2月3日の鬼ギャルJK

にゃべ♪

節分の日はサイアク!

 やっべ! 今日節分じゃん。ただでさえ月曜日でテンション低いのに最悪~。よし、今日はサボろ。あたしはすぐにダチのミズにLINEする。返事はすぐにおけまるって返ってきた。やっぱ持つべきものは親友じゃーん。

 と言う事で、いつもダベってるコンビニで待ち合わせ。一応言い出しっぺはあたしだし、先に行っとかないとね。


 コンビニについてオキニのファッション誌を手に取ったところで、タイミング良く瑞鬼が入ってきた。


「よっ、オニ、どしたん?」

「いや今日節分じゃん」

「あ~ね。分かる」

「だしょ」


 あたしらは拳をぶつけ合って笑い合う。言葉なんてそんなにいらない。だって小学校の頃からの付き合いだし。

 それからは雑誌を読んだりお菓子の品評会をしたり、まぁコンビニの客としては結構迷惑な感じで楽しんだ。平日の朝はそんなに人いないし、そこまで邪魔はしてないはず。罪悪感は特にない。

 瑞鬼はパン売り場からの流れでスイーツのコーナーに歩いていく。あたしもそのままついてった。


「お、鬼美、ここ見てみ」

「おお、恵方巻きスイーツじゃん。ウケる」

「鬼美は恵方巻きとか、する?」

「しねーよ。鬼がやってどうすんだっての」


 あたしは少し自嘲気味に笑った。瑞鬼もそれに釣られて笑ってる。そう、あたしらは鬼なのだ。だから節分の日が一番ヤな日。瑞鬼はしゃがみこんだまま、このスイーツの恵方巻きモドキをじいっと眺めてる。

 あたしも甘いものは好きだから、正直、このロールケーキは食べたい。


「レジ、誰もいねーな」

「店内も……うん」


 あたしらはうなずき合うと、すぐに行動を開始。まずはその恵方巻きロールをそれぞれ1本ずつ鞄の中にしまう。後は出口までダッシュ。あたしは走りながら頬を緩ませた。

 いつもこのコンビニを使っているからこそ、いつ隙が出来るかも把握済み。朝のこの時間は店内に誰もいない事が多い。この時のあたしらは勝利を確信していた。


「チョロッ!」

「あははっ」


 出口まであと数歩と言うところで、あたしは背筋に冷たい何かを感じ取る。それで思わず足を止めてしまった。


「ちょ~っと、そこのお2人さ~ん……」


 ……ヤバ、今日のバイトのシフト、オニさんだった。鬼子さんはあたしらの先輩で、簡単に言うと逆らえない存在。

 あたしらは後一歩と言うところで鬼子さんに捕まり、事務所に引っ張られる。そこで万引きが見事にバレ、ギロリとにらまれたあたしはすぐに言い訳を始めた。


「えっと……レジに向かうところだったんですよ。マジで」

「体の向きが出口に向かってたよな」

「ちょっと買い忘れてたモノがあって……」

「商品棚に目もくれてなかったよな」


 ダメ、もうマジ無理。あたしは瑞鬼にアイコンタクトをしようとしたものの、アイツしれっと視線をそらしやがった。親友助けてくんねーのかよ!


「まぁ取り敢えずまだ店を出る前だったし、代金払うなら見逃してやる」

「マジっすか!」

「その代わり、2度目はねーぞ」

「あざっす!」


 結局あたしらはスイーツ代を支払って無罪放免となった。流石に居心地が悪くなったので、今度はよく行く公園へと移動。その道中であたしの不満は爆発する。


「何で助けてくんねーんだよ」

「ウチに出来ると思う?」

「あー」


 瑞鬼はあたしより口下手だ。しかもパニクると言葉が出ないやつ。はぁ……ダチの性格を忘れるとか、こっちが友達失格だったわ。

 そこで会話は途切れ、公園に着いたあたしらは吸い込まれるように入ってく。で、そのまま目についたベンチに何となく並んで座った。


「ま、ケーキは手に入ったし」

「なんか豆も貰ったけど……どうしろと?」

「鬼子さんがくれたものは返せねーじゃん」

「後で食べりゃいっか」


 そう、鬼子さんは代金を払ったらサービスだってあたしらに小袋の豆をくれたんだ、今日が節分だからって。鬼子さんも鬼なのに意味が分からん。

 ま、豆はピーナッツ代わりにしたらいいかなと、あたしらは特に気にせずに鞄から恵方巻きロールケーキを取り出した。色々あって小腹が空いたのだ。


「それじゃ、食べる?」

「今年の恵方、どこだっけ? そうだ西南西だ。ってどこ?」

「えーと、あっちの方……とか?」


 あたしは適当な方角を指差した。そうして2人で揃ってその方角に向かい、無言でロールケーキを食べ始める。太巻きだったら多分無理だけど、ロールケーキだから食べ切れそうだ。

