第3話 残念な知能

 書類作業が全て終わり日がな一日を窓の外を眺めながら過ごしていると、何時もの様に気だるそうな声が聞こえてくる。

 

「トウヤ~」

「何でしょうか?女神様」

「暇……何かして」


 昨日まで大量の書類を睨み付けていた人とは思えない台詞ですね。

 まぁでも確かに暇だ。

 転生予定の人達の日取りも決めたし、食料も昨日の昼頃に一週間分買った。

 一時、一日中惰眠を謳歌していた女神様も懐かしの休みでする事が思いつかないのだろう。そんな女神様に一つ提案をする。


「ではトランプでもしますか」

「……フフフ、そんな庶民の娯楽に高貴な女神であるこの私が?ほらさっさと配りなさい」


 文章の最初と最後で意思が無茶苦茶な女神様。これはもはや流石としか言えない、多分だがプライドと遊びたい欲求がごちゃ混ぜになっているのだろう。

 だけど女神様、これだけは言わして頂きたい……貴方にプライドなんてあるのですか?女神としての吟じなどあるのですか?と。まぁ、これを言うと十中八九高貴なるお方が拗ねるので口には出さないでおこう。


「では何をしますか?二人ですから出来る事は結構限られますよ」

「まずは……ババ抜きね」


 それこそ二人でするものじゃないと思うのだが……しかし目を輝かせて結局自分でトランプを配る女神様を見るととてもじゃないが言えない。 

 配り終わると嬉々として揃っているカードを手札から捨てていく女神様。とても楽しそうだ。僕も同じように捨てていく……自分の手札にババが無いということはババは女神様が持っているのか。


「さぁ♪始めましょ!」

「では僕からいきますね」

「分かったわ……フフフ私の女神的力でババを引かせてあげましょう!感謝すると良いわ!」


 女神様の手札は七枚……普通に考えればババを引く確率は約14%、ほぼ引くことはない。だが女神様の瞳は自信で満ち溢れていた、ババを引かせることに絶対的な自信があるようだ。

 僕は恐る恐る腕を伸ばす。

 すると……女神様から見て左から二番目のトランプが奇妙に上へ飛び出してきた。

 ……これは罠か?と思ってしまうほどこの策略は酷い。勿論そんな罠に引っ掛かるほど僕は馬鹿ではない。


「では一番左を」

「あっ……」


 揃ったカードを捨てる。女神様の反応を見る限り本当にあのカードがババだったとは。分かりやすい……だからそんな悲しそうな顔をするのは止めて、心が痛い。


「フ、フフフ中々やるようね、そうでなくっちゃ私の家臣は務まらないわよね」

「僕が何時から女神様の家臣になったかは後で問いただすとして……次女神様ですよ」

「私の神的引きを見るが良いわ!……よし!揃ったわ!フフどう?私の引きの強さは!」


 もう何というか残念を通り越して哀れみすら覚えるこの女神様の知能が心配だ……二人のババ抜きで引いたカードが揃わないなんて事は無いのだが、本当に気付いていないのだろうか。まぁ良いか。女神様が楽しそうにしているので気にしないでおこう。


「では引きます」

「それじゃ私も少し本気を出すとするわ」


 先程と同じように自信に満ちた表情。リア充並みの幸せな頭で今度は何を考えているのか……これはこれで興味が湧いてる。

 僕が手札の左から二番目のカードを引こうとする次の瞬間……一番左にあったカードと引く予定だったカードが入れ替わった。

 ……まさか次の作戦はこれか?

