雪の国の少年ポスタと犬のワンス

小鳥遊凛音

雪の国の少年ポスタと犬のワンス

ある雪国に1人の少年と1匹の犬、その家庭を支える1人の母親が暮らしていました。

少年の名前はポスタ、そして犬の名前はワンス、母親はメティファ・・・

父親が早くに他界し、メティファは家庭を支える事に執着していました。

けれど、温かい性分でポスタたちを大切に育てていました。

ポスタもまだ差ほどの年齢では無く、この先も家庭を支えていかなくてはならない状態でありながら、仕事と家事に追われる毎日・・・

仕事から疲れて帰って来ても家事が待ち受けていた。

でも、ポスタの笑顔、ワンスの元気そうな姿を見ていると疲れなど一気に吹き飛んでしまうと早速夜ご飯の準備に取り掛かるのでした。




「ねぇ、ママ?今日のご飯は何?」


「ワンワンッ!!」




ポスタとワンスが期待を胸にワクワクとしながら晩御飯のメニューを聞いて来た。




「きょうは、シチューよ?」




そう答えるとポスタたちは喜びはしゃいでいた。




家族揃って夕食、そして後片付け・・・




「ママ、疲れているでしょ?後片付けはボクがするよ!休んでて?」




晩御飯の時はただひたすら作ってもらうのを待っていたポスタも後片付けは自分から率先して母親に申し出た。

きっと、母親が疲れている事を把握しているのだろう・・・




「ポスタも疲れているでしょ?今日は寒くなるわ?先に寝ていなさい?」




そう・・・今日は1年の内でも特に冷え込む夜になる・・・早目に暖かくして眠る様にポスタたちには伝えたのだった・・・




ポスタとワンスはいつも一緒だ!

ポスタが眠ると、そのベッドの真横でワンスも一緒になって眠る。




「ママは優しいし今日も後片付けを手伝うって言ったけど、寒い夜になるからって言って先に休ませてくれた・・・僕も大きくなったらもっともっとママの事を助けてあげるんだ!!ワンスも手伝ってくれるよね?」


「ワンワンッ!!!」




ワンスも「勿論だよ!!!」と言ってくれているみたいだとポスタは更にやる気を持ったのだった。




翌朝になり、目が覚めたポスタたちは、朝ご飯を食べにいつもの机に座ろうとしていた・・・

けれど・・・そこにメティファの姿は無かった。

心配になってメティファの部屋に向かったポスタとワンス。




♪コンコンコン・・・




「ママ?朝だよ?ご飯はまだ?」


「ワンッ!!ワンワンッ!!!」




返事が無かった。急激に怖くなったポスタは扉を開けてメティファのベッドへ駆け寄る。




「ママ?大丈夫?ママ?ママ?・・・」


「ワンワンワンッ!!クゥ~ン・・・」




何度も呼びましたがメティファからの返事は無く、急いでポスタは電話を掛けて救急車を呼び病院へ連れて行ってもらいました。




街外れにあった病院・・・幸いにも雪はまだ積もっておらず間一髪で病院へ運ぶ事に成功。

けれど、メティファは、元々体が丈夫な方では無く、更に大切なフィアンセを失ってからと言うものポスタやワンスの面倒や仕事で家庭を支える事に必死だった為、かなり体力の消耗を余儀なくされていたのでした。




「先生?ママは、助かったの?」


「あぁ・・・何とか間に合ったみたいだ!でも、当面の間は無理は禁物だよ。君はしっかりとしているから大丈夫だろうと思うけれど、ママに頼らず、しばらくの間頑張れるね?」


「うん!ボク頑張る!!ちゃんとママがいなくてもやれるよ?」


「そうかい・・・なら安心だね!そこにいるワンちゃんの為にも頑張るんだ!」


「うん!!」




こうして、当面の間入院をする事になったメティファ・・・だがこの時既にメティファの余命は1年程であると医師は確信していたのだった・・・

こんなに幼い子供にあまりにも酷な事を告げる事など出来ず、医師はこの様にオブラートに包み込んだ様な言い方をしていた。




しばらくの時が流れ、メティファも起き上がれる状態にまで回復を見せた。

精神的にも落ち着いたであろう頃合いを見計らって医師は詳細について説明する事を決心したのである。




「メティファ・・・あなたは1人で家族を支え続けていると言っていたね?パートナーは既に他界されたと聞いたけれど・・・」


「はい・・・3年程前に他界して以来私が家族を支えて来ました。」


「そうか・・・ここまでよく頑張って来たね・・・それでだね・・・大変伝えにくい事があるのだけれど・・・」


「余命ですね?」


「そうか・・・君は既に分かっているみたいだね・・・」


「はい・・・元々体が丈夫では無かったのですが、時折倒れそうになる程の痛みを伴う事がありました。丁度あの人が亡くなった直後からでした。病院に行く事もままならない状況の中で何とか耐えて来ましたが、この間私が倒れた時はダメでした・・・」


