ホワイトホワイト団の新プロジェクト

空音ココロ

ホワイトホワイト団の新プロジェクト

 白であることを是とするホワイトホワイト団は徐々に勢力を拡大している。

 「なんだアイツ?」と思われながらも「自由でいいんじゃない? 実害無いし」と思われる程度には人々に認知されていた。


 彼らは、かの世界を裏側から動かしていると言われている友愛結社と肩を並べているつもりである。事実として白を基調とした流行文化であったり、白に関する新しい発明、発見はほとんどホワイトホワイト団の息がかかっていると言っても良かったりするので侮れない。


 そんなホワイトホワイト団の拠点アジト、東京都上野の山が3丁目お猿さんアルビノハイツ46号室 ホワイトニング室の室長リーダーである一本巻いっぽんまきは机の上で顔の前で手を組み、ある課題に向って思慮を巡らせていた。


 しかし彼はこの部屋のトップである。

 思慮を巡らせている悠長な時間は少なくすぐに優秀な秘書白壁しらかべによって現実へと引き戻される。


「室長、今月のホワイトニング計画の進捗率は70%と思わしくありません。このままでは我々のホワイトチョコレート予算が削られてしまいます」

「ん~、まぁゴリ押ししても仕方ないしねぇ。しょうがないんじゃないかな」

「室長がそんなんだから、進まないんです。しっかりしてください。あーっ! また白いネクタイが曲がってます。子供じゃないんですから……」


 鋭い眼光をさらりといなして一本巻はネクタイに手を伸ばす。面倒とは思いつつも、指摘されたことを放置するほどではない。

 この一本巻、室長であるからか白であることを他人に求めすぎるのは良くないというのを理解している。

 しかし構成員は違うのである。白であることを望み、白を普及させることに使命のようなものを抱いているのである。


 そんなピリピリとした一本巻と白壁の空気をよそに一人の男が部屋の扉を勢いよく開いた。


「室長! 大変です。本部から緊急入電がありました」


 パンツ、シャツ、ネクタイ、ベルト、そして靴下、眼鏡まで全てを白で統一した格好であるにも関わらず、清楚な印象を全て薙ぎ払ったような暑苦しさを全身から放つ彼の名は秦葉久呂はだはくろである。


「久呂君、ドアはもっと静かに開けてくれるかしら?」

「あ、すいません。それとって呼ぶのは止めて下さいよ。本当はって改名したい……」

「あなたの名前の話はまた後でね、久呂くん。それより緊急入電って何?」


 額に書いた汗を手で拭い、その手で本部から届いた入電が書かれた紙を白壁に突き出す。それを見た白壁の表情に一瞬の曇りが浮かぶが、大切な仕事と割り切り心の奥底に嫌悪感を押し込めて用紙を受け取り目を通した。


「こ、これは。室長。この命題をクリアできればホワイトチョコレート予算の増額可能かもしれませんよ」


 そこに書かれていたのは本部では体の内面から白くなるための案を募集するというものだった。

 世の中を白くする。

 建物、服、食器、家電、食べ物からアルビノと呼ばれる動物たちまで身の回りの物をどれだけ白くして言ったところで身の内側から白くなるためにはどうしたら良いのかという命題に本部では突き当たっていたらしい。


 そして優秀な案には特別褒賞を用意すると一文があった。


「白い食べ物をいっぱい食べればいいじゃないですかね」


 クロは右手人差し指を上に向けて良いことを思いついたような装いで言った。

 それに対して白壁は鼻でフッと笑い、いかにもこれだから素人はといった嘲笑する笑みを浮かべた。


「今、白壁さん笑いましたね。ウケました?」


 白壁はウケてねーよ。と心の中でツッコミを入れつつギッと鋭い視線をクロに送るだけの簡単な返事をしていた。

 そうは言いつつも良い案が浮かんでいないのは白壁も同じである。そして身に取り入れるという点では食事以外思いついていないのも同じだったため、睨みをきかせる以外に返事が出来なかったのであった。


