俺とお前のリレーブログ

燈夜(燈耶)

ミャー君

「六根清浄、心を清らかにしてブログを書いてね?」

「なにを言っているんだお前は」


 放課後の教室。彼女が俺の机へ寄って来る。


「リレーブログ、昨日更新してないでしょ」

「悪かった。謝る。なにも思いつかなかったんだ」


 平謝りする。

 これは、俺が彼女と綴っているお遊びなのだ。


XX月XX日


 体中に海苔を巻き付けた超常生命体、ミャー君は好物の抹茶を呑むと、港からまた海へと戻ってゆく。

 その手にはビタミン剤が握られていたという。


XX月XX日


 ミャー君はビタミン剤を噛んで酸っぱそうな顔をします。でも、そのおかげで涙が流れ、顔に張り付いていた海苔が少し剥がれました。


XX月XX日


 ミャー君は超常生命体としての使命を忘れたことはない。地球人を観察し、その様子をつぶさに本星の同胞へと報告することだ。


XX月XX日


 ミャー君は上司に報告します。


「大統領、大統領、あのねあのね、地球人ってばいつも携帯端末を握ってそればかりを見てるんだよ? 最近はいつもそう。親子が同じテーブルを囲んでも、一言も会話をしないで携帯端末ばかりを見ているの」


XX月XX日


 ミャー君は今月の報告も終わり、南国で休暇を楽しんでいた。いつの間にか体を覆っていた海苔も育ち、体を何周もぐるぐると回して覆うようになっている。これは食べられるのかと、ある日食してみたが、思わず美味に舌鼓。ミャー君は海藻サラダへとチャレンジしたのである。


XX月XX日


 ミャー君はあまりの海苔の美味しさに感激しました。この植物は本星の皆にも知らせ、広めねば! と思ったものの、安全確認が取れません。なので、 とりあえず成分分析装置に掛けたのでした。


XX月XX日


 成分分析装置の結果が出た。結果、陽性。この海苔という植物は、地球人が食べてもなんともないが、我々が食べると何かしらのアレルギー反応を起こすようである。ミャー君は海苔を食べた。ならば、そろそろ体に何かしらの異常が出ても良い頃だが……。


XX月XX日


 ミャー君は驚きます。海苔を食べて数分もすると、目がたまらなく痒くなったではありませんか!


XX月XX日


 いやいや、目が痒くなったのは海水に浸かっていたからで、海苔のせいではないはずだ! とミャー君は勝手に思った。そして、海苔が我々に与えるアレルギー反応とは、その後に起こった……うおお、目が痒いぞ! ミャー君は目を見開く。すると怪光線が目から発射されていた!


XX月XX日


 ミャー君は怪光線を発射しながら海に潜りました。海の中では、光線は遠くまで届きません。良し、今のうちに……と、ミャー君は体に張り付いていた海苔を剥がしてしまいます。



XX月XX日


 海の中を泳いでいたミャー君は某国の潜水艦に見つかってしまった! 某国の潜水艦はその怪しげな姿に向けて、魚雷を打ち込んできたのだ!


XX月XX日


 ミャー君は驚きます。ですが、魚雷を真正面から見たせいで、怪光線が魚雷に集中して、魚雷はミャー君に当たる前に爆発してしまいました!


 ──*──


 俺は冷静な突込みを待った。


「どうしろと?」

「どうして殺伐としたお話にするの?」


 素朴な疑問である。


「だって異星人が送り込んできた調査目的のエージェントだろミャー君は!」

「どうしてそうなるのよ! 海で休暇を楽しんでいた宇宙人の旅行者よ!」

「やっと意見があったな。ミャー君は宇宙人。その認識で良いんだな? ならば、ミャー君は天の川銀河に属する地球型惑星を持つ星系から送り込まれてきた、未知の知的地球外生命体のエージェントだッ!」

「良くない! もっとほのぼのとしたお話が良い!」


 うーむ。


「ほのぼのって?」

「スイーツ食べたり、観光したり、地球人ともっとお話ししたりして仲良くなるの。それでね、一緒に遊んだり、一緒にお食事したりするの」

「そんな話のどこがおもしろいんだ?」

「目からビームを撃ったり、潜水艦なんて出てくるお話のどこがおもしろいの?」


 俺たち二人は両手を組み、首を捻ってしばし考えこんだ。

 話の落としどころはどのあたりだろうか。


「なあ、企画に無理がないか?」


 俺が片手を上げつつ彼女に問えば、彼女も同じようなことを考えていたらしい。


「私もそう思う。もっとお互い歩み寄らないと」

「いいや、もっと、ミャー君の設定を詰めないと」

「それってどういう意味だ?」

「どういう意味って、私とあなたの思い描いているミャー君像に大きな開きがあるから、問題になっていることだと思うの」

「ミャー君が異星人のエージェントだというのは譲れない」

「なら、私はもっとほのぼのしたお話を盛り込みたい」


 その点を踏まえて、俺たちは続きを書いたのだが。


 ──*──


XX月XX日


 ミャー君はリゾート地にうってつけの海岸を見つけた! ミャー君はさっそく上司に報告する!


「大統領、大統領……!」


XX月XX日


 それから、ミャー君の仲間が載っている母船が地上に降りてきました。それは星空の元、月よりも、地上のどんな街よりも明るく輝いていました。


XX月XX日


 ミャー君は仲間たちと地球上で休暇を過ごした。

 仲間たちもご機嫌、ミャー君もご機嫌だ。

 ご機嫌過ぎて、また海苔を……そう、あの美味しい食べ物を食べてしまったのだ!


XX月XX日


 さあ大変です。みんな、目が痒いと言い始め、それぞれ目から怪光線を撃ち出し始めます。頭に火がついたり、お尻に火がついたり。それぞれ、取っても大変なことになってしまいました。


XX月XX日


「みんな、海に飛び込むんだ!」


 ミャー君は叫び、一番に海に飛び込んで見せる。

 するとどうか。ミャー君の目から出ていた怪光線の威力が弱くなったではないか。みな、こぞって海に飛び込んだのである。


XX月XX日


 これが、ミャー君が群れで海を泳ぐことになった理由です。こうして、ミャー君ら古代魚の祖先は海と陸を行ったり来たりしながら、大きな外敵から身を守るためだけでなく、自分の大きすぎる力を封じるために、群れて海の中を泳ぐようになったのでした。


 ──*──


「某国の潜水艦が出てきているのに、今さら古代魚って……!」

「ミャー君たちは異星人だから時間を操れるのよ!」

「おいおい、なんでもありだな」


 彼女は首をかしげて考える。


「そうね、さすがにあんまりかも。書き直すから、ちょっと待って?」


 彼女はスマホを取り出すと、ブログを弄り始めた。


 ──*──


XX月XX日


 これが、ミャー君が群れで海を泳ぐことになった理由です。こうして、ミャー君らは古代魚の祖先のように、海と陸を行ったり来たりしながら、大きな外敵から身を守ると同時に、自分たちの大きすぎる力を封じるため、群れて海の中を泳ぐようになったのでした。これでミャー君たちは美味しい海苔を食べ放題! よかったね、ミャー君!


 おしまい。


 ──*──


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