仮定の侵入者

 ゾンビがうるさいから耳打ちなんてしたくなるのだろう。雑念をシャットアウトするためにも、リモコンでテレビをオフにする。せっかく視聴していたのに結末を見ないままだが、悪友にネタバレされてオチを知っているから気にしない。

 世界中がゾンビだらけになって人類が滅亡して終わるB級映画だ。バッドエンドを笑い飛ばすのが好きだから見ていた。あんな冗談みたいな破滅が、その通りただの物語でしかないなんて素敵な事だ。

 安い世界が安い滅亡を迎えるのを思い浮かべながら、俺はゆっくりと呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


「誰かが入り込んでるかもしれないって言うんだろう。」

「そう……ですね。そういう事です。」

 耳打ちなんて小細工を使わずに小声で話す。

「空き巣だろうか? トイレに立て篭もる理由が謎だけど。」

「そうかもしれません。最近はこの辺りにも空き巣が出るらしいと回覧板で注意されていました。」

 細かい事を言うなら、留守でない今の我が家に忍び込む行為は空き巣ではないが、その情報は現在トイレに封じ込められている不気味な空気を更に粘性の高いものに変えるのだった。

「俺が調べてくるよ。君は携帯を持って、110番をスムーズに押す準備をしてろ。」

「でも、それは兄様が危ないです。」

「そうは言っても、流石にこの段階で警察を呼ぶのは躊躇うからな。ノブが変な具合に引っ掛かって回らなくなった事、前にあっただろ? 今回もその程度の話なのかもしれない。まずは俺にも現場を改めさせてくれよ。」

 そうやって安心させようと笑ったが、言い終わらない内に妹は俺の腕を掴んでいた。単なるポーズでない、真剣味のこもった力強い圧力が俺をトイレに行かせようとしない。こいつが希望的観測で納得するような性格じゃない事は知っていたが、こんな風にただ物理的に俺の行動を阻止するような態度に出たのは少し意外だ。

 何か言いたげながらも口に出すべきかどうかを迷っている様子の文月。繋ぎとめる手に少し力が込められたかと感じた直後、彼女は意を決したように口を開いた。


「ドッペルゲンガーだったらどうするんです。」

「うん。」

 中にいるのがドッペルゲンガーだったら。

 それはご対面したら死ぬだろうな、だってドッペルゲンガーとはそういうものなのだから。

 ならばもちろんトイレに近づくべきではないと答えるのが正解だったのかもしれないが、考えるべき疑点はそこではないような気がして、俺の喉からはただ生返事しか出てこなかった。

「ドッペルゲンガーだったらどうするんです。」

「ドッペルゲンガーだったら……大変だよな。」

「そうなんですよ!」

 俺の変わらぬ生返事の何が燃料になったのか、急に勢い込んだ文月は語り出した。

「兄様、こんな日が来るのではないかと思っていたのです。

 私たち一家は父様と母様と兄様と私、四人家族ですよね。ですが、私には時々それが信じられなくなる事があります……ただの四人にしては、家に漂う人の気配が少し賑やかすぎるのではないかと。具体的に言えば、どうも実際の人数よりも一人多いような気がするのです。

 一家揃って食事をしている時に部屋の外から聞こえる物音は壁のきしみでは無い気がします。家族が階段を登り下りする足音なんて、長く暮らせば誰であるかの判別が付くものですが、目の前で本を読んでいる兄様が階段を登っているはずがありません。兄様の旅行中に私が夢うつつで聞いた兄様の声、あれは本当に夢だったのですか?