「そうかい・・・確かにあの日は寒さが1年で一番強い夜でもあったね・・・」


「それもありますが・・・あの人が亡くなった日の夜の様な寒さで、とても怖かったです・・・」


「ふむ・・・ひょっとするとパートナーの想いも強く出てしまったのかもしれないね・・・」


「私の事は良いのですが、あの子たちの事が・・・心配で・・・」


「そうだろうね・・・先に述べる事では無いだろうが、私で良ければあの子たちを引きとらせてもらう事は出来ないだろうか?」


「先生が!?でしょうか?・・・」


「私の所は子供がいない、パートナーが産めない体になってしまったからね・・・随分と行き詰った生活が続いたよ・・・私も愛しているが為に色々と対応を考えたけれど、現在に至っても未解決のままなのだよ・・・」


「先生になら、お願いさせて頂いても・・・」


「まぁ、これはあくまで私の勝手な願い・・・君の本位もあるだろうから君がもし私に預けても良いと言ってくれるならその日を待っている事にしよう・・・」


「はい・・・その時は宜しくお願い致します。」




そう言ってその場の空気は何とか維持出来た・・・

医師が余命1年と告げるとメティファは笑顔で応じたのだ!!




「ワンス?もう直ぐ夕ご飯だから待っててね!」


「ワンワンッ!!」




ポスタは頑張っていた。

自分だけでも精一杯の事なのにワンスの為にも色々と頑張った。




♪コンコンコン




来客の様だ・・・扉を開けるとお隣さんが夕飯を分けてくれた!!




「これ・・・良かったら食べて?色々と大変でしょ?早くママが退院出来ると良いわね!」


「わぁぁぁ!!ありがとう御座います。ママが帰って来たらお返しも・・・」


「良いわよ!そんな事は!それより何か困った事があったら遠慮無く言ってね?いつでも協力するから♪」




優しいお隣さんがいてくれて本当に良かった・・・

ポスタは嬉しさで涙が溢れて来た。




「ワンス?お隣さんが夕ご飯分けてくれたよ?一緒に食べよう?」


「ワンッ!!ワンワンッ!!!」




いつもワンスが喜んでいる時の鳴き方だ!!

きっとワンスもポスタたちが抱いている感情を持ってくれているのだとポスタは確信したのだ!!




何とか毎日頑張って過ごして来たポスタとワンスにもようやく喜びを痛感出来る日がやって来たのだ・・・




「ただいま~・・・」


「ママ・・・ママァァァ~!!!!!!!!!!!!」


「ワンワンワンッ!!!ワンワンッ!!!!!!」




明るく家の扉を開けて入って来たのは待ち焦がれていた母親の姿だった!

倒れる直前より少し痩せこけていた頬や肌の色も少し白くなり少々心細い感じもあったけれど、自分の母親が無事に帰って来てくれた姿を見たポスタは心の底から喜び、嬉しさの余り泣き出してメティファに抱きついたのだ!!




「ごめんね?・・・ごめんね?・・・」




そしてメティファも長らく家を空けてしまう事でポスタたちに迷惑を掛けてしまった・・・

そう言う思いからただひたすら謝り続けた。

けれど、メティファはそれだけでは無く、自身の命がそう長くは無い事についてもお詫びの気持ちがより強く出てしまう。




「ママ?・・・そんなに謝らないで?ボクももっと色々とお手伝いが出来たら良かったのに・・・ごめんね?これからはもっともっとお手伝いするから・・・だから、ママもいっぱい休んでもっと体、良くなってね?」


