第159話


 それに、私は――。


「私は、魔王さんのことが!」


 そこで唇を、魔王さんの人差し指で塞がれた。


「シャルロットよ、その言葉だけは紡いではならん。それに我は汝のことを弟子としか思っておらん」

「……そんな……」


 そんなの酷いよ。

 気持ちを告げることも許してもらえないなんて――。

 こんなに、こんなに心がたくさん痛いくらい思っているのに……。


「いつか汝にも、本当に好きな者が出来るであろう。そのときは、暁孝雄の変わりに盛大に祝ってやろうではないか」

「それって……」

「うむ。この魔王、嘘をついたことがあったか?」


 彼の言葉に私は「なかったです」としか言えない。

 

「なら、もういくがよい」


 彼の言葉に私は、何も言えず頷くことしかできない。

 何故か分からないけど、否定したらいけない、そんな雰囲気がしたから――。

 だから、私は転移魔術を発動させる。

 そして転移魔術が発動し、周囲の風景が消えていく瞬間、彼に精一杯の今、自分が出来る笑顔を見せた。

 それを彼が見てくれるかどうかは分からなかったけど、わずかに魔王さんの口角が上がったのだけは最後に見えた。




 シャルロットが転移魔術で消えたのを確認した後、俺は、その場にゆっくりと座りこんだ。


「ギリギリであったな……」


 まったく世話を焼かせる愛弟子であるな。

 俺は最後に笑顔を見せたシャルロットを思い出しながら一人呟く。


「魔王様!」

「サ……リ……ウスか……」

「ハッ! それでお約束は――」

「ああ、暁孝雄との約束は果たせた。これで……」


 サリウスと話しをしている間にも指の先から、白く変色し崩れていく。

 

「魔王様・・・…」

「気にすることない、寿命だ。それよりも、あとは、任せたぞ?」

「ハッ! 魔王軍一同、魔王領維持のために奮闘いたします!」

 

 俺の言葉を聞いたサリウスが、赤い瞳から涙を零しながら敬礼をしてくる。

 やれやれ……。

 1000年間という約束は想いのほか長いものであったな……。


 


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