最終話 輝け スウィート・ハート

 第三の幹部、女のネコマンマーと、第四の幹部、くねくねマッチョなカマカニーを撃退してから、平穏な一週間が過ぎていた。

「マリカマリカ。あれ以来、ダーク・スマイルは大人しいですよね~」

「ああ。でもまだ総統…アン(暗)パンダーが残っていると、カマカニーは言っていたけど…」

 更に絆を深めた二人は、日曜日の昼下がり、県立の中央公園で、平和な休日を過ごしている。

「これこれ、飲みますか?」

 ランチの席で、ナナの手作りお弁当と一緒に差し出されたのは、ストローが挿されたカップの液体。

 中はクリアイエローで、クリアレッドのゼリーっぽいものが沈んでいた。

「これは…タピオカミルクティーじゃないよね?」

「はい。アップルゼリーレモンティー、でしょうか♡」

「へぇ、戴きま~す」

 ナナの手作りなら、何でも疑わずに食べるマリカ。

「こくこく…うん、喉越しも良いし、味も爽やかで美味しいよ」

「えへへ~♡」

 信頼するパートナーに褒められて、ナナは素直に頬を染めた。

 そんな時、大地の底から鬼の絶叫のような地響きが、県内の全てに轟く。

「なっ、何だ!?」

「じじ、地震地震!?」

 全県民が騒然とする中、巨大で黒い蔦植物が、大地を割って無数に出現。

 全ての住居や県庁やビル、個人商店やコンビニに至るまで、人の住む家屋が蔦植物に締め上げられて、ひび割れ、包み込まれてしまった。

「うわあっ、何だこの植物はぁっ!?」

「これじゃあ、家に入れないわっ!」

「マンションもオフィスもコンビニも県庁もっ、県民みんながっ、野に締め出されてしまったんだあっ!」

 県民たちがパニックに陥る中、県域の上空を覆うように、巨大な黒い影が出現。

 みんなと一緒に見上げるナナとマリカも、自ら名乗るその正体に、驚かされた。

「「余はダーク・スマイルの総統、アン(暗)パンダー様であるパン。人間どもよ、お前たちの家は完全に奪ったパン。余の奴隷として、永遠に使役されるがいいパンっ!」」

 映像を残したまま、ダーク・スマイルの統括者が、中央公園へと降り立つ。

 ついに県民の前へと姿を現した、暗黒の総統アンパンダーは、十メートルを超えるアンパン模様の巨体に、黒いマントを羽織ったパンダ顔。

 更に、総統アンパンダーには、頭が二つ、蠢いている。

 双頭の口は見事にハモり、まるで二人の人物が話しているかのよう。

 初めて対峙する侵略者の親玉に、少女二人も戦慄をした。

「あ、あれが…!」

「双頭総統、アンパンダー…です…っ!」

 巨大な双頭魔王の出現に、家を奪われた人々は絶望に呑まれ、今や奴隷も寸前な絶対の危機。

 見上げるナナとマリカは、強い意思で頷き合うと、一際高い公園の電波塔へと駆け上がる。

 最上地点からアンパンダーを見据えて、スウィート・首輪を巻いて変身コード。

「「スウィート・デコレーション!」」

 ナナとマリカが虹の光に包まれて、全ての着衣が粒子に分解。

 全裸の身体が光に照らされ、両腕にグローブが形成されて、両足にブーツ、頭には金のティアラが装着。

 ティアラや各所にスウィート・ジュエルが出現すると、裸の身体にドレスが纏われ、虹色の光が消滅し、二人の変身が完了。

 これまでの戦いで防御のドレスを破壊されていた二人は、また新しい姿となっていた。

 電波塔の天辺に、聖なる少女が降臨をして、悪の双頭総統がギロりと睨む。

「ピンクのドキドキ スウィート・プティン!」

「碧いトキメキ スウィート・シフォン!」

「「La少女 スウィート・ハート!」」

 華麗な名乗りとポーズをピシっと決めると、絶望に呑まれそうな人々の心に、希望の光が優しく灯る。

「スウィート・ハートだ!」

「助けて、スウィート・ハート!」

 サラリーマンやOL、学校の先生たちや同校の学生たち、更に近所の商店街のオジサンたちまで、二人の聖少女に大歓声。

 そしてアンパンダーは、人々の希望を嘲笑いつつ、二人に絶望への光線を浴びせた。

