金
払わないという選択があった。
その選択を人間の心があったころ、なかなか出来なかった。
取引先を待たせて、待たせて、そんな段階になると、仕入に行き詰まり始めた。
立ち退き命令も下された。裁判所からの書類、弁護士からの書類、郵送物に目を通すことが、面倒になり僕は頭がおかしくなりそうだった。封を開ける気にもならないのだ。頭がおかしくなりそうとは言うが、僕はまったくおかしくならなかった。
自己嫌悪精神になる→しばらくすると新たな策を思いつき平気精神になる。
店には各取引先が待ち伏せしている。僕は、陰から事務所に入れるよう細工をした。落ち着く場所はないが、店を続けていくための小細工に結果的に僕は長けていたのだと思う。連鎖倒産が、あってはいけないので、大きな取引先に払わず、借金返済も行わず、小さな取引先から支払いは行った。
仕入に息詰まると店が荒れる。売るほどあるから、売るわけで、売るほどない心理状況になると徐々に荒れていくのだ。それでも、僕の店の品物の品質は顧客に必要とされているためなのだろう、需要はあった。
もちろんそんな状況だから、従業員は去っていった。皆、食わなきゃならない。
ところが、しぶとい従業員は僕と一緒に戦った。
人徳などではない、徳を積むための行動は皆無に等しく、自己嫌悪との精神的な戦いを繰り返していた。請求書が書棚にひしめき合い、こぼれてきた。置く場所に非常に困る。スキャンして全部捨てた。少しの快感が必要だった。捨てるにしてもシュレッダーにかけるのも面倒になっていた。
店に仕入先が来た。この仕入先とはすでに切れていて、今後の仕入は望めない。
だから僕からすると、今の心を失った僕からすると、特に用はない。店の従業員たちにも取引先が詰め寄る。僕は対処方法を伝えていたが、そんなことに対応できる従業員はあんまりいない。
社長とあたし 直根直太朗 @mnbst
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