「ポスタ・・・・・えぇ!勿論よ!じゃぁ、色々と教えて行かないといけないわね!」




こうして母親が家に戻って来てからは、ポスタは率先して家事を覚えて行った。少しでもメティファが楽になれる様頑張った・・・




夏が過ぎた頃、既に1人で家事を軽くこなせる程にまで成長したポスタ、ワンスも相変わらずポスタにベッタリだった。




「ママ?きょうは、サラダをいっぱい作ったよ?ドレッシングもお手製だから食べて?」


「まぁ・・・沢山作ってくれたのね!ありがとう♪ドレッシングも・・・うん♪良い香りね!これなら食欲もとても出るわ♪」




メティファの余命は1年と宣告された・・・だが、既にこの時半年程が経過しており、日々日々弱って行くメティファ・・・ポスタはきっと気付いているのかもしれない・・・メティファの残りの命がどれくらいであるのかを・・・そしてまたワンスも弱って行くメティファの姿を見て心配になっている事だろう・・・




「うん!美味しいわ♪・・・ポスタ?これならもう1人で生きて行けるわね?」


「うん!ボク1人でも大丈夫だよ?・・・でもどうしてそんな事言うの?ママ・・・いなくなっちゃうの?」


「ううん!そうじゃないわ?・・・こうやって家族も年が経つに連れてあなたもそうだと思うけれど、結婚をして、新しい家庭を築く事になるのよ?私もそうだった様に・・・」


「何だぁ!そう言う事か・・・うん!ボクもっともっと頑張って新しい家族が出来たらママみたいに辛い目に遭わない様にするよ!」


「ポスタ・・・」




あまりにも強く大きくなった息子の姿と言葉を感じ嬉しさの余り抱き締めていた。

けれど、それと同時に胸が苦しくなっていた・・・この幸せなひと時も後わずかなのだろうと・・・




やがて秋が訪れ、メティファは起き上がる事すらままならない状態になってしまい、ポスタは精一杯家族を支えようと頑張っていた・・・




「ママ?今日の夕ご飯は、ママがボクに初めて教えてくれたシチューだよ?食べられそうかな?」


「ワンッ!!ワウゥゥゥン~!!」


「ワンス大丈夫よ?・・・ポスタ?ありがとう!頂くわね?」




そう言ってメティファはベッドの上で起き上がりポスタが作ってくれたシチューを口にしたのだった・・・




「私が帰って来てから初めて教えた料理だったわね・・・うん・・・美味しい・・・自分の料理を自分で食べて美味しいって言うのは変だけれど、教えた料理を作ってくれてそれを食べて美味しいって思うのは不思議じゃないわね・・・うん・・・美味しいわ・・・本当に・・・ありがとう・・・ポスタ?・・・」


