第4話 残念な転生先

「良く来たわね!私が女神よ!」

 

 無い胸を強調させる女神様の目の前には煙……魂が具現化した煙が漂っ……座っている。相手に失礼が無いように表現するのは少し難しいフォルムだな、これ。


 今の状況が理解できない読者ひとはいないと思うが一応説明はしておく。

 女神様による不正ババ抜きが終わり、僕と女神様は本格的に仕事を始めた。

 仕事……そう転生作業である。

 以上終わり。


 目の前の魂……女神様が居るちゃぶ台から少し離れた場所で僕は手元にある書類に視線を向ける。

 名前、斎当さいとう拓纏たくま

 年齢、17

 性別、男

 死因……女子高生を助けようとし田んぼを耕すトラクターに轢かれ死亡。(真実……女子高生を助けようとし田んぼを耕すトラクターに轢かれた、と思い込みショック死)


()内の死因は当然無視である。

 何処かで聞いたことのある死因だが……当人には敢えて説明しない。いやこんなの聞いた日には僕だったら人間として生きていける自信がなくなると思う。


 だから同じ書類を持っている女神様にも言うなよ、とは忠告してはいるけど……言ったのが昨日の寝る前だからな。頼むから覚えていてくれ。


「??」

「此処に来れたと言うことは貴方には転生のチャンスが与えられたと言うことよ!」

「転生?」

「そうよ!元の世界で何の楽しみも無く死んだ哀れな魂にもう一度人生をやり直させてやろう、という事よ!」


 OKOK此処まではマニュアル対応なので心配の必要はない。

 けど「元の世界で何の楽しみも無く死んだ哀れな魂にもう一度人生やり直させてやろう」という部分がマニュアル通りなのはちと癪なんだが。まぁ良いか……


「さぁ!哀れな魂よ!転生先を「し、質問良いですか!?」……な、何かしら」


 早速マニュアル外の行動されて戸惑う女神様。早ぇよ。


「俺の記憶だと女子高生を助けて死んだはずですよね、だったら哀れでは無いんじゃないですか?報われたって思いましたし」

「……はぁ?何言ってるの?」


 あ、ヤバい。


「貴方の死因は女子高生を助けようとし田んぼを耕すトラクターに轢かれた、と思い込みショック死、なんだけど?本来ならそのトラクター止まってたからね。それに貴方が女子高生を押したせいでその女子高生骨折したからね、田んぼの溝にはまって」


 おい女神様おい。

 何時もより口調が毒舌なのと流暢なのはこの際置いておくとして、世の中には言って良いことと悪いことがある、って小さい頃習わなかったのか。

 というか空気を読めよ、とか前に言って本当に空気を読んだ時は驚いたが、なんかこの部屋の空気は毎日「吸わないでくれぇ!」って雄叫びを上げているらしい。女神様の能力は地味に凄い……って違う。今はそんなこと思い出している場合じゃない。

 早く事態を良い方向に持っていかなければ、ほら魂さんワナワナ震えてるし。


「女神様……ちょっと良いですか?」

「うん?何よ」


 手招きで女神様を呼びつける僕。

 取り敢えず……此処は嘘ってことで話を終わりにしよう。


「嫌よ」


 即答されたんだが。


「何故ですか?」

「私は女神なのよ!高貴な存在である女神が嘘をつくなんて許される事じゃないわ!」


 虚言と妄言の塊みたいな存在が何言ってるんだ。

 冗談ならまだ許せるがこの女神様の場合|本気(マジ)で言ってるからたちが悪い。多分ここで僕がツッコんでも何?っていう顔で見られるだけだ。


「ほら女神様、嘘も方便っていう諺がありますよ」

「嘘も方便?」

「目的を遂げるために、時には嘘をつくことも必要になるという意味です」

「つまり自分の都合の良いように事を運ばすために相手を騙す、あるいは言いくるめるのも大事って事ね!分かったわ」


 何だこの女神様……心に闇でも抱えているのか。何をどう理解したらそんな身も蓋もない解釈ができる?