 今のように兄様と家に二人でいると、そんな違和感が一層顕著に現れます。兄様、トイレの確認になんて行かないでください。あなたがそのドアを開けた途端に何処か取り返しの付かない所に連れていかれてしまうかもしれない、それを馬鹿馬鹿しいと思わずに、どうか信じてほしいのです。」


 やや早口にまくし立てるその取り乱し様は、年頃の少女に失礼でない言葉で形容するのがちょっと難しい程だ。多くの知人が「君の妹は歳の割に落ち着いていて賢い」と言うし、俺も自分でそのように思っていたのだが、それを今日限りで気のせいにしてしまうべきなのだろうかと悩む。

 しかしそうだ、そういえばそういう奴だ。ここ数年はそういう事が無かったから忘れてた。こいつは……そう、ちょっとそういう所があるのだ。

 そう、あれなのだ、つまり、こいつは、そう、実は想像力が豊かなのだ。


 こんなのどうすればいい、どう言ったものか。

 文月の言うとおりに誰もいないはずのトイレに鍵が掛かっているのなら、それは要確認事項だ。

 だが、その文月自身がどう考えても現実的とは思えないポイントを心配している、この絡まった状況。

 先に手を掴まれた時の力強さからも実感できるが、こいつは恵まれた身長に相応しく身体能力抜群であり、青春期の女子高生の寝言だと突っぱねて強引に押し進む事は難しい。俺はこれから、この目の前の少女の夢見がちな頭の中身を最大限尊重しつつ、しかし一方でそれを覆すのを目的として、長い説得を始めなければいけないようだ。

 それも、あのトイレの中に本当にいるとも限らない、そう、よくよく考えてみれば、まだ実在も確定していない強盗だか殺人鬼だかの脅威に万全を期する為だけに。

「兄様、そこのガラス戸を開けて庭に出ましょう、家から逃げましょう。家に不審者がいるようだと警察を呼べばいいのです、違ったら二人で一緒に怒られればいいじゃないですか。」

 そうなんだ、これから俺は実在するかもわからない仮定段階の脅威に用心するためだけに、妹の仮定以前に架空でしかない脅威を「考え過ぎだよ」と棚上げチックに笑わなければいけないんだ、いつドアを開いて襲ってくるとも限らない仮定の脅威への仮定の緊張感にビクビクしながら。その先に待っている現実が結局はドアの不具合だろうとやらねばならない、仮定の殺人鬼が殺しに来るのだから。

 いやしかし待てよ、本当に説得は大前提なのか。

 そもそも俺と文月の利害は一致しているじゃないか、トイレの中に危険が潜んでいると考えているのは同じなんだ。だったら、文月の言うように外に逃げて警察を呼べばいいだけの話なのかもしれない。中に潜むのがなんであろうと、物騒な事態に対応するプロの彼らに任せれば全て安心じゃないか。

 だが、いくら怖いからといって、仮空き巣や仮ドッペルゲンガーを理由に警察を呼ぶのはやはりどうなのだろう。仮とはいえ命の脅威にさらされているのかもしれないのだと考えれば、その判断が正解なのかもしれないが。

「何もなかったら、絶対警察に迷惑を掛けるな。後々で怒られるかもしれない、そうでなくても呆れられるかもしれないな。」

「兄様!危険が現実になってからでは遅いんです!」

 なんだろうか、この、俺の見通しの甘さを責めるような正論じみた叱責は。生きるか死ぬかの土壇場、そんな見栄を気にしている俺の方が聞き分けが無いとでも言うのか。譲歩すべきなのは俺の方なのか。

 違うだろう。

 だって、ドッペルゲンガーだぞ。目の前のこの子が気にしているのはドッペルゲンガーなんだぞ。

 もう、どうすればいいのかが本気でわからなくなってきた。ここで突然叫んでみよう、なんて意味不明で直情的なアイデアだけがやけに湧いてくる。

 そうだな、いいじゃないかもう。面倒になってどうでもいい気分になって、それを全て叫びに変えてぶちまけてしまえよ、きっと心の底からスッキリできるに違いないぜ。

 仮定の犯罪者も架空のドッペルゲンガーも知ったことかとばかりに叫べばいい、その叫び声をきっかけに全てがうやむやの内に解決される夢を見て叫べばいいじゃないか、年長者の余裕と無責任な咆哮が乗った天秤、後者に傾けて叫んでしまえよ。

