第162話
「何故か知りませぬが、ずいぶんと急に大人になられましたな」
「大人ですか……、大人というのは何なのでしょう?」
私は、まだ大人という存在が、どういうものなのかはっきりと理解はしていない。
それでも、分かる事は自分の道は自分で切り開くしかないということ。
エンハーサさんは、私の問いかけに「さて、私にも答えはありませんが……」と、一呼吸置いたあと「自分の行動に責任を持つことでしょうな」と語りかけてきた。
彼の言葉に私は頷く。
だって、その責任というのは彼が――魔王さんがいつも言っていたことだから。
自分の行動と言動に責任を持てるかどうか。
それが子供と大人の違いなのかも知れないから。
「それでは、シャルロット様……」
「はい、エンハーサさんもお気をつけて」
私は、アトリエの扉を開ける。
そして外に出ると「ずいぶんと遅いな」と、男性に話かけられた。
その人は――。
「ラウリィさん、どうかしたのですか?」
ラウリィさんも荷物を背負って外に立っていた。
「もしかして、ラウリィさんも旅に行かれるのですか?」
「ああ、旅にいく」
「そうですか、お気をつけてくださいね」
勇者である彼には、聖教会と帝政国から裏切られたといっても何かしらの伝手があるのだろう。
きっと、大変かもしれないけど、がんばってほしい。
半年以上、一緒に暮らした見知った仲なのだから。
「それでは、お達者で!」
私は手を振りながら、転移魔術を発動させようとすると、彼は突然慌てだした。
はて? 私は何かおかしなことを言ってしまったのでしょうか?
「おい! 俺も一緒に旅に付き添うから! 何を一人で行こうとしているんだ?」
「――え? そうなのですか? てっきり、どこかに仕官されるものかと……」
「まったく、いい加減気がつけよ。俺はお前が好きなんだよ! 惚れた女が旅にいくなら! 目的があるなら! 助けるのが男の役目だろう?」
「……そ、そうなのですか…・・・」
ちょっと私には理解できないけど、男心は複雑なのかも知れないですね。
それにしても、これからの旅に男性が着いてくるというのは…・・・。
「ラウリィさんは、草食系に近いから大丈夫でしょうか?」
私は首を傾げながら彼に手を伸ばす。
そんな私の手を彼が掴むのを確認すると転移魔術を発動させる。
まずは、向かう先に――。
そう……。
――まずは向かう場所は思い出の場所。
「――あ、忘れていましたけど、旅の途中で肉食系になったら置いていきますから、気をつけてくださいね?」
「肉食系とか草食系とか、俺にはお前が何を言っているのか分からないのだが?」
彼の言葉に私は微笑みを返した。
薬師シャルロット なつめ猫 @Natsumeneko
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