殺人の報せ

「もしもし。おお、杉山か……。なに!殺人だと!?」

 外にはぎりぎり漏れないように調整した俺の声が、小さな交番のなかで響く。

 ついさっきまで「この町はほんと平和ですねー」と言いながら昼飯のざる蕎麦を啜っていた森田が、微かな驚きを含んだ顔で俺を見た。

 そんな森田を横目に俺は続ける。

「遺体がバラバラ!?」

 いかにも予想外の出来事だというように、かつわざとらしくならないようにリアクションをしたつもりだったのだが、森田が疑いの目を俺に向けていた。

 こいつ、まさか気付いているのか……?

「場所は?……長瀬間橋の近くだな。すぐ行く!」

 森田が呆れた顔で俺を見ている。立ち上がることもせず、椅子に深く座り直した。

「どうした森田!殺人だぞ!」

 森田の口元が徐々に緩んでいく。

 やはり見破られていたか。なかなか鋭いやつだ。

 いや、まだ巻き返せるかもしれない。

「お疲れさまでーす。パトロール終わりましたー」

 くそっ。このタイミングで杉山が戻ってくるなんて。打つ手無しだ。

 背もたれに身体を預けた森田が、頭の後ろで手を組んで言った。

「隈田さん、もうさすがに引っかかりませんよ。電話なんて来てなかったですよね?暇だからって、縁起でもないドッキリやめてくださいよ」

「ドッキリ?」と言いながら杉山が自分の席に腰掛けた。俺と森田を見比べると、なにやら納得した様子で言った。

「あ、隈田さんまたやってるんですか。外には落とし物ひとつ無かったですよ」

 杉山の整った顔と綺麗な制服が柔らかな午後の陽射しに包まれていた。

 この町は今日も平和だ。





 <了>

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ショートショート小説集 こむち @hashi-tomo

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