第161話

「君は――」


 そんな時、沈黙を保っていたラウリィさんが顔を上げて「君は、この世界がどれだけ危険なのか分かっていない。それでも旅をしようと思うのか?」と、語りかけてきた。


「はい! それが私のやりたいことですから」

「――決意は変わらないのだな?」

「はい」

「そうか……」


 どうやらラウリィさんは、納得してくれたようで――。


「エンハーサさん」

「はい、シャルロット様……それともアヤカ様? どちらでお呼びすれば?」

「シャルロットで構いません。それに……異世界から召還される人間が勇者だとしたら、アヤカという名前は、日本人らしく分かりやすいですから。逆に危険です」

「わかりました」

「エンハーサさんにお願いしたいことがあります」

「お願いとは?」

「お願いですが、私が強い精霊と契約して、お母様を助けることをクレベルト王国のアズルト宰相にお伝えください」

「なるほど……、つまり大森林国アルフを含めた別ルートで王妃様を助ける術を探し出すということですな?」

「はい、お願いできますでしょうか?」

「ハッ、このエンハーサ。必ずや伝えておきましょう」


 これで、今、私が出来ることは終わった。

 あとは旅立ちの支度をするだけ――。

 



 話を終わらせ旅立ちの用意できたのは、翌日であった。

 薬師として、各地を回って情報を集める。

 そして精霊を見つけて契約するのが私の当面の目標。

 

「行ってきます」


 私は、数年間暮らしていた自分の部屋の扉を閉めて階段を下りていく。

 階段を下りると、エンハーサさんが待っていた。

 彼も荷物を背負っている。

 おそらく、私が出立してから、クレベルト王国に向かうのだろう。


「シャルロット様、これで私のお役目も終わりですな」


 彼の言葉に私は頭を振るう。

 人に役目なんて、そんなのは存在しない。

 あるのは自分が、どうしたいのか何をしたいのかという事だけ。

 そこに、何かしらの役目なんて存在していたらいけないと思う。


「いいえ、エンハーサさん。今まで不甲斐ない私のために、ご助力を長年頂けたことを感謝いたします」


 私は頭を下げる。

 本当に、たくさんのことを彼からは学んだし、私はたくさんの人に支えられて、今を生きていることに、ようやく気がついたから。

 気がついてしまえば、本当にたいしたことじゃないのに。

 

 そう、人は一人では生きてはいない。

 大勢の人、見知らぬ多くの人の想いや感情や行動に影響されて、少しずつ変化して前へと歩みを進めている。

 

 私は、前世では体は大人だったかもしれない。

 でも、心は子供のままで――。

 自分の殻に閉じこもっていただけの駄々を捏ねているだけの子供だった。

 見渡せば多くのことが、多くの景色が見えていたというのに、それに気がつかなかった。


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