11月の朝

11月の朝

 11月の朝、秋と冬の隙間は、例年よりもずっと冷たかった。

 夜を越え、日差しを受け入れぬ空間は、9時を跨ごうとも温もりを宿さない。無機質な冷たさだけが、空間を支配していた。空気は乾き、肌の潤いを奪い、少しずつ剥がれていく皮膚は、ぽろぽろと消費されていく我が人生の欠片であり、細胞は私の形跡を残しながらも、別れを告げていく。

 命とは、何に宿るのだろうか。心臓の脈動が公に語ることだけが、事実ではない可能性もある。距離がなくなり、可視化されていく世界は、情報の解像度を向上させていく一方で、内包される奥行きを抹消し、二次元的表現しかなさなくなりつつある。平面的な情報だけが世界になりつつある中で、今日も私のもとへ来客が来た。彼らは黒いスーツを着て、黒いネクタイをして、眉で富士を作る。立体的な情報源は、答えのない問いだけを私に与え、時間を摩耗させていく。回答を知る手段は、いつも身近にある。しかし、実行すれば回答を得る代償に、音を失う。

 答えを恐れた私は、扉を開け外に出る。天から我が頭上を刺す日差しと矛盾して、外は部屋よりもずっと冷たかった。

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短編集「綿毛」 木兎太郎 @mimizuku_tarou

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