第24話 初のパーティ戦闘

 緑がかった薄鈍色うすにびいろ甲殻こうかくに覆われた、身の丈ほどもある巨大なダンゴ虫。それが三匹。

 茂みの中から次々と街道側へ飛び出してくると、鎌首をもたげるように上半身を持ち上げて沢山の足をワサワサと威嚇するように動かす。


 ギャーーーッッ!! ――身の毛がよだつっていうのはこういう感覚を言うのだろう。


 キモいっ! ぞわっとサブイボが走り、体が強張こわばる。

 虫取り大好き少年だった俺ですらこうなのだから、虫嫌いの人が見たら卒倒そっとうものだと思う。ダンゴ虫ってちょっとカワイイというかコミカルなイメージだったけど……はっきり言ってキモい!

 ねえ、知ってる? 虫って拡大すると体表面に繊毛せんもうっていう細かい毛がびっしり生えてるんだぜ?

 うん、一メートルを超える虫って、もはや虫じゃない! ゲームだとあまり実感なかったけど、身の丈ほどもある虫って、もう完っ全にホラーだっ!!

「こんな村の近くにゴーダン!?」

 クリムさんが巨大ダンゴ虫を見て驚きの声を上げる。

「ご、ご、ゴーダン!?」

 ラビー君も武器を構えながら声を上げるが、その声や体は少し震えているのが見て取れた。でも、それを馬鹿にするなんてできない。むしろ逃げずに立っていることだけでも尊敬に値すると思う。現実世界でこんな化け物と遭遇したら、俺はチビって腰抜かす自信がある! てゆーか、チビリそう!

 俺はすぐさまゲーム視点に切り替える。正直、虫系モンスターはキモくて直視していられない!

 ゲーム視点に切り替えると、あっという間に落ち着く。

 そうだ、ゴーダンは『ハンタークエスト』でお馴染みのお邪魔モンスターだ。ビビる必要はない! しかも『ハンタークエスト』の中では小型・・モンスターだから! もう一度言おう、小型・・モンスターだからっ!

 ……とは言っても、パーティでの初めての実戦だ。みんな浮足立っている。せっかくラビー君が接敵する前に察知してくれたのに、先制攻撃のチャンスを不意にしてしまったかな? いや、不意打ちを受けずに済んだことを喜ぶべきなのか。

 ゴーダン三匹はそれぞれ、俺、クリムさん、ラビー君を相手に定めるとギギギと不気味な威嚇音を立てながら間合いを詰めてくる。とにかく、目の前のやつを倒して、みんなのフォローに回ろう。

 あともちろん、ぬこにゃんは俺の後ろに隠れて警戒中である……だって猫だもの。



 さて、虫モンスターに対面して思わず取り乱してしまったが、ここは落ち着いて対応しよう。ゴーダンを倒すにはちょっとしたコツがある。

 コイツは硬い甲殻こうかくに覆われているため、通常の攻撃はことごとはじかれてしまう。だから攻撃が通るお腹側をおもてにする必要がある。

 俺はゴーダンの側面に回り込むと、すくい上げるように力いっぱい剣を振るう。ちょうど野球のフライを打ち上げる感じだ。さいわい甲殻が重いせいかゴーダンの動きはあまり速くないので、冷静にやればそんなに難しくない。

 カキン! という硬質な音を響かせて、ゴーダンは二メートル程飛ばされて仰向あおむけに転がる。無様ぶざまにひっくり返った足が宙をワサワサともがく。こうなってしまえば、あとは攻撃を叩き込むだけの簡単な作業だ!

 転がったゴーダンを見て、ぬこにゃんも手を出したそうにそわそわしている。

「よーし、ぬこにゃん、ユニゾンアタックだ!」

「にゃっ♪」

 お互いの邪魔にならないようにゴーダンをはさんで両側から餅つきのように攻撃する。

「ハッ! タァッ!!」

「にゃっ、にゃあっ!!」

 なんだろう、ぬこにゃんとの連携攻撃になんかなごむw

 ぬこにゃんと一緒にゴーダンを始末すると、俺はすぐさまクリムさんとラビー君の方へ視線を向ける。

 クリムさんは腰を落とし、盾をしっかり構えてゴーダンのすきうかがいながら攻撃を加えている――が、ガキン! という音とともに剣を弾かれてよろける。「っ!? 硬い……!」という声を洩らし、当惑したように剣先をさまよわせる。なかなか堅実な戦い方だけど、ゴーダンの硬い甲殻に手こずっているみたいだ。

 一方、ラビー君の方は及び腰でじりじりと後退している。

 れたようにゴーダンが体当たりで飛びかかってくると、「わわわっ!」と声を漏らして大げさにける。ちょうどゴーダンの後ろを取る形になったラビー君がおっかなびっくりといった感じで攻撃するが、やはりガキンと甲殻に弾かれてしまう。

 二人とも硬い甲殻に阻まれ、攻めあぐねているようだ。やはり、ゴーダン戦のコツを知らないとそうなるか。

 クリムさんとラビー君のどちらの加勢に入ろうかと迷っているところに、更に三匹のゴーダンが奥の方からやって来るのを発見する!

