちらに入ってもらえますか?」


「マネージャーはなんて?」


「えっと……そうですね……お、奥で待っているとのことです」


「俺に何も言わず?」


「ええ、我々もここは危険だとマネージャーさんには伝えたんですが

 反響設備がいいとかなんとかで入ってしまわれたんです。あははは」


勇者がゴブリンを一掃してくれればそれはそれでOK。

なにもしなければゴブリンが襲ってくるので、控えていた村の狩人たちが食い止める。


どっちに転んでも村には利益がもたらされる。


「あ! 勇者さま! ゴブリンが!!」


話し声に引き寄せられたゴブリンの大群が勇者めがけて襲いかかる。


「勇者さま! さぁ、早くどかんとやっつけてください!!」


「できない!」


「今さら仕事を選べる状況ですか! 早く倒してください!」


「俺が使えるのは補助魔法のひとつだけなんだよう!」


「使えねぇ!!」


予想以上の量でやってきたゴブリンに血の気が引く。

どこかで困ったら勇者がなんとかしてくれる安心感もあった。


「どうするんですか! このままじゃやられちゃいますよ!」


村で用意していた狩人たちも攻撃をしているが数が数なだけに処理しきれていない。


「剣とかあるでしょう! なんでもいいから斬ってくださいよ!」


「両刃剣は自分側に当たると危ないから持ってきてない!」


「じゃあなんでもいいから補助魔法でも使ってください! 今よりマシになればどうでもいい!!」


ゴブリンが混紡を振り上げたとき。


「発動せよ! トスト・ファラベーール!!」


勇者唯一の魔法が発動し、打ち合わせ中だったマネージャーを緊急召喚した。

マネージャーは現れた敵を一瞬で焼き尽くしてしまった。

洞窟に残ったのは黒い灰だけとなった。


「ま、マネージャー!」


「あれほど勝手に仕事を受けないと約束したではないですか」


あまりの戦闘力の高さに言葉を失った村人だったがやっと意識を引き戻した。


「あの、勇者さまへ依頼をすることはできなくても、

 マナージャーであるあなたへの依頼はできますか!?」



のちに、マネージャーは「子連れオオカミ」と呼ばれ村人に重宝された。

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