無くした欠点

「あった、散布式爆弾」

 白いボンベの様な重たい鉄が核の影響を排除する特効薬になる。これを打ち上げれば、世界の異変は正常化する


「パスコード..くっ、なんだ?」

ロックを解除しなければ壁に固定されたまま、打ち合げる事は出来ない。

「設定したのはステューシーか!」

ならば最も有力なのはN'Sの誕生日。

「07、14...ダメだ、開かない」

簡単には開けさせて貰えなさそうだ、その後も研究室の設立日、人体実験の成功日、様々打ったが駄目だった。

「持ち堪えてくれ、殺し屋」

持久の消耗戦と持ち込みそうだ。


「..動きが鈍ったな、体力は強化出来なかったのか?」

「黙れ、死にたいのかぁ!」

「口からカッターか、品の無い。」

声を荒げると衝撃波程の響きが伝わり斬る飛び道具として放たれる。

「壁にあれだけめり込んで、流石に当たれば痛そうだ、知らないけどな」

 大口の攻撃が増えている中小回りの効く飛び道具を出すとは飽きさせない戦い方だ。しかし彼女は楽しいという感覚を失っている。ギミックを増やせば、物理的な手間が掛かるだけだ。


「斬り刻む!」

再生機能は健在で、斬り落とした剃刀の腕も再び生え揃い今ではこうして振り回してはしゃぎ倒している。

「細切れになれ..」

悪餓鬼に長刀を渡したのが運の尽き、

賽の目に細かく千切られ乱雑な肉片が床を汚し散らすハメになる。

「..小さくしても無駄なのか」

微小な四角が集まって密集し形を造り上げ徐々に元の姿に戻っていく。

「何をしても無駄だ、お前は私に殺される。心無き暗殺者よ!」

N'Sが科学界から追放されたのは悪用に重きを置いた実験を繰り返したから

〝人類の寿命を操る科学〟それだけを聞けば平和的だ。余命宣告をされた患者の寿命を延ばして治療法を探す。

人々の寿命を底上げする事で人生をより楽しむ在り方を増加させるなど利点的な使い方は幾つも存在するが、彼はそれをしなかった。

憎しみや復讐心に語り掛け、信者を増やし、負の連鎖を自ら多様化させた。


「一度とある男の信者を手にかけた事がある。あっさり死んだよ、最後は命乞いをしてた。モノを信じる奴らっていうのは皆ああなのか?」

「..どういう意味だ」

「弱々しいかかしなのかって聞いているのさ、今の私にはわからない。」

「殆どはでくの坊だろうな、己にかまけ人に頼る。自立心を捨てた救われたい連中だ、しかし私は違う」

「ほう。」

「常にN'S様の事を考え独自に働いている。指示をされずとも、求めるモノを常に考えて行動をしているのだ!」

「奴隷というやつか。

そんなに楽しいのか、それは?」

「何とでもいえ!」

「どちらにせよ興味は無いな。しこたま弾をくれてやる」

モラルを超えて顔面に集中連射、再生するなら間に合う前に撃てばいい。顔の抉れる限界を知れるのだから、変態科学者も万歳であろう。

「ぶはぁぁっ!」

「まだ話せるのか、奴隷はタフだな。

特大連射だ、有り難く思え。あんたを殺したら私は殺し屋を辞めるからね」

 使わない弾丸を持ち帰っても意味がない。欲しいモノは欲しい人に、それが一番効率の良い廃棄の方法である。

「生憎弾が切れようと落し物もあるしな、武器には困らないのが現実だ」


「少し疲れた..休憩するか。」

完全に破れ、原型を壊し腹にまで達する顔の裂け目に長刀を突き刺し固定する。再生を施そうと剣が邪魔になり暫くは中途半端で停止する。

「ふぐぐぅっ...!」

「騒ぐな、まぁ飲め。」

「ふぐぅぅっ..!!」「だから黙れ」

傷口に酒瓶を放り込む。

火を付けなくとも、酒は燃えるのだ。

「疲労が祟る..少し眠るか。」

適当に腰をかけ、寝息をたて始める。

「ふっ、ふぅっ!」

やがていびきをかき出した、相当お疲れのようだ。ゆっくり休んで頂きたい


 地上

「みんな遅いねー。」

「直ぐはこないでしょ..」

コンクリの上でのどかなピクニックにふける仲良し家族はひと事真っ只中で寛ぎ倒していた。

「でも不思議ね

上はこんなに平和なのに、下では世界を救おうとしているのよ?」

「確かにそうだね。」

「お父さんがやっと役に立つよ..」

 父親は謂わゆるイイ奴で、直ぐに騙される男だった。幸せになる壺は話を聞くたびに騙されて買わされ家には八個並んでいる。娘が家に居るのに助けて詐欺にかかり、喧嘩を仲裁したらどちらもヤクザ紛いの男であったりと損な役回りを担ってきた。


「だからみんなで決めたんだよね、お父さんを褒めるのをやめようって」

「そんなに良い人じゃないよっで分からせる為に..。」

「今だに効果無いけどねぇ..」

やはり良い奴だったのだ。

褒められなくても怒らなかった、ずっと娘の心配をして何か出来たら笑って褒めてくれていた。

「お父さん流石に怒るかなぁ?

