第6話【そしてエリーは間違い続ける】
「くらえや」
ナイト様がそう言うのと同時に、私は風切り音を耳にした。
それがナイト様の放った石が空を切り裂く音だと理解したときには、寸前に迫ってた魔獣は既に地に伏していた…………え?
「おっし、当たった」
少し満足げにそう言ったナイト様は、最後に腕をぐるっと一周させると、いつの間にか尻もちをついていた私に手を差し伸べて来た。
「もう大丈夫だ、立てる?」
「え……あ、はあ」
差し出された手を掴み、私は立ち上がってスカートに付いた土を軽く払い落とす。
十数メートル先で倒れている魔獣は動く気配がなく、生命活動を停止していることは近づいて確認するまでもなかった。
「ナイト様……今、何をしたんですか?」
私たちを襲おうとしていた魔獣──グルードは、魔人・魔物・魔獣の中ではそれほど高ランクの存在ではない。ただ、それはあくまで魔の中ではの話だ。
グルードにしたって、私たち人間とは比較にならない力・俊敏性・耐久力を持っている。アレを追い払おうと思ったら、武器を持ったそれなりに動ける男が5人は必要なわけで。それを……石ころ1つで?
「石ぶつけただけだけど?」
「い、いやいやいや!」
ケロッとした様子で脱ぎ捨てた上着を拾うナイト様に、思わず食い掛かってしまう。
「石をぶつけただけで倒せるわけないじゃないですか!?」
「ああ、それな。動けなくなるように足を狙ったんだけどさ、やっぱ慣れなくて顔面に当たっちゃった」
「当たり所の問題じゃないです!」
刃物で切り付けても、逆にその刃物が欠けることさえあるのだ。
足に当たったとか顔に当たったとか、そういうレベルの話じゃない。
「一体どんな技や魔法を使ったんですか? 私には何も見えませんでした」
「ま、魔法……? まあ、技って言っていいかは分からんけど、秘訣はあるな」
どこか照れくさそうに頭を掻くナイト様は、小さく咳払いをした。
「回転数だよ」
「回転……数?」
「ああ。自慢じゃないけど、ドラフト前にトラックマンで測ってもらったときはリーグ内でぶっちぎりだったんだ。ストレートのキレなら負けん」
「は、はあ……」
ドラフト、トラックマン……知らない単語だ。ナイト様の元いた世界の言葉なのだろう。それにしても、秘訣が回転数とはどういうことなんだろう?
「あっ」
そういえば、ナイト様はあの一投の前に何度も何度も左肩を回転させていた。
もしかしたら、腕を回転させただけ威力を倍増させる魔法……とか?
「石を投げる前に肩を回していたのは……?」
「ああ、あれは肩を温めてたんだ。リーグ内じゃ≪火の玉ストレートの内藤≫なんて呼ばれてるけど、アップ無しじゃ力入らないしな」
「な、なるほど。やはりそうでしたか」
今のやりとりでハッキリした。やはりナイト様は魔法の類が使えるのだ。
回すことで肩を温め、火の玉ストレート(?)なるものを放つ。今まで聞いたことのないものだけど、炎熱系の魔法とみて間違いないだろう。
強い属性を付与して風のようなスピードでぶつけたと考えれば、ただの石ころで魔獣を倒したことも納得できる。
「勝手ながら、安心しました」
「??」
正直、ナイト様がポンコツである可能性も頭に浮かび始めていた。
名前は覚えてくれないし、どこか会話が噛み合わないし、石で戦うとか言い始めるし。
でも、どうやら私の杞憂だったみたいだ。この人なら、本当に私たちを救ってくれるかもしれない。
「それじゃナイト様、今度こそ村に案内しますね!」
150km/hのナイト様 来夢 @limeorange
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