「「ふんん…防御消滅波ああっ!」」

「「きゃあああっ!」」

 総統の指先から放たれる黒い稲妻を浴びせられ、防御のドレスが完全破壊。

 二人は、ティアラとグローブとブーツだけを残した、防御力の極めて薄い、裸の姿にされてしまった。

「こ、これじゃあ…!」

「一撃でも受けてしまったら、アウトアウトです…!」

 両腕で裸身を防御するも、これでは敵を倒せない。

 暗黒総統の魔力なのか、人々の間にも、より強い絶望が拡がってゆく。

「ああっ、スウィート・ハートの防御のドレスが破壊されて、裸にぃっ!」

「スウィート・ハートが裸にされて、防御力が無くなってしまったぞっ!」

「スウィート・ハートが裸にされて、ピンチよぉっ!」

 正義の少女たちの危機に、暗黒の帝王が余裕で笑っていた。

「シフォン、こうなったら…!」

「ああっ!」

 総統に向かって並び立ち、背中合わせになって両脚を肩幅まで開いて、後ろで手を組む。

 もう一方の手を広げて総統に向けると、必殺の一撃をコードした。

「ドキドキ!」

「トキメキ!」

 眩い光が掌で集まり、ピンク色とクリアブルーの輝きになる。

「「必殺っ、スウィート・ハリケーーーーーンっ!」」

 二色の輝く光の奔流が、アンパンダーへと炸裂。

 しかし。

「「ふふん、だパン」」

 強力な必殺技を、総統は片手だけで完璧に防御。

 聖なる光が、黒い雷光に侵されて、悪の色へと染め堕とされてゆく。

「「そ、そんなっ!?」」

 必殺技を防がれて驚愕する二人に向かって、黒い悪と化しパワーも増した必殺技が、返されてきた。

 –ビカビカビカっ、ドドーーーーンッ!

「「っきゃあああああああああああああっ!」」

 自らの必殺技を吸収されて、更に暗黒のパワーで強化された一撃に、防御のドレスを破壊された裸の二人が、耐えられるはずもない。

 二人の裸少女は、暗黒の攻撃で吹き飛ばされながら、人々の前にドサっと落下。

 防御のドレスだけでなく、打撃のグローブも瞬発のブーツも完全に破壊されてしまった、スウィート・ハート。

 ひび割れたティアラと、光が弱まったスウィート・ジュエルと、黒いスウィート・首輪だけが、その裸身に残されていた。

「うぅ…」

「こ、こんな…」

 大ダメージを受けて、なお立ち上がろうとするものの、全身が砕かれたように激痛をして、立ち上がる力も残されていない。

 肘をついて四つん這いになり、更にヒジも折れて、裸でお尻を掲げる四つん這いの、スウィート・ハート。

「ス、スウィート・ハートの、全てが…破壊された…!」

「スウィート・ハートの、全てが破壊されて…ティアラと首輪だけの、裸にぃ…っ!」

「スウィート・ハートが、ティアラと首輪だけの裸にされて、かつてないピンチよぉっ!」

 人々の悲鳴を心地よく感じる、暗黒のアンパンダー。

 悪の総統に操られる黒い蔦植物を、細い首に巻かれて捉えられた、スウィート・ハート。

「うぅ…な、なにを…!」

「つ、蔦が、蔦が…!」

 フラフラな両脚と、頭上で両腕を、それぞれ纏めて絡め捕られ、背筋を伸ばすような姿勢で人々の上へ。

 更に複数の蔦植物が集まると、二人の両腕と両脚が別々に絡まれて、左右に大きく開かされた×字の姿勢で、拘束されてしまった。

「「ああ…っ!」」

 両の手足を引っ張られて、完全に抵抗の手段を奪われた、裸の聖少女たち。

 シフォンの巨乳や大きなヒップも、プティンの豊乳や丸いお尻も、全身、前後左右上下の全てをありのままに、サラリーマンやOL、先生たちや学園の男子女子たち、ナナやマリカを子供のころから知っている商店街のオジサンたちにまで、無防備な敗北姿として晒された。

「「人間どもよ! お前たちに、更なる絶望を与えてやろうパン」」

 そう笑うと、二人の背後の地面から、細い蔦植物が数本と出現。

 捕らえられるスウィート・ハートの裸身が、蔦の鞭を打たれ始めた。

 –ピシーーンっ! ピシリーーーっ!