 お互いに無心になって、この恵方巻きモドキをもっもっもっと胃袋に収めていく。この光景、周りから見たら笑えるだろーな。


「ふー。うんまうんま」

「やりきった! いえーい!」


 瑞鬼が手を出してきたので、その流れであたしらはハイタッチ。この瞬間、もう2人の間にぎこちないものはなくなった。

 お互いに達成感に包まれていると、瑞鬼は何か複雑な表情で空を見上げる。


「鬼ってさ、何でこの日にハラスメント受けなならんの?」

「差別だよな!」

「ウチらの代で終わりにしようぜ」

「しようぜー!」


 節分ハラスメント、節ハラで意気投合したあたしらはまた拳を突き合わせあった。


「鬼って言えばさ、吸血鬼も鬼じゃんか」

「突然どうした?」

「や、鬼って言うからにはやっぱ豆、効くんかな?」


 瑞鬼が突然変な事を言い始めて、あたしは一瞬固まる。その意図が掴めないまま、適当に話を合わせる事にした。


「いや効かねんじゃね? だってあたしらにもにんにくは効かんし」

「じゃあ、外国の節分はにんにく投げんのかな」

「かもなっ」


 瑞鬼の冗談にあたしは大爆笑。それからはしばらく馬鹿話が続いた。けどやっぱまだ2月じゃん。2月って一年で一番寒い時期じゃん。

 だから、あたしはいつまでもここにはいられないとケラケラ笑う親友の顔を見つめる。


「そろそろ行く?」

「でもどこ行くよ?」

「ラウワンとかでいんじゃね? カラオケとか」

「いーじゃん」


 意見の合ったあたし達は背伸びして公園の出口まで歩いた。と、ここで天敵が向こうから現れる。


「ちょっとあなた達、どこに行くつもり?」

喜鬼キキ? 何で?」

「ちょ、生徒会長を呼び捨てとはいい度胸ね」


 そう、あたしらを待ち構えるように飛び出してきたこいつは生徒会長の喜鬼。当然鬼だ。あたしらの学校、別に鬼しかいない訳じゃないけど、鬼って種族的に優秀だから代々の生徒会長は必然的に鬼なんだよな。こいつだって節分には豆を投げつけられる立場なのに、何真面目に……あれ? 

 あたしは喜鬼がここにいる事から、大体の事情を察して頬を緩ませた。


「何だ喜鬼もサボりかよ~。仲間じゃ~ん。今から一緒にラウワン行く?」

「ちっがーう! 姉さんからあなた達の話を聞いて探してたの! ほら、学校行くよ!」


 残念ながらあたしの想像は間違ってたらしい。喜鬼って鬼子さんの妹なんだよね。鬼子さん学校には連絡しないって言ってたのに……。

 って、今はそんな事を考えてる場合じゃねーや。このままじゃ無理やり学校につれてかれるじゃん。こいつ結構強いから瑞鬼と2人がかりでも抜けるのはしんどい……。


 あたしがこの危機をどう乗り切るか考えてる間にも、喜鬼はずんずんと迫ってくる。この時、隣の瑞鬼の方を見たら案の定テンパってた。やばっ。


 あたしは焦りながらもこの状況を乗り越える手段がないか、何か使えるものがないかとポケットとかをまさぐり、そこで起死回生の策を思いつく。

 この時、あたしの頭の中で勝利の光景が思い浮かんで、自然と顔がニヤけるのを止められなかった。


「な、何よ? あなた達、私から逃げられるとでも?」

「瑞鬼、豆!」

「え? 分かった!」


 そう、さっき鬼子さんにもらった豆。ここで使うのが正解じゃん? 私の一言で瑞希もちゃんと分かってくれて良かった。あたしらはすぐに貰った豆を取り出して、入っている袋を破る。そうして、声を合わせて思いっきり投げつけた。


「「鬼はぁー、外ぉーっ!」」

「きゃっ!」


 スポーツ万能の生徒会長もそこは鬼、あたしらの豆攻撃を受けて呆気なく尻餅をついた。効果は抜群じゃん! こうして大きく出来た隙を突いて、あたしらは一目散に駆け出した。ダメージを受けて動けない喜鬼の側を余裕ですり抜ける。

 やった! これであたしらは自由だっ!


「甘い!」

「うわーっ!」


 公園から出たところで待ち伏せていたのは生徒会スタッフ。公園に来てたの、生徒会長だけじゃなかったのかよーっ!


 流石に5対2で、しかも豆を使い切ったあたしらに成す術はなく、簡単に取り押さえられてそのまま学校に連行される。生徒指導室でたっぷりのお説教の後に開放されたけど、罰としてのトイレ掃除とその後の節分の標的にされてしまい――散々な目に遭ってしまった。うう……。

 痛くて痛くて体中痣だらけになるし。やっぱ節分の日はサイアクー!

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2月3日の鬼ギャルJK にゃべ♪ @nyabech2016

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