第5話 残念な娯楽施設
転生が一段落した次の月の休み……僕と女神様はある所に来ていた。
女神様達が住む世界……略して女神界で一番の人気を誇っており平日休日問わず何時も満員で混雑している、らしい。
あの女神様情報なので信憑性は薄い。
まぁ取り敢えず僕達が来ているのはTDL……じゃなかったMDL、女神ディスティニーランドだ。
パチもん感がハンパ無いがそこはスルーしておく。
「ちょっと!トウヤ!何時までボォーとしてるのよ!」
入り口前で長々と読者に説明していると先に入場した女神様が大声で叫んでいた。
女神としてのプライドかそれとも遊びたい欲求か、どちらが勝っても可笑しくない状況で女神様の表情は凛々しく足はウズウズしていた。遠くから見ると気持ち悪い。
「ここのアトラクションはどれも人気で直ぐに行列が出来るんだから」
「すみません、考え事してまして」
「もう!早くいくわよ!」
「はい」
何処に何があるのか分からないので走るのか走らないのか分からない中途半端な女神様の足取りについていく事にする。
暫く歩くと長い行列が出来たアトラクションに到着した。
見る限りではジェットコースターのようだが気になるのはその名前……太文字で大きく【ダイヤモンドドラゴン】と書かれている。しかも、これはス○ールドラゴンでは?と思ってしまうほど構造が似ている。
試しに聞いてみると「違う」と即答された。
「そもそも此処のアトラクションは全部ユウユ……じゃなかった遊具の女神が作ったオリジナルよ。その証拠にス○ールドラゴンはTDLには無いでしょ」
……確かに言われてみたらそうだ。いやそういう問題でも無い気が、
「ほら!トウヤ!順番回ってきたわよ!」
「え?あ、はい分かりました」
知的財産権うんたらかんたらを考えていたらいつの間にか自分達の番になっていた。
正直絶叫系は好きでは無いが、此処まで来てしまったら仕方がないと腹を決め女神様に連れられるまま一番後ろの席へ座る。
そう言えばジェットコースターは後ろが一番怖いって聞いたような……
「「それではいってらっしゃーい!」」
「うわぁードキドキするわねトウヤ!」
「そ、そうですね女神様」
元気なアナウンスの声と共に動き出すコースター……ちらっと隣を見るが女神様はキラキラとした瞳で前方を見据えている。
「わぁ~」
「……」
楽しむ女神様と絶望の僕を無視して上へ上へとコースターは登っていく。
ガタンガタンガタンという音が僕にどれ程の恐怖を与えているのか分かっているか遊具の女神様よ。下を見ないように目を瞑るがガタンという音の回数で高さが分かってしまう自分の頭の良さを呪いながら落ちる瞬間を待つ。
「トウヤトウヤ!見てみて|天人(あまびと)がゴミの様よ!」
「……そ、そうですね」
開けて見る余裕など僕には残っていないで適当に返事しておく。それでもこれだけはツッコませて貰う、女神とあろうものが人をゴミ扱いって大丈夫なんですか?勿論喋る余裕も無いので心の中でツッコむ。
あ、天人は女神界に住む人です。詳しい説明はこれを乗りきったらということで……
「来たわよ!」
「……アーメン」
前方から叫び声が上がったと思うと何とも言えない感覚が体に襲い掛かる。空気の層が顔に当たり、それだけで酔っている様な感じがする。頑張って目を開けると女神様が「ヒャッホー!」と世紀末の雑魚キャラが登場しそうな声を発しながら両手を上げていた。
この瞬間僕は初めて女神様を心の底から尊敬した。
「「キャアアアアア!」」
さっきまで乗っていたジェットコースターからの悲鳴を聞きながら近くのベンチで休憩する。
それにしてもよくあんなのに乗ってたな僕……遠目で見るとアレはヤバい乗り物だろ。人生で一回乗るか乗らないかで良いな。
「楽しかったわね!」
「ハハ……そうですね女神様」
「……モジモジ」
ベンチに背中を預けジェットコースターの余韻を消し飛ばす。
すると女神様が隣でモジモジしているのに気づく。
「どうしたんですか?」
「……な、何でもないわ」
「トイレならさっき向こうにありましたよ」
「分かったわ!」
と、ダッシュで指差した方向へと走っていく。
性格はアレでも一応は女性なのだからもつ少し気品があっても良いものだが……世の中そう上手くいかないものだ。
「あぁーそれにしても、このジェットコースターを作った女神様は何を考えていたんだろうな」
「あのーすみません」
突如隙間が無い筈の背後から無機質な声が掛けられる。ビクッとしつつ振り返ると……何か格子に引っ掛かっている女性がこちらを見ながらバタバタしていた。その女性は白いワンピースに麦わら帽という格好をしている。
遊園地というより花畑にいそうな感じだな。
観察してみると原因は格子の幅より格段に大きな豊満な胸のようだ。
前に抜けそうだが多分、お尻が引っ掛かるんだろう。
というかどうなってそうなった?