ワタシたちを売ったのがサペティさんだって知ったらさ。」

「え、サペティさん?」「あっ!」

「それお母さんも知らないよね..。」

母は普段冷静な分怒ると怖い、詐欺師もヤクザも壺の商人も全て追い払ったのは母親だ。

街に帰ったらサペティの命は無い。


再び戻り地下

 戦いを避けて、独自に動くものがいた。重たい機械の手足を持ち上げて、頭と腕を同時に動かす難解な作業に一人没頭している。

「エキノウ剤..トウカラ薬、聞いたこと無いわよそんな薬品!」

棚に並ぶ無数の薬の中から適した薬品

を幾つか選び、決められた分量に調節して調合する。機械弄り程アバウトの仕様ではなく適切な処理が求められる


「一つを選んで入れるのに労力が居るのに三つも薬を作れなんてあり得ないよ、自分でやるっていったケド..。」

実質他の二人では出来ない。

姉妹は落ち着きが無くシャン一人での行動は難しいだろう、もう片方は早めに薬品を瓶ごと割ってしまう。

「よく街のお姉さんは長い間これをやってたよなぁ、隠居したくもなるよ」

馬が合うのか強めのリスペクトをしているが名前すら知らない。

〝ホームくんママ〟と、個人的には呼んでいる。


「おじいちゃん大丈夫かな?

カイブツと友達になってたりして、冗談抜きでありえるんだよなー。」

なってはいないがカイブツみたいな友達が助けに来た。街の住人はキザリの見る目が変わってきている。良い目とは言えない方向で。

「でも本当色々な事があったな〜..まだ終わってないんだけど、坊主のおじさん達凄い強かったなぁ。過去の映像で感心する事じゃないけど」

気を紛らせなければ、逆に量を見誤る

〝やらなきゃ〟という最新で機械の腕を動かすと、大幅に逸れる。

「容器はこれであってるんだよね?」

注射器のようなメタリックな硬い容器を適当に三つ選んで使っているが、研究員であれば怒られている程高価で高性能なものを使用している事は、当然理解の外である。

「私あんまり詳しく伝えずに中入ってきちゃったけど、遊んでると思われてるかな。伝わってるよね?」

適当で、思いつきの先走るところはキザリに似ている点である。


「よっと..ふぅ。」

容器に液体を垂らし、混ぜる。これだけの作業だが酷く神経をすり減らす。

「力が入っちゃってる、ほぐしていかないと失敗するよね..」

手汗を拭いて..深呼吸。

血の流れない戦い程長引く、傷が浅く立ち上がり易いから。

二つ目の薬品からは、混ぜる動作が加わり工程が一つ多くなる。

「液体が混ざるなって怖いよなぁ..何かが生まれたって感じがするよ」

二つ目を入れて液を混ぜ、三つ目を入れて安定させる。

「...やっと一つ目!できたー..。」

適度に喜んだ。残る二つが控えて待つのを知っているからだ。


「うあぁぁっ!!」

 長刀の扱い方は誰よりも知っている

少し力を加えればスルリと外れカラリと床を鳴らす。

「喚くな、目覚ましのつもりか?」

「最後の目覚めだ

二度と空を拝めると思うな!」

「地下でそれを言うか..。」

「蜂の巣にしてやらぁっ!!」

「ふん」

理性が乏しくなってきた、でなければ狙撃のプロに銃は向けない。

「撃ち合いもこれで最後か、後に何か思う事があるのかね?」

弾を幾つかくらってる。お互い様と言いたいが、相手は体が再生していく。

耐久戦は部が悪い。


「痛っ..忘れてた、外で一太刀貰ってたんだね。やってくれる」

弾の速度が少し遅れると空かさず隙間に弾を入れられる。わかっているが痛覚は素直に答えてしまう、技術とはまるで違う呼吸で。

「あぁ..痛いね、これがピンチか?」

「膝をついたな!

