幕間-男の娘給仕は周りを見渡す(クルス視点)

さて、エアル達が黒影隊のアジトを見つけて見張りを無力化したのと同時刻のくれない林檎亭りんごていだが…


エアルが身元を引き受け、マーシャが後見人となった男の娘給仕クルスは、殆どの冒険者達が出払った後の食堂の掃除と後片付けを仲間達としていた。


そして、周りを見渡して思った。


今や紅の林檎亭で共に働く仲間には、自分とスラムに居た孤児や貧民だった者達だけでなく、更生プログラムを受けてきた元犯罪者もいる。

しかし、彼らは完全に世間からの信用を取り戻せているわけもなく、この紅の林檎亭にも数名の騎士がそういう者達の監視として在中している程だ。

(ここにいるのは元々は闇の者達だった人だけではない、盗賊や外道術師だった人も居る。中には町でスリや暴力沙汰を起こしたり、もっと大きな町のアカデミーで誰かにいじめをした末に追放された人も…僕とて貧民時代にやっていたスリや窃盗から監視の対象になっているんだろう…)

クルスはそう思うと自分のしたことを後悔すると同時にやるせなかった。

(ぼれ切れをはぎとられて以来、女物の服しか着た事のないし、下着も女の子の物しか与えられていない僕が男だと知っていても尚、冒険者達から色目を使ったり、セクハラ染みた事を何度されたり、言われた事か…そんな事されるの僕としては嫌なのに…。にも関わらず、僕が生きる為とは言え以前していた行為のせいで強く抵抗できないのわかっていて…)

いくら少女のような可愛らしい容姿と姿をしていても、を納めるのに向いていない女物の下着の窮屈さにも、クルスは完全に慣れてしまった。

今じゃあ、しぐさとか、とっさの時の声とかも、女らしくなってしまったほどだ。


「それにしても…僕の戸籍はこの格好のせいで誤認されて『女性Female』…僕が歳をとって、身体が成長していって男らしく体が成長していって変声期とか来たらどうなるんだろ…」

クルスは先行きの不安さを覚えた。


「なるようになるよ。」

そう、ふいに声をかけたのは貧民時代から一緒にいて、今は給仕として共に働いている少女だった。

「ミオ…」

「とりあえずさ、クルスが『いやだな』と思う事はエアルさんやマーシャさんに相談してみたら?クルス自身、エアルさんやスズネさんやサムソンさんからの指導レッスンで、もう素手でも武器持ちでも魔法でも、戦う事もできるんでしょ?あたしは、ヴェルデーアさんの所で薬術も学んでいる事だし、自分が本当は男だって事で不安なるんなら、ヴェルデーアさんにあたしから掛け合ってみるよ。」

「あ…ありがとう…ミオ…」

「それから、クルスに色目を使う奴はあたしとしても許せないから、あたしにだっていつでも相談していいからねっ!!」

「う…うん」

クルスは顔を赤らめながら答える。

これから先、2人は生涯の親友として共に紅の林檎亭で働き、また闇の者達や魔物と戦う事になる。それはまだ誰も知らない物語だった。

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勇者は乙女を宣告する 彩極幹徒 @SaigokuMikito

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