第5話未来なんて分からない。でもだから、いいのさ


「香枝ちゃん、今日は念入りにおしゃれしてない?」職場の仲間に、からかわれる。

「そんなこと、ないですよ~」いや、そうでもある。


高校を卒業してから私達はそれぞれの道を目指した。3年事に絶対会おうという約束のもとで。

進は、テニスの盛んな大学に進み頭角を現してきている。

そして、高校卒業してから………真一は彼の病気に特化した病院へ移転した。そして、今日2年振りの再会。

電話では時々、お互い近況報告はしているが・・・


「えっと、確かこの店よね」

携帯を片手に、地図を確かめる。緑の濃い太い字の看板は、初めて見るお店のイメージそのもの。イミテーションの葉っぱで、店の壁はほぼ埋め尽くされている。

扉の前に立つと、スッーと自動ドアは開く。

そして、客がまばらな店内を見回すと奥のテーブルからこっちこっちと、手招きをしている2人。

近づくに連れて、懐かしい顔が…

「なんだか、あれ涙が」

「やっぱり、泣き虫の所変わってないね」赤茶に染めた髪から、のぞく目や色白の顔は真一だった

「真一?変わったね。イメチャンして、すっかり逞しくなって」と、また嬉し泣きになる。

「お前は、保護者か」と、懐かしい進のツッコミ。短く横を刈りあげた髪型。スポーツマンらしい。お互い、3年間自分自身に悔いはないぐらい頑張ってきた。

真一は卒業後、1年半ぐらいは徹底的に薬療法とリハビリに通い、今では2,3ヶ月に1回病院に通うぐらいになっている。

そして、春から整体の学校に通う。

本人いわく「香枝先輩の後を、追います」と言って笑わせてくれた。そう、私は緑子の叔母さんのもとでリフレクソロジーを志している。少しでも身体や心のつらさを軽く出来たらと思っている。

皆、自分の道を目指して生きてる。よかった…。また勝手に涙がでる。

「ねぇところでさあ、彼氏とか彼女とかいないの?」と、真一がしんみりムードにちゃちゃをいれる。

香枝 と進を見て言う。二人揃って「いるわけないじゃん」

「なんで、ここだけ 息ピッタリなの?!」とまた真一は笑い転げる。

「じゃあ、僕は香枝 ちゃんの彼氏に立候補するね」

「えっ、ええー!!」と、私。

「いいのか?おまえ、こんな鈍感な奴で。いくらでもおまえなら、もてると思うけど」と進。

「うっ、鈍感ってどういう意味よー。それになんであんたが返事してるのよ。」

「普通女子って恋話で出来てる気がするけどさ、今までお前から1回もそんな話ないもんなー」


確かに、言われてみたら・・・。

香枝は少し前の話で、職場の仲がいい男女4人で遊園地に行った話をする。

遊園地からの帰り道、同僚の美佳が前から好きだった先輩とキスをしたと打ち明けられた時。

職場で妙に2人が気になって居心地が悪くてと言うと。

「お前さー、そんなの普通にあるでょ。て、いうか。香枝とベア組んだ男とは?」

「後輩の男の子だから、仕事の心構えとかいろいろアドバイスをしたわ」と誇らしげに香枝。

「お前らしいけど、くくっ」

「その男、気の毒~」と二人して妙に意見があう。

「?!」の香枝に、何故か彼女いない歴3人のはずなのに…。

その反応に納得がいかない。

まあ進は、上3人が姉さんだから女心は理解出来るかもしれない。そのいかつい外見はおいといて。真一も、子供の頃から病弱で周りに気を使いすぎるところがある。

ってことはやっぱり私が一番鈍感ってこと?

進が「お前って本当に、わかりやす~」とちゃらける。


三人との楽しい時間は、あっという間に過ぎた。実家から通っている私以外は二人ともトンボ返りだ。

帰り道、着メロが鳴って慌てて取る。

「あっ、僕だけど。今、まだ進むと一緒なんだ。次のデート今のうちに予約しとけといわれて…」


「うん…。じゃあ、一番最初に行った遊園地行かない?」


「いいよ。でも、今回は二人だけだよ」


「デートなんでしょ?」


「あ、ありがとう。また、メールするね」受話器越しに、真一のやったあーという声が聞こえる。


「よかったなあ。まったく二人とものかかるやつらだ」と受話器越しに割り込むように、進の声がきこえてくる。



こんな日か来るなんて、三人とも出会った頃は思いもしなかった。


未来なんてわからない。でも、だからいいのさ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かつ丼とサラダ クースケ @kusuk

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