「それは、ママがちゃんとボクに教えてくれたからだよ?ボクはその通りに作っただけだから!」




お世辞でも何でも無い。素直な自身の感想だった・・・

ポスタは割と言う事ははっきりと言う子である。

けれど、無理に口にしようとしている母親の姿を見ていると胸が痛む思いであった。




「ママ?無理しないでね?食べられなかったらボクが食べるから・・・」


「ううん!少し起きているのが疲れちゃっただけだから・・・これは大切な私の晩ご飯だから・・・」




自分の為に作ってくれた、初めて教えてあげた料理・・・それを残すなど考えも出来ない・・・メティファは全部食べ残す事なく口に運んで行った。




そして季節は過ぎて行き、冬になった。

メティファが倒れてからおよそ1年近くが経ってしまっていた・・・

メティファは更に体調が悪くなり、直ぐにでも病院へ運びこまれてしまうのでは無いかと思う程にまでなってしまっていた・・・




「もう・・・1年か・・・そろそろかな?・・・あなた?もう少しだから待っていてね?私がそっちへ行ったら一緒にポスタたちを見守り続けましょう?」




生前撮った写真がフォトスタンドに添えられていた・・・

そのパートナーの姿を見つめながらメティファはその様に言った。




「さて・・・あの子たちにお手紙を書いている途中だったわ・・・続きを・・・書かなきゃね!」




更に日が過ぎて行き、真冬の雪が積もる季節・・・




「ママ?朝ごはんだよ?食べられそうかな?」


「ワンッ!!クゥゥゥゥゥン!!!」


「ごめんなさいね?・・・きょうは無理かもしれないわ・・・」




遂にポスタが作った食事すら喉を通らない状況にまで病状悪化は進行してしまっていた。




「ううん!また食べたくなったら言ってね?」


「ありがとう・・・本当に・・・ごめんなさいね?・・・」


「病院呼ぶ?」


「いいえ、大丈夫よ・・・病院には行きたくないの・・・家で大丈夫だから・・・ね?・・・」




病院に戻った所で不治の病である事に変わりは無い・・・残りの人生を家で家族と共に過ごしたい・・・メティファの強い願いでもあった。




「きょうは、少し辛いお話になるかもしれないけれど、ちゃんと聞いて欲しい事があるの・・・聞いてくれる?」




強い決意を持ち、メティファはポスタとワンスに大事な話があると話を聞いてくれるか確認を取った。




「うん・・・分かった!・・・ちゃんと聞く・・・」


「ワンワンッ!!!!!」




ポスタもワンスも覚悟をした面持ちでメティファの話を聞こうとしていた。




「先ずは、あなたたちに謝らなくちゃいけない事があるの・・・それは・・・」




話をどの様にオブラートに包み進めるか悩んだが、ポスタたちは覚悟を決めた様な表情であった為、少しずつ口にして行く事にした。




「ママは・・・もう直ぐ、死んじゃうの・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」




どうやら直接聞かされた為にショックは拭えないが、少しは察していた様な気もした。




「1年前にママ、倒れて病院に運ばれたけれど、あの時に余命を受けていたの・・・1年だった・・・」


「うん・・・・・・」


「ワウゥ?」


「それから1年が過ぎようとしているけれど・・・見ての通り、ママも、もう立ち上げる事も辛い状態になっているわ?」


「うん・・・・・・・・」


「ワンッ!!!!」


「パパが死んでしまって、ママも死んでしまえばあなたたちはどうなっちゃうのか・・・パパが死んでからあなたたちを守るのは私1人になってしまった・・・だからママはここで死んじゃいけないってずっと考えていたの・・・でも・・・やっぱりダメだったな・・・」


「きっと、ママは天が必要としてくれているんだよ!・・・とっても優しくて・・・強くて・・・皆がママを必要としているんだ・・・だから、ママは、ボクとワンスだけが占領しちゃいけないんだよ・・・うん!だからパパの所へ旅立っても優しいママでいてね?」


「クゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!」




ポスタのその言葉を聞いた直後、メティファは大泣きをしてポスタを抱き締めた・・・




「ごめんね・・・ずっと辛い想いをさせちゃって・・・本当に・・・ダメなママでごめんなさい・・・」


「辛くないよ?とても幸せだし、皆に誇れるママだよ?だから泣かないで?」


「ワンワンワンッ!!!!!!!クゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!!!!」




ワンスも涙を流しながらベッドの方へすり寄っていた。




残りの命を自宅で過ごしたいとの希望もあり、ポスタは病院は呼ばず自宅にメティファを留める事にした。




「ママ?体調はどうかな?ご飯あるけど、食べられそうかな?」


「・・・・・・・・・」


「ママ?・・・ママ?・・・しっかりして?ママ?ママァァァァァァァァァァ!!!!!」




返事が無く、穏やかな表情を浮かべメティファはベッドに仰向けの状態で冷たくなっていた。

直ぐに救急車を呼び、病院へ運びこまれたメティファ・・・




「よく頑張ったね・・・余命から1年3か月だ。もう春だ・・・君たちもよく頑張ったね!ママのこの安らかな顔をしっかりと見ておくんだ!」


「うん・・・ママ・・・ママ・・・」


「ワンワンッ!ワンッ!!ワンッ!!!」




生前メティファは医師にポスタたちを引き取ってもらう話に承諾し、お願いする意志を伝えていた。これからはこの医師の家でお世話になる事になったポスタとワンスだったが、メティファに話をしっかりと聞かされていた為、特に抵抗心も無く、お世話になるのだとしっかりと考えていた。




自宅の整理をしようと一度家に戻ったポスタとワンス・・・




「あれ?・・・これは、手袋と・・・マフラー?それにワンスの分もある!?お手紙も!?・・・」




(愛するポスタとワンスへ・・・

ずっと一緒にいたかった・・・

けれどママはここへはいられなくなってしまったの・・・

ごめんなさい・・・ママはパパの所へ行きます。

ママが倒れてから1年の間に沢山の事を覚えてくれました。

もう、ママがいなくてもちゃんと生きて行けるとママは信じています。

病院の先生はとても親切でしっかりとしているから安心してお世話になって下さい。

何か困った事があったら先生を頼って下さい。

ポスタは、パパとそっくりでしっかりとしていて、芯が強く、正義感も強い。そしてとっても優しい子・・・大きくなったらきっと素敵なフィアンセと出会うと信じてる。

けれど、少しパパやママと似た所があって、無理に頑張ろうとしちゃう所があるから、パパやママみたいになっちゃわない為にも無理だけはしないでね?