 一切合切荷物を投げ捨て、根の根の感情目指して走れ、先にあるのがすなわちハッピー、そうとも正しくハッピーエンドだろうさ。


「でも、君はそんな子供じみた逃避行動に走る俺を見たくはないだろうね。」

「兄様?」

 何を格好付けた事を言っているのかはわからないが、妹の前で醜態を晒すのは好きでは無かった。駄々をこねても報われない、前を向いて頑張って初めて報われる、兄様というのは大体そんなものだと知っている。

「いいかい文月、よく聞いて。ドッペルゲンガーなんて、どうせ何処ぞのやぶ医者が考えた作り話さ。診断が難しかった時に『死因はドッペルゲンガーです』なんて言っておけば、楽で嬉しいだろう? そういうくだらない背景で作られたデタラメなんだよ、ちょっと考えればわかる事じゃないかハハハ。」

 前を向いて頑張りだせたのは良いが、口から出たのは毒を持って毒を制すようなデタラメでしかなかった。

 なんだか違うな。これで文月が納得してくれるようなイメージがまるで浮かばない。

「え、それは、そんな何の根拠も無い空想を語られても流石に困ります!」

 確かに。

「なら、巷に蔓延るドッペルゲンガー伝説が今言った空想よりも真実か?」

「はい。」

「はいじゃないよ、あれだって結局は作り話でしか無い。それにドッペルゲンガー自体の実在が疑わしいのに加えて、君の言う事にはもう一つおかしな点があるな。仮に本当に変な妖怪が家にいるとしても、それがそのドッペルゲンガーだと決め付けるのはおかしいだろ? 君がドッペルだと思っているのがぬらりひょんでは無いと、どうして言い切れる?」

 問う所がずれている気もするが、今のは割と大事なポイントかもしれない。本人がドッペルゲンガーだと思い込んでるからドッペルゲンガーになってしまう、話の本質はそういう事だろう。

「ぬらりひょんは兄様の気配を持ちません! 兄様、疑わしく思う気持ちはわかります。私もドッペルゲンガーなんて非現実的だとは思っているんです。こんな空想のような考えを真面目に話して、兄様に軽蔑されるの、本当は嫌です……。

 でもお願いです、聞いてください。私の言ってる事は根本的におかしくて、一刻も早く目を覚まさせなければいけない類の妄言である、それは解ります。でも今は私の話を聞いてください、馬鹿な妹だと一笑に付す前に、私が体験した初めの不可解を。先月の出来事……今と同じ、休日に私と兄様が家に二人きりだった時の話をさせてください。」

 恣意的ながらもこちらが理詰めで語っているというのに、自身の話に疑念の一つも生まれた様子は無い。

 いつもこうだ。こいつは形の上では人並みに理屈を口にして他人を納得させようとしたりもするが、こいつ自身は理屈なんて少しも重視しちゃいない。自分がフィーリングでこうと思ったら、それを目の前の事実で覆されるまでは意見を絶対に変えようとしない。こちらの言う事はちゃんと全て聞いてその妥当性だって理解しているはずなのに、にも関わらず自分の直感の方こそを正しいと思えるのは何故なのか。無知無能ゆえの思考放棄ではなく、全て受け止めた上でそれでも歯牙にも掛けない、この強固な歪の所以は何処だ。

「その日の私は寂しく自室に一人きりでした。机でただただ小説を読んでいた事くらいしか説明するところもない、そんな何も無い休日の昼下がり。けれども、扉を何枚か隔てた先の兄様もまた自室で本を読んだり勉強をしているのだろうと想像すると、なんだか不思議と安心感が生まれてくるのです。昼を過ぎてから一言も口を開かず、ただ同じ空間にそっと存在する兄様に思いを馳せるだけ。ゆっくりと日が暮れるだけのその日の事を私は気に入りました。」

「そうか、良い話だな。」

「良い話ではありません兄様。だって今はドッペルゲンガーの話をしているのですから。」

 話している内に汗ばんできたらしく、文月は俺の腕から手を放して一呼吸つく。

「ふう……あの、兄様、私が腕を放したからって隙を付いてトイレに行こうとなんてしないでくださいね。

 それで、それから私は最後のページまで読み終えて本を閉じました。正直に言えばそこまで独創的でもないありふれた小説だったのですが、同じようにありふれた休日の穏やかなムードを演出するのには大きく貢献したようでした。

