第37話 エピローグ
「お待たせ!」
ケインの前にイトーカの塩焼きが出される。ここは小料理屋『狐』。ケインはこの国の春の味覚に旨そうに料理にパクつく。
「旨い…」
思わず声が漏れた。
「それで…結局どうなったんだ?」
マスターの問いかけにケインは口を開く。
「レー二ディア家は当主が突然失踪し、後継もいないことから廃絶。領地に関しては一時的に覇王直轄になったよ。当分の間はカールが治める。あいつも出世だな」
「それは重畳」
「ウエイランド商会はボーグに責任を擦りつけて逃げ切ったよ」
「…」
黒幕の一人であるウエイランド商会の会頭ドーマン=ウエイランドは何事もなかったかのように暮らしている。
「許せない奴ではあるが、まさか暗殺するわけにもいかないしな…」
俯きながら自嘲気味に笑うケイン。流石にそこまではできない。ケインは顔を上げグラスの赤葡萄酒を呷った。
「大丈夫ですよ」
柔らかい声がかかる。今日も艶めく美しさを称えたキャリーが傍に来て赤葡萄酒を注いでくれた。
「あの男は王都の怒りに触れましたからね」
ふんわりした笑顔でそんなことを言う。
ケインとマスターは首を竦めて凍りついていた。
「マスター…。おれは頑張って正しい人生を歩むことにするよ」
「俺もだ…」
「うふふ。お二人とも私のお気に入りですから♪」
数ヶ月後………。
ウエイランド商会の会頭ドーマン=ウエイランドが失踪した。商会同士の会合で食事中に席を立ったことまでは確認できたがその後の行方は最後まで分からなかった。
日差しの眩しい夏の出来事であった…。
(旧版)覇王の息子は無敵の剣を携えるが日常も楽しむ 酒と食 @winter0_0winter
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