 いやいやそんなのあるわけ……無いと思いたかったがそのまま入れ替わったカードを引こうとする僕を見て満面の笑みを浮かべる女神様を見るとそうなのだろうと確信する。


「どうしたの?引かないの?それとも引けないのかしら?」


 挑発が安い、安すぎる。

 後、何でバレないと思ってるのこの女神様は。

 仕方ない流石に可哀想だから引いてあげるか。わざと悩むフリをしてから入れ替わったカード……確実にババなカードを引く。


「あ~残念それはババでした~!プゥー、あんな安い罠に騙されるなんてまだまだね!」

「……」


 どうしよう、もの凄く殴りたい。

 一度でも女神様可哀想などと思った自分が馬鹿みたいだ。……次からは僕も本気でいかせて貰う、妥協も手加減も一切しない。


「さぁ女神様引いてください」

「何か企んでいそうな顔してるわね……だけど私の前では全て無駄よ!」


 余裕の笑みを浮かべ腕を伸ばしてくる女神様。左端のカードを引こうとしていたのでそこで僕はその隣のカードと瞬時に入れ換える。

 女神様は一瞬ポカンとした表情をするが、直ぐに元の表情に戻り高らかに笑う。


「敵の策略を使うなど愚の骨頂!!トウヤ貴方は所詮その程度なのよ!」

「……どうでしょうね」


 残念ですが女神様は必ずババを引くことになります、絶対に外れることなどあり得ません。


「フフフ、強がりは止めなさい!さっきの動作明らか入れ換わったカードがババに決まってるじゃない!」

「!?」

「その顔は図星ね!敵の策で敵は倒せない!見るが良いわ女神の力を!ハッ!」


 勢いよく引かれた左から二番目のカード……女神様がそのカードを見ると、驚いたように目を見開き叫ぶ。


「なっ!?ババ!?」

「引っ掛かりましたね」

「な、何でよ!一体何が起こったの!?」

「言いませんよ、敵に自分の策を明かす訳にはいかないので」

「くっ……」


 くっ、じゃねぇよ何故分からない……女神様。

 これぐらいは分かって欲しい……お願いします頼みますから人並みの知能を備えて欲しい。

 まぁ後で教えてあげるか。


「さ、さぁ!トウヤ引きなさい!愚鈍なる貴方にもう一度ババを引かせてあげましょう!」

「では」


 女神様の手札は残り五枚……右端のカードをとる。すると……ババ。 


「ププーまたババ引いたわね!」

「……」


 うん?可笑しいな、女神様がババを引いて手札に入れてから順序は変えてなかった気がする。それなのにどうしてババを……女神様が余裕綽々なのが気になるな。あからさまな事をしなかった?どうして?する必要が無かったから……いや考えすぎか、たかがトランプで何をムキになっているのか。


「じゃあ私が引くわよ」

「どうぞ」

「……あぁ!?また!?」


 先程とは逆に、つまり最初に女神様が使った作戦をそのまま使う。

 結果反対の反対を引きババを。

 女神様の知能……恐るべし。


 さぁ問題は此処からだ、今度こそ順序は変えてなかった。つまりババの位置は五枚の真ん中三枚目という事になる。

 だが僕が真ん中以外のカードを引こうとしても女神様は何の反応も見せない、それどころか勝利を確信しているかの様な雰囲気を醸し出している。

 これはまさか……現状一つだけある絶対にババをひかす引かす方法を思いついたので、それが本当なのか女神様にカマを掛けてみることにする。

 まぁ適当に右端のカードを掴み、それを引こうとする。それとほぼ同時に女神様が嫌味顔で口を開く。


「残念ババでしーーたぁぁ!!!??」

「へぇーそれもババですか」


 女神様の顔が驚愕に包まれるなか僕が引いたのは右端とその左のカード。

 そして二枚とも絵柄はババだった……


「女神様?」

「……」

「これはどういうことですか?」

「……」

「女神委員「イカサマしました!」」


 滅茶早いな。どれだけ怖いんだ女神委員会。

 詳しい話を聞くと女神的力を使って僕がとる番だけ全てのカードをババにしていたらしい。

 ……こういう悪知恵は働く癖に何故、僕の罠に引っ掛かる?


「まぁでもこれは女神様の反則負けですね」

「ぐぬぬー」


 どうしても負けを認めたくないようだ。トランプを睨み付けながらずっと唸っている。書類の次はトランプですか……数分間睨むと諦めたのか表情を曇らせる。

 謎の罪悪感が……


「仕方ないですね」

「?」

「昼飯を食べ終わったらもう一度しましょうか」

「ホント!?」


 僕の提案に表情を明るくさせ机に乗り上げる女神様、その喜び様はまさにおやつを与えられた子供……否どちらかというと犬だな。

 女神様がペット……別に性的な意味では無いからな、僕はそんな趣味はない、断じてない。誰に言い訳しているか分からないが結論から言うと女神様がペットとか最悪の一言につきる。

 偉そうで傲慢で寂しがり屋で甘えん坊で負けず嫌いで卑怯で単純etc……一体いくつの性能を追加すれば良いのか。


「早く!トウヤ!早く!」

「分かりましたから少し待ってて下さい」

「うん!」


 そして時折みせる無邪気な笑顔に何回ドギマギしなければならないのか……見てくれだけは良いからな女神様。


 ホント……死んだサラリーマンが転生して女神様の秘書になるとか何処のラブコメだよ。

 ……うん、まぁでもこれから色々な事が起こりその過程で何時か二人に愛が芽生え最終的に幸せになる、などと言う典型的なラブコメは正直期待していない……だからもし僕と女神様の日常にタイトルをつけるとすれば僕は間違いなくこう付けるだろう。


 恋愛に発展しないラブコメと……

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