ホテルちどり
イルミナは壁に掛けられた小さな額をじっと見ている。額は
「亡くなったんですね」
「ええ、まあ」
「これも一緒に埋葬すればよかったのに」
「あのしち面倒くさい申請通してまた行くのもね……ここにあった方が思い出す
「そんなものですか。まあ、よろしいんじゃない? あなたを魔法使いにした人を
「いいえ、私を
結界内の魔力の濃さだけで選別する訳ではなくて、ある程度以上の圧に耐える二、三人の中から性質をみて最も魔法使いに向きそうな子供を担当者が選び出している、と知ったのはこちらに来て間もなくのことだった。つまり私はイルミナに目を付けられてこうなったのだ。
選別理由は明かされなかった。結界内の様子を見ながら、実質的に担当者の独断で決めているという。その決定で私の人生はまるで違うものになったわけだ。
それから三十年。
その間、イルミナはずっと私を訪れ続けた。聞くと、自分が関わって選別された
「私があなたを造った。そうかもしれません。ユア・センカー」
イルミナにはセンカワのワがなぜか発音しにくいらしく、私の名は
「どうでしょう、あなた、私のように
「創造的」
「魔法使いでなかった者を魔法使いにするんですから、こんなに劇的なことはないでしょ」
「まさかあなたは、楽しんでやっているわけ」
「もちろん。でなければ、ただの苦役じゃありませんか。楽しみは積極的に見出だすもの。あなたが
私も魔法使いのスカウトに楽しみを見つけたの。それで救われる子がいるということに気がついたから。私は古いタイプの担当者に単純な魔力圧耐性だけで選ばれて、泣く泣く魔法界に強制連行されたクチだけど、そうじゃなく新しい人生を手に入れて生き直す子もいる。人によってはこれは大きな機会でしょう? あなたがそうだったように。
イルミナはそう話しながら、外套の隠しに手をやり何かを取り出している。
「役割は役割ですよ、当局の都合だらけで作られた。でも、その中で好き勝手やるのが使われる者の醍醐味でしょうよ」
にっ、と人の悪い笑みを美しく見せながら、イルミナは。
「さ、お取りなさい。『ホテルうみねこ』の姉妹館、『ホテルちどり』の鍵です」
……鈍い銀色に輝く鍵束を、私に差し出した。
* * *
そうして私は今日、初めて自分の張った結界――魔力圧の密室に子供たちを迎え入れた。
十二人に合わせて十二の階層に分裂し重なった『ホテルちどり』のロビーで、子供たちはそれぞれに一人きりになって呆然と私、千川ユアの話を聞いている。
「――つまり、選別に敗れて死んでもそれはこの結界の中での限定的な死。きちんと無傷で元の世界に帰れます。魔法を得た生き残り以外の皆さんはね」
最後のひとりが生き残るとは限らないのだけどね。
孤立した十二人に同時に説明をしていた私は、その中にひとりだけ、他とは違う光を瞳の奥に隠した少年を目にとめた。
どうしようもない期待。無意識の。
ああこれは、もしかして。
子供たちの前から姿を消した私は、自分で作った
そうしながら、密室内の魔力濃度を上げていく。
耐えられず死んだ子が次々とロビーに吊られていく。
少年はラウンジの炭酸水を飲みながらぼんやりしている。
なるほどね、と思う。
確かに、イルミナの言うとおり。
新しい人生を手に入れて生き直す子もいる。人によってはこれは大きな機会だ。
私の手で、彼の人生は大きく変わる可能性があるのだ。
魔法使いでなかった者を魔法使いにする。
こんなに劇的なことはない。
やがて私は少年の前に立つ。
「
さあ、何が望み?」
〈了〉
ユア・センカーと密室の島 鍋島小骨 @alphecca_
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