「そうだな、まだ期限はあることだし少し考えてみるか」

「頼みましたよ、室長」


 もはや白壁の脳裏にはホワイトチョコレートの山が映っているのだろう。

 本人は優秀な秘書ぶりを演じようとしているつもりであったが、チタンに白鳥の細工彫りが施された眼鏡越しに一本巻は白壁の心を見透かしていた。


 白壁が執心になっているホワイトチョコレートはホワイトホワイト団が2月に限定発売するチョコレートである。

 麻薬成分は入っていないのだが、タバコやアルコールにも勝る中毒性があり、白壁もその虜になっている。


 恐らくホワイトチョコレートが食べられなければ当たり散らしてくるに違いない。

 店に並んで買ってくればいいかとも思うが、行列に並ばないといけない。白壁のために並ぶのかと考えるけど、やっぱり面倒だから本部からの入電に良いアイデアを返すのが楽だと一本巻は考えていた。


 ビバ、デスクワーク。

 無駄な動きをせずに成し遂げられるのであればそれに越したことは無いし、なんだかできそうな気がするのである。なにせ自分はホワイトニング室の室長なのだから。


 と、根拠のない自信を胸に考え始めたが、思いのほかアイデアは出ない。

 本部も悩んだ末に、公募という形をとっているのだから2,3分考えた所で良案が出るのは稀である。

 「はぁ」とため息をついた頃、少しお腹が張っているのを思い出して席を立った。


 一本巻は白い便器に白いボードに覆われたトイレの個室で用をたしながら再び考え始める。

 体の内側からというのだから清廉潔白、清い心が白と結びつけばいいのではないかと思うが、そんなのは既にホワイトホワイト団の訓示に書いてある。

 まったく上の考えることはよくわからんな。


 トイレのドアに貼ってあるホワイトホワイト団の標語「しらを切るなら黒く塗りつぶすよりも白で上塗り」という余りありがたみの無い言葉が目に入って、考えていることは全然白くないなとか思っていた。


 そして腹を押さえながら便座に座って白壁のホワイトチョコレートの件をどうにかしようというのだから、私はもしかしたら腹黒いのかもしれないと一瞬頭をよぎる。


 考えたところで、仕方ない。

 白いトイレットペーパーを手に取り、清拭した後に水を流すレバーを引いてあることを思いついた。


「うむ、これならいけるかもしれないな」


 何を思ったのかは分からないが、室長は白いインクを手に取り白い紙に必要事項を記入して本部へと返事を書いた。


 そして数日後……


「室長、本部から返事がありました。えっと――、やりましたよ、室長! ホワイトニング室の案が正式に採用されたとのことです」

「そうか、それは良かったな。これでホワイトチョコレートも大丈夫だな」

「えぇ! さすが室長で――」


 書類に目を通している白壁の言葉がつまり白縁の眼鏡のグラスまでもが白くなる。

 いったいどうしたというのだろうか、ホワイトチョコレートがあり過ぎて喜びのあまり固まってしまったのか?


 固まった白壁など知らずにまたしてもドアを勢いよく開けた男が一人。クロである。


「大変です、室長! 本部から白いカップが一杯届いています」


 ん? 今年のホワイトチョコレートはカップなのか?


「室長――」


 ん? 白壁が顔面蒼白になった顔で私の顔に本部からの書類を突き出してきた。


『ホワイトニング室が提案された白いバリウムによる便のホワイトニング化案を優秀案として採択することにしました。つきましては今年のホワイトチョコレート分も含めて1年分のバリウムを贈呈いたします。今後もホワイトホワイト団の一員としてホワイトニングに努めて下さい。尚、お手を煩わせないため二等構成員への一定支給分のホワイトチョコレートは既に個人宅へ送付済みです。』


「室長――」


 泣きそうな顔で言うなよ。白壁。


「室長、これどうします? 飲みます?」


 クロよ。困るのはこっちだって一緒だよ。一年分って、どうするんだよ。飲む? 飲んじゃう? 下剤無いけど。


 白壁は既に一等構成員となっており、個人宅へのホワイトチョコレートはない。まぁ、配達されなくても届いてないんだけどね。と一本巻は苦笑いを浮かべてため息をつく。

 そう、これから一般販売の行列に並ぶことを考えるととても憂鬱だった。


「ちょっと出てくるわ」


 そう言って、まだ少し肌寒い街へと一本巻は旅立った。

 手には本部から届いたバリウムを手に持っている。

 今夜、彼の体の中は白くなっていくだろう。

 そしてバリウムが出なくて頭を悩ませることになるのであった。


 頑張れ、一本巻! 気張ると余計に出ないぞ!


 ――。

 あー、えっと。

 バリウムは検査以外では飲む必要はありません。

 下剤を飲んで排便されることを確認しましょう。

 数日経っても出ない場合は腸の出口で固まる可能性があるので早めに病院に相談しましょう。

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