第2話
暗闇のなか、パジャマに裸足で走ります。
最寄り駅の人気のない踏切を渡り、川沿いに土手を走ります。やがて、夜が明け次第に辺りは明るくなりますが、隣の駅まで急ぎます。小学生には、一駅もかなりの距離です。
そして、ようやく父の実家に到着し、玄関のドアを叩きます。
こんな日々が、続いていました。
ストレスからか、9歳で両目ともに視力が0.1以下になり腎臓を患いました。
食事を制限され、運動は一切禁止されました。
小学校の体育の授業は、私一人だけいつも見学でした。
直射日光を浴びる事も、医師から止められていたので体育の授業はいつも、朝礼台の下から見ていました。
飽きると、地面の蟻の行列を見て過ごしました。
父は、どこに行くにも私を連れて行きました。
幼い私は父に尋ねました。
「お父さんの小指は、何でないの?」
そして、父の背中から腕にかけて、鮮やかな絵が描かれていました。
後に知ったのですが、父はヤクザの幹部でしたが母との結婚で組をやめ、小指を詰めたのだそうです。
子供の頃の私は、お小遣いを鍵のかかる貯金箱に貯めていました。
おそらく、一万円ほど貯まった頃でしょうか。
いつもの両親の喧嘩が始まりました。
もちろん、深夜です。
喧嘩をすると、母は目についたものを何でも投げつけます。
私の貯金箱も投げつけられ、たまたま開いていた窓から外に出ました。
翌朝、外に行くと貯金箱は、すでにありませんでした。
とても、ショックだったのを覚えています。
でも、また貯金を少しずつ始めました。
小学校5年生のある日、父と二人で出掛けて家に帰ると、母も弟もいませんでした。
しばらくして、1本の電話がかかってきて私が出ました。
電話の向こうから、母の声がしました。
母は、私に指示を出しました。
お金を全部持って父に気付かれないように母の友達の家に来るようにと···
私が父と出掛けている間に、母は弟を連れて家を出ていました。
幼いなりに、一瞬「母は、私を置いていったのだ」と思いました。そして、お金が必要なので私の貯金を持って来るようにゆっているのだと。
今でも、私は母に一度捨てられたのだとゆう思いがあります。
父は私を可愛いがりましたが、弟には手を挙げました。弟が当時流行していた超合金のオモチャを私に投げつけ、私の頭に当たった事がありました。その時に父が弟をひどく叱り手を挙げたのを覚えています。
代わりに母は弟を可愛いがっていました。
弟には、おそらく父に可愛がってもらった記憶はないと思います。
話がそれましたが、そういった経緯があり、母からの電話の指示に悩みました。
まず、父にばれずにお金を持ち出さなくてはいけない。そして、一人で外に出る口実が必要である。
父とおもちゃで遊びながら必死に考えました。小学校5年生の私には、母からの指示は難題だったのです。
父が離れたすきに、貯金箱からお金を取り出す事に成功しました。戻ってきた父に、友達と遊んでくると告げ、家を出ました。
嘘をついている自分に罪悪感がありました。
嘘をつくと、母に殴られたのに今は母の指示で父に嘘をついている自分がいる。
幼い子供には、トラウマでしかありません。
ともかく、母の指示通りに母の友達の家に行きました。
母の第一声は、父にゆっていないかとお金を持ってきたかどうかの確認でした。
いまだに、この時の母の心情は分かりません。
母本人ですら、覚えていないのですから。
よく、やった方は覚えていないけど、やられた方は覚えているとゆうやつです。
ここから、私と弟と母の父からの逃避行が始まりました。
記憶の箱 @yokofumi
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