第7話 どうやら、一人だけ変なことをしているようです。

 奏太と美奈と獅郎が作戦会議をしている頃。

 奏太の部屋に一人の来訪者が現れようとしていた。

 ガチャリと鍵が解錠される音が、廊下に響く。


 「お邪魔します」


 優しげな声と共に、花蓮が姿を現した。

 声が奏太に届くことはない。

 静かな廊下を軽い足取りで直進していく。


 「ここに置いておけばいいかな……」


 花蓮はリビングのテーブルに、奏太の服が入った紙袋を置いた。

 任務完了。

 そう思い、踵を返したのだが、リビングの隣の部屋の扉が少し開いていることに、花蓮は気がついた。

 部屋はほのかに明るい。ベッドには、青白く怪しく輝くヘッドマウントディスプレイを装着した、無防備な奏太が横たわっている。

 寝室のようだ。


 「………!」


 ここで花蓮の脳に電撃が走った。


 ベッドには無防備な奏太


     +


 一人暮らしで誰もいない


     ↓


 やりたい放題‼︎


 「わ、私は何を考えているのでしょう‼︎だめです。そんなことは……」


 足を動かす。

 が、


 「ぐぬぬ……でも、ちょっとだけなら…」


 欲には抗えなかったようだ。


 「失礼しま〜す…」


 花蓮の声に奏太が反応するわけはない。

 静かに。ゆっくりと。寄っていく。

 しゃがみ込んだ花蓮は、奏太のほっぺに指を運んだ。


 「わあぁ。ぷにぷにです……」


 奏太が反応しないことをいいことに、ほっぺを触り続ける。

 

 「獅郎くんが、触る気持ちをわかります」


 獅郎が奏太をからかう時に、よく頬をつんつんする。その理由を花蓮は見抜いていた。


 「これくらい許してくださいね、奏太。私を忘れる奏太が悪いんです」


 過去の自分を忘れている罰だと、花蓮はそう言いながら、奏太にイタズラを仕掛けた。


 「耳たぶも柔らかい。唇も柔らかいです」


 とどまるところを知らない花蓮の猛追。


 「えへへ…無防備すぎます。……クシュ。少し冷えますね」


 午前中が暑かったために、奏太はエアコンを付けっぱなしでゲームを始めてしまった。しかし、まだ夜になると冷える六月。

 布団も掛けずにゲームをしている。


 「風邪ひきますよ。クシュ。私も人のこと言えませんね」


 一人苦笑をする花蓮は、横たわる奏太に布団をかけてあげた。

 そこでまた、電撃が走った。


 「ちょっとだけなら……」


 誰もいないと認識しながらも、周囲を花蓮は見渡した。

 部屋は寒い。

 エアコンのスイッチを手元のリモコンで消し、奏太の隣に潜り込んだ。


 「えへへ。なんだか付き合ってるみたいです」


 今日の私はなんだか変だ。

 花蓮は布団の中から、奏太の手をすくい上げる。綺麗な手。でもがっしりとした手からは力強い温かさが、花蓮の手を包み込んだ。

 

 「今日は、一緒に着替えたり、みんなにバレないように逃走の算段を立てたり、いろいろとありました。ドキドキして、でもわくわくもしました。奏太といると楽しいです」


 なんだか変です。

 改めて考えると、バカなことをしていると思います。

 でも。理性の留め具が外れていても。その原因が奏太なら私は構いません。

 大好きですから。

 あなたのことがどうしようもなく。

 花蓮は奏太の手を、ぎゅっと握り締めた。

 

 「奏太と同じクラスになれてよかった……」

 

 


 


 

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どうやら、美少女なクラスメイトは俺に気があるようです。 羽宮羽斗 @hanemiyahaneto

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