 しかも内容が間違ってはいないから何も言えないし……何だろうこの複雑な気持ち。


「任せて頂戴!」


 自信満々な笑みで机に戻っていく女神様。

 まぁ兎に角、これで魂へのフォローをしてくれることだろう。一応微々たる期待を胸に抱かせておこう。


「ごめんなさいね、さっきのは違う人の死因だったわ」 

「……で、ですよね!良かったぁ~危うく人間としての自我が壊れるところでしたよ」


 本当に良かったと思う。


「そうね。今から言うのがちゃんとした貴方の死因よ」

「お願いします!」

「えーと……女子高生を助けようとし田んぼを耕すトラクターに轢かれた、と思い込みショック死よ」

「…………え?」

「でも!安心して貴方が押した女子高生は掠り傷ですんだから!」


 違う女神様違う。

 フォローの箇所が違う。一体何に気を使った?誰が女子高生の怪我の具合を偽れって言った。


「フフフどうよ?」


 止めてくれ……そんな自慢気にこっちを見るのは心が痛い。

 それと「フフフどうよ?」は声に出さないでくれ。バレるから。

 ほら魂がワナワナと……いや無反応だな。一ミリたりとも動いていない……もう漂ってもいないし。

 流石の女神様もその異変に気付いたのか、はっ!とした表情を浮かべ自分が失敗したことに気が付いたのか取り繕う。


「だ、大丈夫よ!貴方はまだやっていける!そんなショック死が原因で死んだからって恥じることないわよ!後女子高生は掠り傷じゃなくて無傷だったわ!」

「……」


 違う。何でフォローがいちいち斜め上なんだよ。

 しかしそれに気づかない女神様のフォローはまだ続く。


「あ、あぁ!実はそのトラクターの運転手が実は連続……えーと、まぁ凶悪犯で貴方がショック死してくれたお陰でその人捜査されて捕まったのよ!貴方のショック死が貢献したのよ!」


 おっと良く分からない事になってきたな。

 しかも連続誘拐犯とか連続殺人犯とかなら分かるけど……何?連続凶悪犯って。

 それにショック死言い過ぎ。

 結局何のフォローも出来てないじゃないか。


「えーと……さて!転生先を指定して下さい」


 フォロー出来なくなったらついに無かったことにしましたよこの女神様。

 ……うんまぁ良いか。

 もうこれ以上はどう取り繕っても無理だ、というかあの女神様では絶対に無理だ。

 気遣い、思いやり、女神様が持っていそうな当然な物をあの女神様は持っていない。

 はぁ~次からはあの女神様が実行するということを考慮した上で策を提案しておこう。


「で、行きたい世界とかなりたい者とかある?こういうのが良い~、とかあったら聞くだけ聞くわよ」


 叶える気無いだろ。

 女神様が質問してから数十秒後、か細い声が魂から聞こえてくる。


「ハハッ……そうですね。世界は何でも良いですけど出来れば人間様に迷惑を掛けないような、そんな存在になりたいですね。……目立たずひっそりと死んでいくようなものに」

「で、出来るだけ叶えてあげるわ」


 完全に心折れてるな……まぁ無理もない。死因が死因だもんな。

 あの女神様さえ返事が戸惑いがちだ。此処は要望通りしてあげるのが一番だな。


「そ、それじゃあ転生した貴方に良き出会いがありますように……アーメン」


 うん?今アーメンって言った?言ったよな。

 女神様って……キリスト教なの?

 悪いけど今日一の驚きだよ。


 どうでも良い事実に驚いていると僕が転生した時と同じように魔方陣が魂を包み込むように展開される。そして眩い光を上げたかと思うと次の瞬間には魂はもうどこにも居なかった。


「ふぅ~終わった終わった。疲れた~」


 流石の女神様も人の心を破壊するのには骨を折ったらしい。机にぐてぇーと倒れ込んだまま一切動こうとしない。

 まだまだ仕事は残っているのだが……今だけは許すか、久しぶりの女神様らしい仕事だったからな。


「はい、お茶です女神様」

「ありがとう~ゴクゴク!……旨い!」

「それは良かったです、所で女神様あの人は何に転生させたのですか?」

「目立ちたくないって言ってたから」


 いやそれ以上に重要な事言ってたよあの人。


「何か変な名前の人がいっぱい居る辺境の村の中二病っぽい夫婦の赤ちゃんとして転生させといた」

「それは……良い転生ですね。きっとあの魂も喜んでいることでしょう」

「フフフ当たり前よ!私のセンスは女神一なんだから!」


 そう言ってまた女神様は無い胸を強調させる。

 ……きっとあの魂は人様に迷惑かける目立つ存在としてこれから頑張るだろう。

 うん頑張れ。


「さぁ女神様、疲れている所悪いですけど次が来ますよ」

「えぇ~早くない?」

「準備期間中に予約が一杯入ったので、2週間は忙しいですかね」

「成仏すれば良いのに」


 おい女神こら。

 一見、成仏は良い様に聞こえるかも知れないが、ここで言う成仏は女神様に相手されなくて迷った挙げ句妥協という諦めの末路の事だからな。


 幸先の不安に胃を痛めながら次来る魂の書類に目を通す。


 名前、冬月ふつき織音リオン

 年齢、17

 性別、男

 死因……腸を主に切り裂く女連続殺人犯に腹を切られ死亡。


 ……この人、ループしそうだな。

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