「助けた方が良いですか?」
「そうですね、そうして貰えると助かります」
「では……」
僕はわざわざ格子を登り裏から引っ張る。
うんとこしょ、どっこいしょ、それでも胸は抜けません……何て考えている暇はない。
マジ抜けん、どうなってんの?確かに物理的に考えてあの幅にあの大きさの胸を通すのは不可能に近い。
引っ張るのに苦戦していると女性の声が心なしか、か細くなってきている。
罪悪感が半端無いので渾身の力で引っ張る。
「「あっ」」
間抜けな声と共に女性が抜ける。だが引っ張っていた勢いでこちらに飛び掛かってくる形となった。
支えようと体に力を入れるが、さっきまで入れていた力が行き所を無くしたせいで重心が後ろに傾く。
結果……女性がのし掛かる形で倒れ込む。
「痛ッ……腰打った」
「……」
「あ、大丈夫ですか?」
「特に体が痛いと言うことはありませんが……その手をどかして貰えると嬉しいです」
「手?」
女性が指摘した瞬間、自分の右手から感じ取れる柔らかさを認識する。
そしてそこに目を向けると、そこには女性の豊満な胸を揉んでいる不躾な右手があった。
ハハ、女神様と暮らし始めて数ヶ月、初めて起こったラッキースケベが女神様と、ではなく知らない女性とは……ラブコメの女神がいるのなら一回しばきたい気分だ。
でもその前に素早く手を離しゆっくり土下座をする。会社の人に取り敢えず困ったら土下座しろ、と教え込まれている。ありがとうございます、ストレスで剥げた上司さん!
「すみませんでした」
「いえ、私は助けて貰いましたのでそのお礼ということで問題はありません。特に気にしてないので」
「お礼って……それはそれで問題では」
「大丈夫です」
「そう、ですか」
何となく気まずい雰囲気になってしまった。
正座した状態で固まっていると女性がスッと立ち上がり格子を越えベンチに座る。
指で隣の場所を指していることから座れということなのだろう。
「胸を揉まれたのも何かの縁でしょう、少しベンチで話しませんか?」
「言い方に少し刺がないですか?」
「そうですね、では此処は助けて頂いたのも何かの縁でしょう、少しベンチで話しませんか?」
「……分かりました」
何かしらの違和感があるが指摘するほどでもないので素直に座る。
それにしても彼女の声には感情がほとんど無いように聞こえる、胸を揉まれて何の抑揚もつけずに指摘出来る女性は居ないだろう。
「貴方名前は?」
「トウヤと言います」
「トーヤ?変わった名前ですね」
「あのトーヤ、ではなくトウヤです」
「あら失礼、トウヤトウヤトウヤ。はい覚えました」
何だろう、女性の生声を再現できるAIロボットと話しているみたいだ。
「えーとそちらの名前を聞いても?」
「はい、私の名前は………………?」
「うん?」
「すみません、私の名前何でしたか?」
いや知らないよ。
「……まぁ私の事は……ユウ、そう呼んでください」
「分かりましたユウさん」
「違います、ユウです」
「いや初対面の女性を呼び捨てにするのは」
「?……では私の事はユウサンと呼んでください」
うーん、話噛み合ってる?大丈夫かな?
どうもやりづらい……というかこの人は女神なのか?天人なのか?