「げ、まだ他にも居たのか!?」

 虫モンスターが増えてちょっといや~な気分になったが、気を取り直す。これは実戦で閃光弾を使ういい機会かもしれない。

 俺はアイテムかばんを操作しつつ皆に警告の声をかける。

「奥からゴーダンが他に三匹来てます! 閃光弾を使うので、昨日説明したように薄目うすめで対応して下さい!」

「え!? あ、はいっ!」とクリムさんから了解の声が上がるが、ラビー君からは返事が返ってこない。戦いにかかりきりでそんな余裕もないのだろう。それでも構わず、俺は閃光弾をゴーダン達の目の前に投げつける。


「バ○スッ――――!!」


 ――思わず、くせで叫んでしまったw

 閃光弾を投げるときに言うお約束の掛け声である。アニメ好きであればだいたい意味が通じる『ラ○ュタ』で有名な言葉だ。もう完全に癖で言ってしまうレベルw でも、複数人でやるマルチプレイでは閃光弾を投げる時に必須の掛け声なのである。別にふざけている訳ではないのだ。……ふざけた掛け声だけど。

 パンという軽い破裂音とともにあたりが強烈な光に包まれる!

「ひゃっ!?」というラビー君の声とゴーダンの「ギギィ」という鳴き声が重なる。

 俺はラビー君のもとへ走りつつ声をかける。

「ラビー君、大丈夫? 味方の閃光弾なら、光ってる間しか目がくらまないはずなんだけど……!?」

「は、はい、び、びっくりしただけで、だ、大丈夫です!」

 目をパチパチとまたたきしながらラビー君が応える。

「クリムさんも大丈夫ですか!?」

「はい、平気です!」

 クリムさんからはしっかりとした返事が返ってきてホッとする。

 二人の無事を確認し、俺はゴーダン達の様子を見る。――よし、五匹のゴーダンはみな目眩めくらまし状態になっているようだ。

「閃光弾ってすごいですね、こんなふうに使うものなんですね!」

 クリムさんはしきりに感心している、しっぽブンブンである。

「ほ、ほんとだ……す、すごいです!」

 ラビー君も改めて閃光弾の効果に驚いているみたいだ。

「閃光弾で目が眩んでいる今なら、ゴーダンを簡単に倒せます! こう、ひっくり返すように攻撃して下さい!」

 俺は二人に声をかけながら、後から来たゴーダンの一匹をすくい上げるように攻撃して見せる。

「あ、はい!」

「は、はい! こ、こうですか!?」

 クリムさんとラビー君はそれぞれ自分の目の前のゴーダンをすくい上げるように攻撃してひっくり返す。

「そうそう、あとは防御の薄いお腹側を攻撃するだけです!」


 どうにかこうにか、二人共ゴーダンを倒すことができた。ラビー君はかなり腰が引けていたけれど。

 残りのゴーダンも手分けして(ぬこにゃんも参戦!)倒し、初のパーティ戦闘は無事終了した。誰も怪我もなく、閃光弾の実戦でのお披露目もできたし、まずまずの結果ではないだろうか。

「それにしても、こんな所にゴーダンが出てくるなんて……」

「そ、そうですね……ひ、人里近くに出てくるモンスターじゃないはずですよね……」

 倒したゴーダンを見つめてクリムさんがつぶやくと、ラビー君も不安げな表情で応える。

 どうやらゴーダンは、ここら辺では見かけないはずのモンスターらしい。『ハンタークエスト』ではどうだったかな? どこにでも出てくるイメージだったけど。

 う~ん、ザコ敵小型モンスターの細かい設定までは流石に覚えていないなぁ……。

「とにかく、剥ぎ取りを終えたらウッサー村に急ぎましょう」

 ゴーダンの剥ぎ取りに取りかかりながら俺がそう声をかけると、その言葉にクリムさんとラビー君が同時に固まる。二人してゴーダンの死骸を前に顔を引きつらせている。

 それはそうだよね。人間大の虫を解体するって、普通に罰ゲームかも。ハンターにとって、剥ぎ取りはご褒美なんだけど。

 ゲームでは倒したモンスターは一定時間経つと消えてしまうので、プレイヤーは敵を倒すとすぐに剥ぎ取りをする癖がつく。癖というかもう本能みたいな感じだ……剥がずにはいられない!

 剥ぎ取れた素材は『甲虫の甲殻』『甲虫の体液』……当然ゲーム視点での剥ぎ取りだ。自力での作業は絶対に無理だからっ!

 俺が剥ぎ取りした途端、ゴーダンの死骸が消えてしまうことにクリムさんとラビー君が驚いていたが、もうそういうスキルだとしか説明しようがない。

 結局、「おまかせします」と言う二人の言葉に頷き、俺とぬこにゃんは喜々ききとして剥ぎ取り作業に取りかかるのだった。

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瀕死ゲーマーの冒険 ~ゆうきの物語~ ふひひ @huhihi

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