第5話

「旅立ちエンドは、エミリアが大陸行きの船に乗り込むところで終わるんです。新しい世界に向けて一歩を踏み出すのよ、とだけ語られます」

「そんな……エミリア様はそれでいいの?」

 お嬢様はあれほど恐れていらっしゃったエミリア嬢に、すでに完全に感情移入なさっているご様子だ。

「私はこの国での結婚ではなく、他にどうしてもやりたいことがあるので」

「それで、旅立ちを選んだの?詳しく聞きたいところだけれど……」

「そのうちお話しする機会もあると思いますよ」

 エミリア嬢はふんわりと微笑んだ。

 地位も資産も申し分のない殿方とのご結婚よりもやりたいこととは、一体何なのだろう。

「そうね、ぜひお聞きしたいわ。それで……続編であなたの行く末が語られるということ?」

「いいえ。最後のスチルには、港でエミリアとすれ違う少女がいるんです。彼女には本当に最後の最後、エンドロール後にたった一言だけ、台詞があります。『これから私の新しい生活が始まるのね』」

「新しい主人公……」

 お嬢様もエミリア嬢も、啓示のなかのご自分のことを、他人のように語られる。

「明らかになった当時もそう予測されました。そして続編の制作が発表されて、予測が正しかったことがわかりました。イルシュドラ様に関わってくる問題はそのあとです」


 ティールームにはすでにかなり長居している。お茶のお代わりや追加の注文を取りに来たりしないよう、店にはあらかじめ俺から告げてあった。

「覚悟はできているわ。聞かせて」

「はい。主人公は新しい少女、攻略対象の皆様は全員続投の上、新キャラが追加。そしてライバルとして、イルシュドラ様の登場も発表されました」

 やっぱり……とうめいて、お嬢様はテーブルに突っ伏した。

「私はおそらく、続編の情報は見てもプレイしなかったんです。ほかに知っている情報は、学園ではなく社交界が舞台となることだけ」

「もう、逃げるしかないわ……」

 あああ……一度諦めていただいた逃亡計画が再燃してる。

「イルシュドラ様が登場する以上、続編がエミリア旅立ちエンドの後の世界というのは間違いありません。ある意味、私がイルシュドラ様を続編の世界に引っ張り込んだとも言えます……」

 お二人は揃ってがっくりと肩を落とされている。ここはお力になって差し上げたいところだが。

「舞台は社交界とおっしゃいましたか?エミリア様」

「え、あ、はい。そこは情報にありました」

 つまり、その啓示はでのことだ。

「お嬢様、身分を捨てるような逃亡は看過できません。しかし、旦那様の許可の元のご旅行ではどうでしょう」

「旅行?でも……社交界全てが舞台になるなら、どこに行っても同じではない?」

 お嬢様の属される社交界は、上流であるがゆえに狭い。しかし、それはあくまでこの国に限定したらの話だ。

「グランドツアーに参りましょう!この国を出て、大陸を旅するのです!」

 

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俺のお嬢様は逃亡者!……と、本人がなぜか思い込んでいる。 居孫 鳥 @tori_1812

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