まだあなたは幼い・・・両親がいなくなってしまうのはあなたにとっては苦しい事が続いてしまうかもしれない・・・このお手紙を読んでくれている頃には私はもうこの世界にはいないと思います。それから、色々と決意をあなたにも伝えた後だろうと思います。

ママが泣いている時にもポスタは涙一つ見せず耐えてくれていましたね。

ごめんね?・・・本当はママが耐えてあなたが泣くのが本来の姿だろうと思います。

もっとあなたの泣いた顔を見る機会があったのだろうなと・・・

泣きたい時は、泣いて良いんだよ?

これからは、もっともっと自分を出して良いんだよ?

先生もそれは分かってくれているから・・・大丈夫だよ?

最後になっちゃうけれど・・・今まで本当にありがとう・・・私たちの家族として生まれて来てくれて本当にありがとう・・・ママは最期までとても幸せでした。




ワンス?ポスタの事を宜しくね?あなたは家へ来た時からポスタにベッタリだったわね?

ポスタの魅力をしっかりと読み取っていたのだろうなと思う・・・

あなたも優しくて人の表情を見ようとする一面があったわね。

あの人が亡くなる時にも・・・私の体調が悪くなった時にも・・・

その優しさは、ポスタにも似て私も好きだったわ・・・

これからは新しい家族と一緒にポスタと引き続き仲良くして下さいね?

私が至らないばかりにあなたにまで迷惑を掛けてしまう事をこの場をかりてお詫びします。

どうか、これからは幸せに何も苦しまなくて済む様に・・・祈っています。






親愛なる家族、ポスタ・・・そしてワンスへ

メティファ)






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!」


「キャウゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!キャンキャンキャンキャンッ!!!!!!!!!」




その手紙を読み切った直後ポスタとワンスは今まで無いくらいに大泣きをした。

ワンスも手紙の内容を悟ったかの様に悲鳴の様な泣き声を出して鳴いていた。






それから15年後・・・




「どうだい?ママは喜んでいるかい?」


「うん!無事に医大に合格したって伝えたんだけど、「良かったね」って言われたみたいだよ!」


「ワンッ!!」


「そうかい・・・それは良かった・・・ワンスも私ももう年だからあまりここへは来られないが君はこれからも・・・」


「うん!勿論だよ!!ボクの大切な母親だからね!」


「そうか・・・なら安心だ!!君も来月からは医大生になるんだな・・・あの時の君の決意、忘れないよ・・・」




メティファが亡くなり、学校へ進学して行く内に母親みたいに不治の病を解明して行き1人でも多くの患者さんたちの命を救いたいと・・・そう真剣な面持ちで私に告げたが、やはり君たちの生んだ子供と言う事か・・・芯がしっかりとしていて、正義感も強く、偽善では無く、本当に相手の事を大切に考える。まさに私が医者を目指した頃の様だ・・・私もまた、両親を病気で失った身・・・ポスタの気持ちは痛い程分かっているつもりだ・・・けれど、やはり本人では無い・・・私より遥かに強い子だ・・・ポスタは!

そして・・・ワンス?君もそれを見透かす力でもあるのだろうか?ずっとポスタにベッタリだったが・・・そろそろ疲れて来てしまったのかい?犬の命の事を考えると決して若々しい年齢ではなくなってしまった。私もまたそれに近い訳だな・・・




更に数年後・・・




「もう式の時間か・・・メティファ?君の生んだ息子さんはこれから新しい家族と共に新しい家庭を築く事になったよ・・・随分としっかりとした顔、姿になったよ!私やフィアンセももう直ぐそちらへ向かう事になる・・・その時は色々とあの子たちの事について語りあかそうじゃないか!それまでもう少しの間待っていてくれないかい?」


「パパ・・・そろそろ式だからボクは行くよ!後の車に乗って欲しいってさ!」


「そうかい・・・じゃぁ、私のフィアンセも乗っているからそろそろ会場へ向かう事にするよ・・・それから、メティファを支えたフォース・・・君もきっと生前はポスタの様に出来た人間だったのだろう・・・顔を合わせた事が残念ながら無かったけれど、そっちへ行ったらゆっくり語り合おうじゃないか!どうかそれまで2人手に取り合って暮らして欲しい・・・」


