9 私の心はどこにある?

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 私の心はどこにある?


 鏡と百花が正式な恋人同士として、お付き合いをすることになったのは、そんなことがずっと昔にあったからだった。

 あの当時のことを思い出すと、百花は今でも本当に恥ずかしくなってしまった。今も百花は、あの当時のことを思い出して、その頬を少し赤く染めていた。

 ……でも、あのときの私にとって、それは本当に切実な問題だった。どうして、あのころの私は、あんなに必死だったのだろう? と、今考えてみても、自分でもその答えがよくわからなかった。(……自分自身のことなのに、だ)

 そのことを鏡さんに聞いてみると、鏡さんは「そんなものだよ。みんなね。自分でも、自分のことはよくわからないものなんだよ」といつものように優しい顔で笑って百花に言った。

 鏡さんがそういうのならそうなのだろうと思って、百花は納得した。

 私だけじゃない。

 みんながそうなのだ。

 自分のことは、自分でもよくわからない。(これが正解なのだと思った)

 百花は視界の隅々まで広がっている、青色の空を見上げる。

 そこには、真っ白な宇宙船が、宇宙に向かって飛んでいく風景が広がっている。

 それは、鏡さんが、就職している宇宙関連の企業のチームのみんなと一緒になって開発をした、新型の宇宙船だった。

「きっと、これから、人類はみんなが宇宙に旅立っていく時代がくるよ。今からそれが楽しみだね」と鏡は言った。

 百花には本当にそんな時代が来るのか、よくわからなかったけど、鏡さんがとても楽しそうに話をしていたから、それでいいと思った。


 世界には優しい夏の日の風が吹いている。

 その気持ちのいい風の中で、百花はにっこりと笑った。

 世界は上と下の一面が、青色と緑色。(余計なものは、なにもない)

 ここはまるで天国のように、美しくて、綺麗な場所だった。


 ……そんな風に、にっこりと笑ってから、きっと私がこうして今も笑えるのは、鏡さんのおかげだと思った。(あなたが私のそばにずっと一緒にいてくれるからだと思った)

「百花は宇宙に行くなら、どこの惑星に行ってみたい?」楽しそうな顔をして、もうとても小さくなってしまった、真っ白な宇宙船の飛んでいく青色の空を見上げながら、鏡は百花に言う。

「どこでもいい。鏡さんと一緒なら」

 にっこりと笑って、きちんと大人になった百花は、白衣姿の鏡の隣でそう言った。


 おーい! 私はここにいるよ。


 無重力 終わり

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無重力 雨世界 @amesekai

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