第5話 ハッピーエンドの黒幕

突然思いがけないことを言われた綾瀬はびっくりして固まった。しばらくしてからようやく動けるようになった綾瀬はまだ驚いていたがなんとか返事できるようになった。


「正直、突然過ぎてなにがなんだか良く分かっておりませんの。 ですが、この数日間はとても楽しかったですわ。 こういう日々も良いかもしれないとは思いました。 ただまだ出会って数日なのにお付き合いさせていただくというのは……。 なので、少し考えさせていただけませんか。 」

「確かに! それはそうだよね。 俺はそんな真面目な花恋さんが好きだよ? いつまでも待つから、花恋さんが良いと思ってくれるまで返事は聞かないことにする。 それで付き合っても良いかなって思ったときに返事してほしい。 良いかな? 」

「もちろんですわ。 それまでまた友人としてよろしくお願いします。 」


そう言って綾瀬は朗らかに笑った。神成はその笑顔を見て聞きたいことを聞いてみることにした。


「花恋さんはもう狩野のことは未練無くなった? 」

「ええ。 狩野様と神愛さんには幸せになっていただきたいですもの。それに……私も過去のことに囚われてばかりではいけませんから……ね? 」

「そうだよね! さっすが花恋さん! 俺も早く振り向いて貰えるように頑張らなくちゃね。 じゃあそろそろ遅くなるし、帰ろっか。 もうだいぶ暗いから、花恋さんの家の近くまで送るよ。」


綾瀬の家の近くまで来ると、神成が言った。


「じゃあまた明日ね、花恋さん。 」

「ではまた明日学校でお会いしましょう。 失礼致しますわ。 ここまでお送りいただいてありがとうございました。 」


綾瀬は丁寧に一礼した後に去っていった。その後ろ姿を見ながら神成は呟いた。


「ほんと、偶々サロンを覗いていて、狩野が綾瀬を泣かしたなんて端折った説明をファンにした気まぐれな人のおかげだよなあ。 ……さてと。 俺もそろそろ帰ろうかな。 」


伸びている自分の影を眺めながら自分の家に帰っていく神成の鞄でかすかにスマホが振動した。

神成がスマホを取り出して見ると一件のLINEの通知が来ていた。通知に表示された名前は『pre-shinji』。


『良い雰囲気だったじゃない。おめでとう。』


神成はぱっと顔を上げて辺りを見渡した。 そして周りには誰もいないことを確認するとまじまじと画面を見つめた。


「……まさか、ね。 」


そう呟いてスマホを鞄にしまうと今度こそ家に向かって歩きだした。さっきまで伸びていた影は少し縮んでいる気がした。

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ハッピーエンドの黒幕 結城愛菜 @mint169

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