第4話 浅葱色の桜が舞う日

「狩野、花恋さん。 さっきも言ったけど、神愛には家で寝込んでるって聞いて心配しに来たってことにしてね? 約束だよ?」

「もちろんだよ。 」

「ええ、分かってますわ。 」

「ふう、これで怒られずに済むなあ。 良かった良かった。…… あ、ここだよ。」


綾瀬達はそう言って立ち止まった神成につられて立ち止まり神愛の家を見た。

そこは、普段綾瀬が暮らす家とは違って、こぢんまりとした和風の家だった。


「さあ、行こうか。 」


神成はすたすたと歩いていき、それを見た綾瀬と狩野は顔を見合わせてから慌てて神成が待っている門前に向かった。




「え、みんな来てくれたの? 狩野くんもありがとうね! 花恋もお見舞いに来てくれてありがとう! こんな美味しそうな果物初めて見たよ~皆で食べよう!」


神愛の部屋へ行くと、ベッドの上でスマホを触っている神愛がいた。花恋達が入ってきたのに気づくとスマホを置いて、驚きながらも嬉しそうに笑った。


「あ、神愛さん。ごきげんよう。突然お邪魔して申し訳ないですわ。 もう体調はよろしいのですか?」

「うん! もう、全然平気!! 皆心配かけてごめんね! 明日にはまた学校行くから!」

「そうか、それは良かった。 」


そんなとりとめの無い話をしているうちにもうすっかり日が暮れそうになっていた。


「あら、もうこんな時間ですわ! そろそろお暇しないと。 明日来られるのをお待ちしておりますね。 」

「あ、ちょっと待って。 ……綾瀬、神月、ちょっと先に帰ってくれるかい?えっと、神月……神愛の方に話があるんだ。」

「んー、だと思った。 いいよ、俺も花恋さんに話があるし先に帰るよ。 じゃあ、行こっか花恋さん。 」

「えっ? えっと、……分かりましたわ。 それではお先に失礼しますわ。 」


そういって花恋は神成と共に神愛の家を出た。さくさくと歩いていく神成を花恋は追いかけた。


「あの、どこに行きますの?」

「まあまあ見てなって。 早くしないと間に合わなくなるから、急ごう。 」


やってきたのは神愛の家の近所の公園だった。神成が花恋にベンチに座るよう促した。花恋がベンチに座った瞬間、神成のスマホから話し声が聞こえてきた。




『神月……実は君が休んでた理由、君の従兄から聞いたんだ。 まずは僕のせいですまなかった。 』

『え? あの子、話したの? 内緒にしろって言ったのに! 』

『僕が勝手に聞いたんだ。 怒らないでやってくれないかな? ……それで、今回のことがあって考えたんだ。ほんとはずっと前から言うつもりだったんだけど、なかなか言えなくて。今回のことはずっとはっきり言えなかった僕の責任だし、ちゃんと言わなきゃと思って。 聞いてくれる? 』

『どうしたの、改まって。もちろんいいよ、何?』

『ずっと神月……神愛のことが好きだったんだ。 僕の婚約者になってくれないかな? 』

『……え? え? どういうこと? 花恋のことが好きなんじゃなかったの!? ずっと三人で一緒にいたけど、二人はお似合いだと思ってた。 付き合ってるだろうから、私は邪魔なんじゃないかとか思った時もあったよ。 私は『サロンで狩野が綾瀬を泣かした』としか聞いてなかったから、てっきり喧嘩したのかと思ってたんだけど……』

『ずっとそう思ってたの? 僕が綾瀬と付き合ってるって?』

『だって、家柄的にも釣り合ってるし、お似合いの美男美女だし。そりゃ、あたしだって狩野のこと好きだったけどさ、花恋がいると思ってたからまさか告白されるなんて考えたこともなかったんだけど。 』

『え?僕のことす、好き……って言ってくれた?』

『告白しといて何言ってんのよ。あたしからすると狩野も花恋もほんと自己評価低いのよ。 もっと自信持てば良いのに。 ってことで、よろしくね、狩野。いや、一就くん? 』

『あ、うん、よろしく。 』

『ね、こんなことが起きるなんて思ってなかったからびっくり。 実はね、私の予想なんだけど、今日神成が花』



ピッ。


「さて、花恋さん。 我慢しなくて良いんだよ。 泣いても良いんだからね? 」


神成は隣に座って静かに涙を浮かべる花恋に言った。


「い、今のって私たちが出たあとの会話ですの? 」

「花恋さん、正解。 実は今日お見舞い行ったときにこっそり通話状態にした僕の二台目のスマホ、置いてきたんだよねー! だって狩野の顔見てたら、絶対告るじゃん! 聞かなきゃ損だと思って放課後合流するまでの間に準備したんだよ。」

「そ、そうでしたの……。 あれ?それではそのスマホは神愛さんの部屋に置いたままになるのではないですか? 」

「え? あ。 ……気にしない、気にしない。 多分神愛そんなの気づかないよ、うん。 それよりさ、俺も花恋さんに言いたいことあるんだよね。 」


神成が綾瀬を見つめて言った。綾瀬は首をかしげた。


「?? なんですの? 」

「花恋さん、俺と付き合って欲しい。 ずっと前から気になってたけど、狩野さ……狩野がいるから諦めてたんだよねえ。 でも花恋さん振られたでしょ? ならチャンスはあるかなと思って。 ダメかな? 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る