 目を閉じて机に突っ伏すと、長い読書の姿勢で固まった身体がほぐれていきます。肌に感じる昼下がりの日常と、本を通じたフワフワとした空想の世界を身体の中で混ぜあわせ、しばし、内側に沈み込むようなまどろみを楽しんでいました。

 そんな風に積極的な行動から離れてじっとしていると、色々な事を考えるものです。本を読んでいる間は忘れていたような事もふと気にかかります。『そういえば兄様は今日は模試に出ている、今頃ちゃんとできているだろうかな』と」

 家で二人きりでは無かったのかい、なんて野暮なツッコミをしないのが兄様だ。手で握られていた場所の汗が冷えてきた。

「そうです。考えてみれば兄様は模試に行っていました。兄様は遠くでした。家に私は一人でした。扉数枚隔てた先に兄様はいないのでした。私は勘違いをしていたのです。」


「なのに、その兄様の不在という事実が全く実感できないのは何故でしょうか。そうです、扉数枚隔てた先に兄様はいないのです。いないのに、それがどうしても理屈でしか理解できないのは何故ですか。なんで私の感覚の中での兄様はまだこの家の中にじっと佇んでいるのでしょう。どうして壁の向こうから私の方をじっと見ているような気がするのでしょうか。


 そもそも私はなんで兄様がこの家の中にいると思っていたのでしょう。ようく思い出してみると、確かに私は兄様が朝に家を出ていった姿を見ていました。なのに兄様と家に二人きりの幻想を垣間見る。ありえないと思いますか?


 更にようく思い出してみるならどうでしょう。朝に玄関から出ていく兄様、それを見送る私。それが本当にその日の私と兄様との最後の邂逅だったでしょうか。出かけたはずの兄様と、何故かその後も数度顔を合わせていたとしたら。まさに模試を受けている最中のはずの兄様が何故かこの家にも同時に存在していて、その兄様に私は既に接していたのだとしたら。私が無防備に身体の内側まで浸かりきった素朴で温かい一日の根がそこにあるとしたら。


 私はそこから先を考えるのが怖くなりました。怖い……そうです、私はとても怖かったのです兄様。ようくようく思い出した結果、いないはずの兄様と確かに顔を合わせていたのだとしたら。私が素敵だと思った静かな昼下がりの意味がぐるりと逆転し、得体の知れない異世界の瘴気を纏うのだとしたら。


 考えるのをやめた所で震えが止まる訳ではありません。一人きりの心細さの話ではないのです、得体の知れない二人きりが耐えられないのです。


 私は携帯電話を持って家を飛び出しました。靴を履くのに失敗したので、裸足で飛び出しました。もう駄目だったんです、早く兄様に会いたかったんです。兄様の姿を見ないと、兄様の声を聞かないと、私は安心できなかった。どこの誰がどう考えてもその場に正しく存在する本当の兄様に触れたかったんです。


 兄様、あの時の事は本当にごめんなさい……。大事な全国模試を中断させるような駄々をこねて、悪い妹だと思ったでしょう。」


「それは……そんな事は気にしなくていい。不安になったら頼ればいいんだから。」

 どんなあり得ない理由だろうと、その不安だけは確かに現実なのだから……と言うと皮肉みたいになってしまうが。


 あの日の文月からの通話は酷く要領を得ないもので、とにかく向こう側の動揺だけが伝わってきたものだった。こちらが通話に応じて声を聞かせた途端に、やけに勢い込んで俺の様子を確認してくる。平穏無事を伝えるとほっとするが、どうしたのかと問えば言葉に詰まる。