「えーとユウさん」
「はい、何でしょうか?」
「何であんな所に居たんですか?」
「…………はて?何ででしょうか?」
「いや知りませんよ」
「ですよね、確か今日は良い天気なので散歩しようとブラブラしてて……う~んそれから可笑しなニオイに連られてフラフラしてました」
おっと僕の本能危機察知能力が訴えかけている、この目の前の女性は色んな意味で危険だと……日中からブラブラフラフラしている無機質な声の女性はどう考えても犯罪の臭いしかしない。
これは……面倒事になる予感がする。
だから早く戻ってこい女神様。
トイレ長くないか?大か?
「そう言えば貴方みたいなニオイでしたね」
「え?」
……瞬間思考が停止する。
僕臭い?これは社会人人生をそれなりに歩んでいる者なら誰でも理解できる事である。男、それもまぁまぁの歳の男は、「くさい」とか「におい」とかに敏感であることを。加齢臭とかカレーの匂いの事?とか思っていた時期に戻りたいよ……まぁ戻ったけど。
「どうかなされましたか?顔が変です」
「微妙に刺さる……けど、その前に僕って臭いですか?」
「?いえ貴方から出るニオイは普通の匂いですよ、詳しく言うなら石鹸の匂い70%にその他30%ぐらいです」
その他30って何?
ま、まぁ普通の匂いなら問題ないか、ふぅ~良かった。
何だよ、いくら見た目が若返っていても心はほとんどおっさんなんだ、気にしても良いだろ。
「あっ、でも可笑しなニオイと僕のニオイが一緒って」
「はい、貴方からは此処の世界の方々と違うニオイがします。多少ですが」
「違うニオイ?」
「そうです、分かりづらいと思うので例を上げると天人が犬の糞、貴方は猫の糞ぐらいの違いです」
「ごめん、ちょっと分かんない」
というか分かりたくない。何?僕ってやっぱり臭いの?犬の糞と猫の糞……結局どっちも臭い事に代わりがない。
「分かりにくいかったですか……なら天人がドラゴンの糞としたときの貴方が蜥蜴のふ「一回糞以外で表現してくれますか?」……分かりました」
「……」
「……」
「……」
「……難しいですね」
ニオイを糞以外で例えれない人、人生で初めて見たよ。逆に凄い……
「ま、まぁ取り敢えず違うと」
「そうですね、それでその事について一つ良いですか?」
「何ですか?」
「少しだけ貴方の体を調べても「あ!急な用事を思い出しました!また機会があったら会いましょう」……あ」
ヤバイヤバイヤバイ……絶対危険やん。
本能危機察知能力が悲鳴を上げている気がするので即座に退散する。
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「はぁ~、やっと帰ってこれました」
「何そんなに疲れたの?」
「え、いえ確かにアトラクションで疲れたのもありますが、変な人に絡まれまして」
逃げた後、合流した女神様と何種類かのジェットコースターを全部回るという僕にとっての地獄が始まったのも原因だが、それと同じぐらいの地獄に合う可能性があったからな。
「変な人?」
「えぇ」
「……それだけ!?」
「今は説明する気力も無いですから夕食はインスタントで済ませてください、僕はもう寝ます。おやすみなさい」
フラフラな足取りで押し入れから布団を出し倒れ込む。
女神様が何か叫んでいるけどもう無理。
「インスタントは嫌ってッちょっと起きてよ!寝ないで!私のご飯作って!」
「ハハッ女神様食べ過ぎですよ~」
「食べてないわよ!」
「……スゥースゥー」
「寝た!?……もう仕方ないわね、銀ちゃんヌードルか銅ちゃんヌードルどっちが良いかしら?」
正直まだ寝ていないが……ゴソゴソしていると言うことはちゃんとインスタント食品を食べているのだろう。関心関心。
……あぁヤバイ、そろそろ意識が遠くなってきた。
「あ、トウヤ。明日私の友達が来るからよろしくね」
「ふぁーい」
「やっぱ起きてるじゃない!?作ってよご飯!」
全然聞き取れなかったけど返事はしておく、どうせ怠惰な事だろう。
それよりもう無理だ…………
決して恋愛に発展しない残念なファンタジーラブコメ @kyorikiko
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