「ぅああっ!」

「きゃああっ!」

 ×字姿勢で拘束された二人の裸身が、鋭い鞭で、何度も打たれる。

 プティンの裸尻や滑らかお腹が、シフォンのバストや引き締まった背中が、敗北の赤い鞭化粧で彩られてゆく。

「「どおだああっ、憎きスウィート・ハートおぉっ、だパンん! 人間どもよ、もっともっと、絶望するがいいだパンんっ!」」

 希望の変身少女の敗北姿を更に全県民へ見せつけようと、悪の総統は二人の鞭打ち姿を、県の上空各所で高々と投影。

「うぅっ…あああっ!」

「きゃあっ…ああっ!」

 叩かれるたびに、シフォンの巨乳がたぷんっと弾み、プティンのお尻がヒクンっと跳ねる。

 サラサラの髪が鞭打ちで乱れ、汗をチラチラと散らして、惨めに艶めく。

 県民たちの全てが、全裸で鞭打たれるスウィート・ハートの敗北姿を、二人の悲鳴と共に、様々なアングルから見せつけられていた。

 県民たちの心が、深い絶望の底へと、沈められてゆく。

「ス、スウィート・ハートが…裸全に×字拘束で、鞭を打たれて…!」

「スウィート・ハートが全裸に×字拘束で鞭を打たれるなんて…私たちは、どうすればいいのよ…!」

「スウィート・ハートが全裸に×字拘束で鞭を打たれて…もう、お終いだ…!」

 人々の顔から希望が消えて、絶望しかない奴隷のそれへと、染められてゆく。

 裸に鞭打たれる少女たちも、心が敗北と絶望に、沈められていった。

(わたしたちは…負けた…みんなの希望を…護れなかった…)

(みなさん…みなさん…ごめんなさぃ…)

 –ピシーーーンっ!

「「あああああっ!」」

 スウィート・ハートの絶望が、県内の全てを包んでゆく。

 もう人々には、応援する活力すら残されていない。

 勝利を確信して、県域の全てを支配した双頭の総統が、笑う。

「「グッハハハァッ!」」

 打ちひしがれる県民たちの、しかし一歩前へと踏み出す、一人の少女がいた。

「ぜ、全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートっ、負けないでえぇっ!」

 声の限りに叫ぶのは、二人の正体を追い続けている新聞部のクラスメイト、聖だった。

「全裸に×字で鞭を打たれる、スウィート・ハートーーっ!」

 全力で声援を送る友達の声で、二人の心に、光が蘇ってきた。

(ひ、聖…)

(聖さん…聖さん…!)

