主人の呟き

糸花てと

第1話

 よく晴れた昼下がり。

 つけていたテレビ、どこも内容が同じに見えて、電源をオフにした。トラックが通った。自転車が通った。小学生の声……そっか、早く帰れる日だね。


 そうだ、夕飯。どうしようか。何でもいいって言うのに出したら、これ? みたいな顔が、声にされるより腹立つ。


 ふーっ、いけない。落ち着いて。そういやアプリで簡単にメニューが決められるとか、テレビで見た。それを使えばいいのよ。

 アプリの評価も良いし、デザインも見やすい、これね。……ん? このマグカップ、うちのと似てる?


会社でやったのかな、チャーハン作るんだ、はじめて知った。動画も載せれるんだ、へぇ~……カッコいいってちやほやされてる。主人の呟きは、普段見てる姿とは違って。


うちでもやってくれないかな……。





「ただいま」


 帰ってきた。できたての夕飯、本人が食卓についたら盛り付けるだけ。部屋に入って部屋着になって、汚れた衣類は洗濯カゴ。


「良い匂いだな」


 十分、十五分で終わったわね。


「お料理のアプリ見ながらね、やってみたの。どうかしら?」


 熱さからか、柔く噛んだあと、咀嚼を繰り返し飲み込んだ。


「ん~、うまいな。俺より甘めの味付けなんだな」

「あなた作ったことあるの?」

「え……あ~、会社で、遊び半分でだよ」

「あなたの料理、人気みたいね。このページ、そうでしょ?」


 焦ったりしなかったら違うんだ、で済んだのに。プロフィール画像、付き合った当初に買った色違いのマグカップ。

 安めのプラスチック、使ってるうちに色が落ちてきちゃって、写真と同じ場所の模様がなくなってた。


「奥さん方と仲が良いみたいじゃないの。すごい褒められちゃってさ」

「べつに、そこの中での関わりだから、いいだろう? 互いに相手は居るわけだし」


 浮気で問いつめてなんか無くて、嫉妬、その考えは一切無しなの? それに、相手が居なかった場合、チャンス有りとか思ってるわね。


「あなたのフォロワーさんと仲良くさせてね。いつも主人がお世話になってます~、ってね」

「おいおい、あまり掻き回さないでくれよ?」




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