それが凡人の限界なんだよ!死ね!」

銃口が処刑宣言のカウントダウン。

しかし彼女にはわからなかった、目の前の男の言葉の意味が。


「凡人っていうのは誰の事なんだ?」

「なっ...」弾が出せない。

 見覚えのある注射針が刺さる箇所から力を奪う感覚がある。小さ過ぎて気付かなかった、大口の細胞は、接地物を判断するのに酷く遅れを取る。

「貴様..それはぁっ!」

「久し振りだな、ステューシー。

と言っても覚えてないか、ただの雇われ薬剤師の事なんて」

みるみる内に体が元に戻っていく。

イカれ科学者に憧れていた、変態信者のままの姿に。


「N'S様..!」

「あの世で仲良くやったらいいさ」

脳幹一撃、トドメはこれに限る。


「地獄行きに念仏はいらない」

「心の声か?」

「物理的な真実さ。」

「そうか」

「散布式の爆弾というのは?」

「カナメちゃんが上に通信を繋げてくれている。苦労したよ、ロックを外すのに少々手こずったけどね」

「解除したのか?」「ああ。」

核の特効薬のパスコードはN'Sへの反乱、つまり逆という事だ。凄まじく頭を悩ませたがコードの答えは単純に誕生日、実験成功、研究室創設の数字を逆に打つという安易なものだった。


『姉妹ちゃーん!

表の爆弾打ち上げて、スイッチあるからポチっとやっちゃってくれる?』

「機械のお姉ちゃんだ!

爆弾打ち上げろって言ってるよ」

「確かスイッチが..あった、これね」

打ち上がる白い爆弾は霧状の解除薬を世界中に散布する。何日か経過した後の名残でも充分効果があるらしい。

「これで救われるのね」

「うん、だけどあれワタシたちには聞かないんだよなぁ。」

「原液を受けちゃったからね、飛沫程度じゃ治せないよ..。」


地下

「お父さん、打ち上げ成功したみたい

街のみんなが元に戻るよ!」

「そうか、良かった..。」

「私らはどうなる?」

「それが、娘達に作った薬も今使ってしまった。もう治す事は出来ない...」


「そーでも無いんだなぁ。」

「え?」


街の太陽が、漸く陽の光を分け与える


「神の加護か。」

「馬鹿を云え、あの子の力だ」


「やりおったな、殺しの巫女よ。」

「儂らの情報は最早いらぬな」


「終わったぜ旦那ァ!」

「お、そうか。

まだやってたのかお前」


「マスター!

私たちが勝ったのよ!フハハハ!」

「あんな人だったっけ?」


「なんだいアンタたち!」

「警察を舐めんなよ、サペティ!」

「知らないよ犬っコロ共!

わたしが捕まるかってんだい!」

バケモノ以前に問題のある人々が沢山いたようだ。平和とはなんだろう?

 少なくとも、人の姿が緑色にならず剃刀や二首にならない世界が続く事だと思っていたが、元々の土台がグラついていたとは。


欠点は無数に存在し混同している。

その中に紛れれば誰も同じ、皆が傷を貶し合い血を流して暮らしているのだ


「ほら、丁度三つ!

苦労したんだから作るの。」

「アテになるのか?」

「嫌ならいいですよ、使わなくて。」

「ワタシは貰う!」

「有難うね、キカイさん..。」

姉妹の体に薬が馴染む、ステューシーで判る事だが即効性のある薬のようで結果は直ぐに出る。

「ふぅ。」「どう?」

「久し振り。ピリカ、シャン!」

心臓二つ、体も二つ。

「さて帰ろう。

君たちもお疲れ、乗っていくか?」

「いえ、私は。」「私もいい」

最後まで素っ気ない

父親はやはり苦労が多い。

「気をつけて帰ってね、それじゃ!」

所詮他人事か

別れ際に人は本性が出やすい。

「はぁ..やっぱり僕は僕か」

「そんな事ないよ?」

「ありがとう、お父さん。」

子供は思っているより親を見ている。


「行っちゃいましたね、私も行こうかな。途中まで送りますよ」

「..そうか、悪いな。」

少し穏やかになっていた。

冷めた性分なので分かりにくいが、ほんのりと表情が柔らかく感じる。

「何か変わりました?

胸に心が戻ってきてから。」

「わからないよ。しかし大きく何かが変わる事は無いと思っている。」

何が変化する訳でも無い

体が軽く、動きやすくなって。

朗らかな家族が生活を取り戻し。

私とすれば

酒が前より美味くなるだけの事だ。


「それだけで充分な変化だろうがな」

汽車の道なりに

残りの弾丸を全て捨てた。

「散。」

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