「パパ・・・ママ・・・今から結婚式なんだ!パパが死んで、ママが死んで・・・その後、こちらのヒューストン先生の所でお世話になって、医者になりたいって強く意志を持って何とか合格して・・・ようやくボクも家庭を築き、家族が出来るんだ!応援してくれないかな?・・・今度はフィアンセも連れて来るからね!」


「そろそろ出発しますよ~!?」


「あっ!いけないっ!!呼びに来たボクが・・・」


「気を付けて行って来なさい!私も直ぐに掛けつけるから!」


「うん!待ってるよ!じゃぁ、後で!」




2人共、あなたたちが望んだ様に育ってくれたかは正直な所、分からない。

けれど、出来る限り私たちはあなたたちの望んでいる事を念頭に置いて、彼を育てて来ました。

もしもあんたがたの理想にそぐわないのであれば、私がそちらへ行った時に説教でもして頂けたらと思う・・・

だが、望み通りに育ってくれていたのであれば、酒の1杯でも注いではもらえないだろうか?






結婚式から数日後・・・




「ここがあなたのご両親のお墓・・・」


「ごめんね?本当はもっと早くに連れて来てあげたかったんだけど・・・色々と時間が取れなくて・・・」


「ううん・・・私は構わないわ・・・けれど・・・ごめんなさい・・・ご両親にご挨拶がまだだなんて・・・初めまして、私はメティーです。大学でポスタと出会いました。とても優しくて、芯が強くて・・・生前のご両親のご意志も受け継いでいると本人は言っています。きっと素敵なご両親なのだと私も感じています。メティファ・・・名前が似ていますね。私には両親が健在なのですが、ポスタは色々と大変だったと思います。けれど、お二人の息子であるポスタだから大丈夫だったのでしょうね・・・もっとお二人の事を知りたいのでこれからもポスタにはお話を伺うと思います。また、こちらへも伺います。これからはポスタを私が支えます。だからお二人は安心して身守っていて下さい。そして子供が生まれたら連れて来ますね!どうか、この後も安らかに眠って下さい。」


「さぁ、そろそろ帰ろうか?メティー?」


「えぇ!そうね!・・・では、また・・・」




その数週間後、ワンスも息を引き取った・・・




「あなた!?そろそろ起きる時間よ?」


「あぁ!ごめん・・・今直ぐに・・・ってこの香りは!?・・」


「えぇ!あなたに教えてもらったシチューよ?」


「あぁ・・・そうだね!これはボクがママに教えてもらった最初の料理なんだ!」


「そうだったの・・・だったら冷めない内に早く食べなきゃね?」


「うん!」




ワンス・・・君も大好きだったママのシチューだよ?

ボクにもまた料理を作ってくれる人が現れた・・・

そしてその味も料理自体も受け継いで行くんだね・・・

ママ?ボク、ちゃんとママの教えの通り作り方を伝授出来たかな?

ボクは少し涙を浮かべながらフィアンセが作ってくれたシチューを口にした・・・

うん!美味しい・・・そして、どこかボクが作ったものとは違う懐かしい感じの香りがしていた・・・




「どうかしたの?涙が・・・」


「いいや・・・懐かしくて嬉しかっただけさ!」


「そう・・・なら良かった・・・てっきりまずかったのかと思っちゃったよ?」


「ううん!そんな事あるはずが無いよ・・・ママが作ってくれたのとほとんど変わらない、ボクが作ったより近い味と香りだよ・・・」


「私、あまり料理が出来ない方だったから・・・お世辞じゃないよね?」


「うん・・・お世辞は言わないよ!本当にママの作ってくれた味にそっくりで驚いているだけ・・・そう・・・愛情、気持ちなんだよ・・・きっと・・・君はママと似ているかもしれない・・・」


「そう・・・なの?・・・」




あまり嬉しい言葉じゃないかもしれないな・・・けれど、名前が近いし雰囲気も若い頃のママの様な気がする・・・特にママと似た人と結婚がしたいと思った事は無かった・・・メティーと結婚した事は偶然だ!

これからも色々な事があると思う・・・でもボクはめげない!

メティーが隣にいてくれる。それに、ボクを今まで育ててくれた両親も、生んで途中まで育ててくれた大切な両親がいるんだ!ボクみたいな幸せな家庭に生まれた人は世の中にどれくらいいるのか分からないけれど、ボクみたいに辛い、苦しい想いをしなくて済む様に1人でも助けられる人間にボクはなりたい・・・これから先ずっと・・・



























END

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雪の国の少年ポスタと犬のワンス 小鳥遊凛音 @rion_takanashi9652

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