 涙を浮かべ、敗北の変身少女たちを信じて叫ぶ聖に、悪の総統が一撃を加える。

「「うるさい小娘だパンんんっ! 防御消滅波ああっ!」」

「きゃあああっ!」

 黒い稲光を浴びせられた聖の防御が完全に破壊されて、全裸にされる。

「ひ…聖ぃ…っ!」

「聖さぁん…っ!」

 全裸に×字拘束で鞭を打たれながら、シフォンとプティンは、友達の身を案じて叫ぶ。

 はたして聖は、フラフラな防御皆無のまま、悪の総統をキっと見上げて、スウィート・ハートへの声援をやめない。

「ま、負けないでー! 全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートーーーーーっ!」

 涙する眼鏡の全裸少女の姿に、OLや女性教師たち、同学園の女子たちも、立ち上がる。

「「わ、私たちだって…!」」

 聖と同じく前に出ると、女性たちが声援を送る。

「全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートーっ、頑張ってーーっ!」

「全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートーっ、戦ってーーっ!」

 そんな女性たちを黙らせようと、アンパンダーは三度、防御消滅波を放出。

「「「きゃああああっ!」」」

 県内の全女性が、防御力が皆無な全裸にされる、絶対の危機。

 それでも裸の女性たちは、変身少女たちへの希望を、失ってなどいなかった。

 女性たちが戦う姿に、男性たちも、勇気を湧き起こされてゆく。

「は、裸の女たちが頑張ってるんだ! 俺たちだって!」

「そうだ! 裸の女たちが頑張ってるのに、呑気に絶望なんか、してられるか!」

 商店街のオジサンたちも立ち上がると、スウィート・ハートを力の限り、応援する。

「全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートぉっ! 立ち上がってくれぇっ!」

「全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートぉっ! 俺たちが見守っているぞおおおおっ!」

 県民たちの声が更に集まり、大きくなって、全裸に×字拘束で鞭を打たれるスウィート・ハートの沈んだ心に、強く響く。

「み、みんな…!」

「みなさん…みなさん…!」

 スウィート・ジュエルに光が集まり、強く清く、光り輝いた。

「な、なんて…強く、暖かい…光…!」

「私たち…私たち…っ!」

 湧き上がる力と勇気は、これまでにない程、強く、熱く、眩しい。

 そんな輝きを、アンパンダーは理解できず、怯えた。

「「な、なぜだパンっ!? なぜ人間どもは、希望を失わないのかパンんんんっ!?」」」

 二人は、全裸の肢体に力を籠めると、湧き上がる力を一気に開放。

「「むむむむむっ…ヤアアアアアっ!」」

 絶叫と共に、二人の身体が虹色の光輪を纏う。

 その瞬間、聖なる光が県域の全てを覆い、無数の黒い蔦たちが、一気に消滅。

 ×字拘束から解放された全裸の二人が、悪の総統の前へと華麗に降り立ち、堂々と告げた。

「「悪の帝国 ダーク・スマイル! 双頭総統アンパンダー! あなたの野望もこれまでっ!」」

「「な、なんだとパンんっ!?」」

 復活した聖なる全裸少女に、暗黒の総統も焦りを隠せない。

「ドキドキ!」

「トキメキ!」

 必殺のコードを唱えると、全裸の光輪がさらに強く、清く輝く。

「「ハァっ!」」

 溢れる力で裸の二人が跳躍をすると、双頭総統のそれぞれの頭を、上下逆さの体制になったプティンとシフォンが、正面から両脚でカニ挟み。

 総統の顔面へと全裸のまま抱き付いて、奇跡の力で空高く飛び上がると、腿で挟んだ頭を軸に、アンパンダーを上下逆に回転させた。

「「必殺っ! スウィート・脳天真面(マジ)殺しーーっ!」」

「「グッ、うわあああああああああっ!」」

 裸の顔面カニ挟みをされたまま、脳天から地面へと落とされる、双頭総統アンパンダー。

 –っっズウウウウンんんっ!

 落着する直前に離れた二人が、全裸の肢体でスタっと着地。

 虹色の光に包まれながら、悪の総統の断末魔が、県域に木霊する。

「「な、なぜだパンんんんんんんんんんんんっ!」」

 壮絶な虹の爆発を轟かせ、悪の総統は塵と消えた。

 残されたのは、パンダの赤ちゃんと、一つのアンパン。

 スウィート・ハートが勝利して、戦いは終わった。

「…これで、全て片付いたな。プティン」

「…シフォン…シフォンん…!」

 裸のプティンが裸のシフォンに抱き付いて、訪れた平和に涙する。

「スウィート・ハート~♡」

 聖を先頭に、裸の女性たちが駆け寄ってくる。

 みんなに抱き付かれた瞬間、スウィート・首輪のジュエルが力を使い果たし、輝きが消失。

「「え…あぁ…!」」

 二人の変身が一瞬で解かれると、みんなの中には、全裸のナナとマリカの姿。

「あ、マリカとナナ! あれ? スウィート・ハートは? また消えちゃったの?」

「「え、えへへ…」」

 スウィート・ハートは、人々の安全を護る少女たち。

 平和になった今、その役目を終えたのだ。

「そっか…まあいいわ。とにかく、スウィート・ハートにみんなが助けられたんだもの! この平和は、私たちが守らなくっちゃ!」

 破壊された街を、裸の女性たちが、希望を胸に走り出す。

 みんなと一緒に裸のまま笑顔で駆け出す、ナナとマリカの手には、ボロボロになった黒い首輪と、輝きを失ったスウィート・ジュエルだけが残されている。

 それでも、寂しくなんて無かった。

 希望のLa少女スウィート・ハートは、希望に輝くスウィート・ジュエルの力で戦う。

 みんなの応援で、二人は力と勇気を得ていた。

 スウィート・ジュエルが希望なのではない。

 希望とは、全ての人々の心に宿る力なのだ。


                       ~終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

La少女 スウィート・ハート! 八乃前 陣 @lacoon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