第4話 無意識……?

あーーだりーー。学校行きたくねー。


時刻は七時三十分。 今日はなんだか体がめちゃくちゃに重い。鉛のようなものを乗せられている気分だ。


「お兄ちゃんー、起きてるー?」下の階から妹の声が聞こえてきた。


あいつはすごくしっかり者で、顔だっていいからクラスでは人気者で……いいなぁ。俺とは正反対の性格だ。


「寝てるよー。永眠してるー。」永眠かぁ、できたら楽だろうなぁ……


人は死ぬ瞬間に一番快楽を感じるらしいし……あぁ……


俺がそんなしょうもないことを考えながらスマホをいじっていると妹が俺の部屋の扉を勢いよく開けて怒鳴り散らかしてくる。


「永眠とか、縁起の悪いこと言わないで! 」俺は冗談で言ったつもりが、妹はまじでキレていた。


「ごめん、冗談だよ……」俺は一回自殺しかけてるから、またしないか心配なんだろうな。


こんな俺をここまで心配してくれるのは、こいつぐらいだ。思いやりがあって、賢くて、自慢の妹だ。


「ありがとう……」俺はそういい布団からぬくぬくと出てくると、妹は俺のことをじっと見つめてくる。


「なんだ?」俺がそう言うと、妹は我に帰ったかのようにハッとし、そっぽを向いてしまった。


「ほら早くご飯食べないと遅刻するよ!」そう言いながら妹は階段を下って行く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺は顔を洗ったり歯を磨いたりと、とりあえずの準備だけして朝食を食べに下に降りる。


するとそこにはいつもの風景、妹だけが食卓に座っていた。


俺の両親は共働きで、いつも朝早くに出勤してしまう。


だから朝食を作るのも妹だ。


俺が死んでたら……美幸は寂しい思いをしただろうな……


俺は美幸の正面に向かい合うように座り、朝食を食べ始める。


特に話すこともないのでもぐもぐと無言で食べ進めていると、美幸が口を開いた。


「今日…学校終わったら……買い物付き合ってよ……」


美幸はなんだか照れ臭そうにそう言った。


俺の両親は遅くまで帰ってこないことが多い、だから夕飯も妹が作ることが多いのだ。


正直言ってだるいから付き合いたくないが、いつもお世話になってるし、荷物持ちぐらいしてやろう。


「いいよ」俺は気前よくそう言うと妹なんだか赤面して残りのご飯を一気に口に流し込み、ご馳走様っと早口でそういい学校に向かってしまった。


時刻を見ると八時ちょうどだ……八時ちょうど? 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大遅刻だった。


「なんで遅刻したの?」俺の担任の先生は女性教師で怒るとめちゃくちゃ怖い。


「朝飯食べてたら……つい……」俺は言い訳にもならない言い訳をか細い声で発する。


「なにがついよ……」先生は呆れ顔だ。


「まぁいいわ、今体育だから、教室に荷物置いてから途中参加しなさい。」


今日の先生はなんだか少し優しくて、なんだか少し悲しさを感じさせた。


俺は拍子の抜けた返事をして教室に向かうが、中には誰もいなかった。


俺は扉を開けようとするも、どうやら鍵がかかっているらしく開かなかった。


「あ、開かねぇ……」


俺は職員室に鍵を取りに行こうと後ろを振り返ると一人の少女が立っていた。


「うわ! びっくりした‼︎ 」つい声が出てしまった。


「鍵ならここにあるよ」彼女は手に鍵を引っ掛けてぷらんぷらんと揺らしていた。


俺が言葉に詰まっていると、彼女は教室の扉を開けてくれた。


「あ、ありがとう……」俺はこの子が誰かわからなかった。


クラスメイトの名前は全員覚えているつもりだが、この子は顔すら見たことがない。


その少女の肌はとても白く、雪のように冷たい表情をしていた。


彼女が扉を開ける瞬間にちらりとのぞかせたか細い手首には、無数の切り傷が刻まれていた。


その傷は怒りと恐怖、そして孤独と寂しさを感じさせる。


だが、俺はなにも言及しなかった。


それは彼女に対しての否定だと思ったから。 


『生きる』が正解とは限らない。


それは人間が人間に課したくだらないゲームのルールでしかないのだから。


クソゲーだ……


「早くしないと授業終わっちゃうよ」彼女の声には悲しさを感じさせる何かがあった。


俺は息をすることさえ忘れていた。


「あ、そうだよね、早く行かなきゃ……」


俺は急いで荷物を置き体操服に着替え、彼女に一礼してからグラウンドへ向かう。


「羽場くんだっけ……今度お話ししよ……」


彼女は俺の背中にそう投げかけた。


まるで俺じゃない誰かに話しかけているかのようだった。


俺は振り返り会釈をすると彼女は少し驚いた表情をしたが、


そそくさとどこかへ逃げるように走って行ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にかけて手に入れた特殊能力がどこか間違っている。 お地蔵さん @ojizou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