エピローグ
記者会見から数年後俺はバイクで道路を走っていた。前方で事故があったのか渋滞が起きている。黒煙が遠くで立ち込めていた。自動車の上に載って殴り合いをしている奴がいた。
「何ぼさっとしてんだとっとと進めよ殺すぞ!」「この渋滞でどうやって進むんだ殺すぞ!」「無理やり進めばいいだろ殺すぞ!」「そんなことしたら人が死ぬだろうが殺すぞ!」「死なねえよ殺すぞ!」「言葉の綾だろ殺すぞ!」
俺は足をついてハンドルに肩肘をつけながら成り行きを見守った。時折殴りかかってくるやつとか銃を乱射してくる奴が出てくるがかわしたり殴り飛ばしたりしてやり過ごす。数年前に比べれば人は殺意を飼いならすのがうまくなったと思う。ただやはり経済や政治には大きな打撃を与え続け今日もみな罵り合い殺しあっている。
「クソみたいな世界だと思いませんか先輩?」
俺の横にバイクをつけた奴が話しかけてきた。顔を見る。そいつは誰でもなかった。
「滅亡するよりはましだ」
俺の言葉に『誰でもない』は眉をひそめて言った。
「本当にそう思いますか? 滅びたほうがいいと思いませんか? こんな世界」
「思わねえな。人間生きてたらなんとかなるからな」
「普通に考えて『人を殺す理由』がなくなったら人は人を殺さなくなるはずなんですよ。でもこの世界の人間は逆に人を殺し始めた。このれは人間が人を殺している状態が正常ってことですよ。狂ってると思いません? こんな世界滅びてしまえばいいのに」
「同意だな。俺は世界が亡びてほしいとは思ってる」
「それ殺意をばらまくための方便でしょ。先輩の意志なんですか?」
「自由意志の話になるといい加減収拾がつかなくなるが……だがな俺は人を殺したくなかった」
「本当に殺してないと思ってます? 絶対先輩のせいで事故で死んだ人っていますよ」
「大丈夫だ。殺意の主ことか殺人でしかない。だから動機が発生することになるので殺してない」
「屁理屈っぽいですね……」
『誰でもない』は俺の胸に手を伸ばす。そのまま片手で揉みGカップの巨乳を揉み始めた。
「何やってるんだ」
「……別に。もう会うこともないだろうし最後に揉んどこうかと」
「そうか」
「あーあ。先輩が人を殺したら一つに慣れたのにな。先輩私のこと好きだったんでしょ。先輩、私と一緒になりたくないんですか? フーダニットが消失した世界で犯人になることにより誰でもなくなるのはわかってたでしょ? 同じ一つの『誰でもない』になれる」
「それが人を殺した動機か?」
「はっ自意識過剰すぎでしょ。動機はなくなってるのは先輩が一番わかってることでしょ」
「そうだな……一つになるか……魅力的な提案だ。だが」俺は煙草を取り出し火をつけた。「俺は人を殺したくない」
「煙草また吸い始めたんですね……私が辞めてって言ったら辞めたくせに……」
「アメリカのなんとかって科学者が脳の内物質を操作して殺意を殺意と定義したまま別の感情に変えるナノマシンを研究している。それが実用化されれば世界は元に戻るかもしれない」
「楽観的な希望ですね……まあせいぜいこのクソな世界で生きていくといいですよ」
『誰でもない』はバイクをUターンさせ去っていく。エンジン音がしなかったので振り返ってみるとそこに彼女はいなかった。幻覚だったのだろうか。『誰でもない』が話しかけてくるわけはない。俺は八つ当たりのようにクラクションを鳴らす。それに怒った別の自動車の運転手が出てくる。遠くでまた爆発音がした。青い空に向かって雲を描くように、白い煙を口から吐き出す。どこからか声が聞こえてきた。
「おい誰か! 車の中で人が死んでるんだ! 探偵はいないのか!」
俺はは腰を上げ立ち上がった。
ワイダニット密室殺人事件 五三六P・二四三・渡 @doubutugawa
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