エピローグ
第160話
転移魔術を発動した後、私が立っていた場所は、クレベルト王国から出てきてずっと暮らしていた建物の目の前だった。
何度も深呼吸を繰り返す。
自分がこれからしないといけないこと、やりたいことが見つかったから。
それに繋がる道筋は、魔王さんは教えてはくれなかった。
だけど、きっと……。
魔王さんは、私が自分で見つけることが出来ると思っていたと思う。
そう思いたい。
だって、彼は私のことを愛弟子と言ってくれたのだから。
胸元に手を置く。
自分の心臓の鼓動が手から痛いくらい伝わってくるのが分かる。
私は、自分が住んでいた建物の扉を開けていく。
ラウリィさんが来てから、建物のあちらこちらに手が加えられたこともあり、音も立てずに扉は内側へと開いていく。
「アヤカ!」
扉が開いてラウリィさんの姿が見えたと思ったら、彼は一瞬、呆けたあと私の名前を呼んで強く抱きしめてきた。
「痛いです」
「あっ!? す、すまない……」
謝罪をしながらもラウリィさんは、私を離そうとしない。
それと同時に、私はラウリィさんに強く想われているんだなと実感がわいてくる。
「シャルロット様、申し訳ありませぬ。ルアル王妃様が昏睡した事実について嘘を申し上げてしまいまして…・・・」
私は、エンハーサさんの言葉に頭を振るう。
だって、それは私のことを思って、ついてくれた嘘だから……。
そう、優しい嘘であって――。
きっと、あの時に事実を知らされていたら私は、耐えられなかったと思うから。
「いいの、それよりも二人には伝えたいことがあるの」
私の言葉に、ラウリィさんもエンハーサさんも神妙な面持ちで首肯してくれる。
そして時間は掛かったけど、私は前世の自分のこと、そしてお母さんのことやお父さんのことを包み隠さず語った。
「そうでしたか……なるほど、それなら納得できますな」
エンハーサさんは、仕切りに合点がいきましたと頷いている。
そしてラウリィさんと言えば――。
「別の世界か――。俄かには信じがたいが……嘘ではないのだろうな」
「はい――」
「正直、話が想像を超えていて何と応えていいか分からない」
ラウリィさんは、座ったまま額に手を当てて困惑した表情を見せている。
彼の気持ちは分かる。
転生していなければ、私だって、滑稽な話だと思ってしまうから。
それでも、隠していたことを伝えることが出来て、自己満足かもしれないけど気分はスッキリとしていた。
「それで――これから、どうするのですかな?」
エンハーサさんは、これからの身の振り方について問いかけてきた。
「私は、自分が掛けたお母さんの精神魔法を解除するために、強い精霊を求めて旅をしたいと思います」
私の決意が伝わったのか、エンハーサさんは小さく溜息をつくと「そうですか……」と、呟いてくる。
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