錬金術師と聞いて、みなさんはどんなイメージを持たれるでしょうか?
いろいろな素材を集めて不思議なものを創り出す。そんな淡いイメージはありつつも、その作業風景や日常は想像しにくかったりもするのではないでしょうか。
この物語では、ちょっと訳ありな錬金術師テュエンと、翼を持つ少年レムファクタが出会うさまざまな人々や事件を、錬金術というその不可思議な技を中心に据え、真っ向から描いています。
この物語の素晴らしいところは、その不可思議な技や世界観がごく自然に生活の一部として描かれていて、店を訪れた客が身につけていたメダリオンに触れ、この世界には錬金術を学ぶ大学があることが伝わってきたり、ちょっと厄介な客がもちこんだ依頼をテュエンが錬金術を解決することで、この世界では錬金術がどのようなものなのかを、まるでそこにある当たり前のもののように感じることができます。
そして物語の中心となる錬金術、その素材の名前——星鉄鋼や夜想菫、白鷹草など——だけでも、もうワクワクしてしまうのですが、日常風景だけでなく、悪鬼ゴブリンや喰屍鬼グール、ドワーフの遺跡やエルフ文字なども登場し、これでもかとファンタジー要素がぎゅぎゅっと詰め込まれています。
子供の頃、『はてしない物語』やさまざまなファンタジーの物語でその世界に浸って楽しんでいた人も多いのではないでしょうか。そんな方には特におすすめの、鮮やかで深い、ここではないどこかの、けれどとてもリアルな世界の物語。
複数エピソードで構成される一話完結型なので、まずは第一話だけでも!
美しい描写と、魅力的な登場人物たちが織りなすこの物語の虜になること間違いなしです!
企画で「背景描写に力の籠った作品が見てみたい」と募集したところ、ご参加して頂いた縁で拝見し、まだ「第1話 風信鳥」を読み終わったばかりなのですが……
表から裏まで創られていそうな世界と、文学小説的な整った文章、細かな人物描写、煌びやかな練術師が扱う素材の数々……ページを開き「おっ」と思って読み進め、終わった瞬間に「これぞファンタジーの錬金術やー!」と某グルメな発言が飛び出しそうになりました(笑)
ストーリーは錬金術師のテュエンと、背中に翼の生えた有翼人種レムファクタ(通称:レム)が有名なリュート弾きから依頼をされる所から始まります。
「奇跡に近い事を起こさなければならない依頼」に、相手を思いやるがゆえに悩み苦しむテュエンとそんなテュエンの自称弟子を名乗り、助けたいと願うレム、二人の言い争いの中に割って入るテュエンの親友のクルト含めて、キャラクターの町での生活まで描いてあり、個人的にちょっと描写が緻密過ぎるかと思う部分もありましたが……それでも求めていた以上の文章で、大変満足です。
登場人物の優しさと、その想いがゆえのすれ違っていく依頼の行方は……?
王道的なファンタジーを楽しみたい方にお勧めできる作品だと思います。ぜひ!