とても不思議な物語です。
主人公は、屋敷で絵描きの夫と暮らす妻。奇妙なことに彼女は何も知らない。夫以外の人のことも、屋敷の外のことも、過去の自分のことも、愛する人の瞳の色の名前さえも。それでも幸せに暮らしていました。
ふとしたはずみで手にした、書き手のわからない日記を開くまでは……。
最初のうちは主人公の素性にわからないことが多く、日記も謎めいており、読んでいて様々なことを不思議に思いました。それでも、心情描写が緻密なため、謎を追いかけるようにぐいぐいと最後まで読んでしまいました。
屋敷の中には「橙の部屋」「紫の部屋」といったような、画家の夫の絵を色別に飾った部屋があり、その存在が印象的で魅力的でした。
そんな中で、なぜかたったひとつだけない色。
その色の名前と、なぜ屋敷にその色が存在しなかったのかは、最後まで読めばわかります。
謎の明かされた「色」が印象的で、切なさとやさしさの入り混じったお話でした。