 しかし、とにかくあいつが今すぐ俺に会いたがっている事と、模試の事を考えてそれを言い出せない事だけは察しがついた。

「理由も聞けずじまいだったが、まさかドッペルゲンガーにおびえていたとは……。だけど、ファーストフード店で落ち合ってからの君は落ち着いたように見えたぞ。あの時『きっと勘違いだった』と言ったのは本心からだろう? だから俺も、その日の事はそれで済んだと思ったんだが。」

「ええ、本心でした。兄様に会えて安心すると、途端に今までの事が全て妄想だったように思えて……正直、少し恥ずかしくなりました。兄の不在が寂しくて泣くような年でもないのに。だから電話を掛けた理由も言いにくかったんです、だってこれじゃあ小さい子供と変わらないじゃないですか。」

「今起きてる事だって、きっと終わった後に勘違いと思うだろう?」

「思いません。その日初めて恐怖を抱いてから今日に至り、私の心には確信が生まれました。」

 聞けば聞くほど、いやに根が深い。

 なるほどその確信はさっきから俺にも見えているが、まさかこれからずっとそれを抱いて生き続けるつもりじゃないだろうな。俺が一々それに付き合って逃げて、こいつが一々それの不安で憔悴する。そんなのは流石に受け入れ難い。


 だから、言葉の説得はこれまで。

 このまま話を続けていても、お互いの舌が乾くだけだとわかった。ドッペルゲンガーとその不安、無理矢理にでも今日限りで忘れてもらうしかない。

 どう変に思われようが俺を救おうとした文月には覚悟がある。対する俺には、それを無慈悲に踏み砕く覚悟が必要だろう。

 俺はリビングの扉を開け、廊下に一歩踏み出た。真正面には件のトイレ。取るに足らない妄想は、それを覆す事実によって消える。

「兄様!?」

 慌てて肩を掴もうとする文月の手は、その対象が更に二歩目三歩目と進んだ事で空振る。

 俺はそのまま壁に立てかけてある床拭き用のモップを手に取り、その柄でトイレのドアを勢い良く叩いた。叩いた俺自身でさえ驚くような大音に威圧され、それを制止する素振りだった文月が固まる。

「なあドッペルゲンガー、トイレの中にいるならさっさと出てこればいいだろうが! 反応をよこせ! 実在するなら、その実在を示してみろ!」

「兄様、何を馬鹿な事を! やめてください!」

 振り向き、文月と顔を合わせる。

 馬鹿げた事をやっているのは事実なので、多少心に来る言葉ではあった。

「ど、ドッペルが! ドッペルゲンガーが出てくるじゃないですか! ドッペルゲンガーじゃないにしても、泥棒が入っているかもしれないとは思っていたんでしょう!? なんでこんな軽はずみな行動を……!」

 確かにその辺の前提を考えれば賢い行動では無いだろう。だが、妄想に妄想を重ねて混乱している妹とは違い、俺の頭は一足先に冷えている。見えないドアの向こうに鬼を描くより、もっと観測が可能な部分に意識を向けるといい。

「トイレ用擬音装置が鳴ってない。だからトイレには誰もいるはずがないんだよ。」

「あっ……。」

 我が家のトイレには、人が入ったら自動で流水音を流す装置が付いており、その音はトイレ前の廊下どころかリビングにいても微かに聞き取れる。リビングで文月の長い話を聞いている最中、俺はそれが聞こえない事に気付いたのだ。

「もっとも、あの機械でお化けを感知できるかどうかなんて知らないけどな。ドッペルゲンガーはセンサーに反応しない存在なのだ……なんて言うかい?」

「それは……その可能性だって否定はできないです。ドッペルゲンガーは実体の無い虚像のような存在なのかもしれないから……。」

 そんな事を言いはするものの、文月の態度は先程と比べて明らかに歯切れが悪い。流石に、虚像が兄様の気配を持つなんてしっくり来ない話だからな。

 今ここにある妄想を半分でも砕く事ができたのなら、あとはこのドアも開けやすくなるというものだ。

「兄様……それでも、本当に……」

 さあこいつの鼻先に突き付ける、この中の無人の空間。

 このドアを開けた時、俺でなくドッペルゲンガーが死ぬ。

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