いつもいつも異世界勇者に倒されるので、魔界貴族が異世界勇者のいる異世界に転生してみた。

穂明 響

第1話 魔界貴族、異世界勇者のいる世界に行く

 ここは、魔界の王、魔王がいる城。

なぜか、幼馴染の魔王が僕を呼び出した。魔王に呼ばれることは不思議ではないのだが、僕自体、貴族と言っても三男だし、悠々自適にのんびりと暮らしていたのに、なんか嫌な予感しかしない。逃げたいけど、魔王は僕の幼馴染。逃げても無駄なのは知っている。というかよく知っているから必ず見つかる、と言った方が早い気がする。

面倒事はごめんだ。とりあえず、話だけ聞いて、断ろうと思って、城に行ってみた。

城に行くとメイドが迎えてくれ、謁見の間に向かった。

いつも通り、不機嫌そうな顔をした黒髪の魔王がいた。

「アレク、よく来たな。」

「ああ、呼ばれたんで、来ました。何か用ですか?」

そう言うと、魔王はガクッと、肩を落とした。

「お前ね、貴族として礼儀とかそういの無いの?

俺、一応魔王だよ。魔界で一番偉いって知ってるよね。尊敬とか畏怖とか無いの?」

「あー、貴族と言っても三男坊だし、家の仕事手伝ったりとかは無いので、まったりしてるし、第一、幼馴染だから、魔王とか言われても友達と話してる気分なんですよね~。」

「はぁ~、お前ね、素直過ぎでしょ。普通そんな事言ったら、不敬罪で死んじゃうよ。まあ、いいや。アレク、お前に頼みたいことがある。」

「何でしょうか?面倒事は嫌ですよ。これから、ドラマ観ないと行けないんで。」

魔王が眉間に皺を寄せて、僕を睨み付ける。そんな顔をしても無駄だという事が分かっていないのだろうか?

どのみち、魔王の命令は絶対なので命令をきくのに。

「魔界の歴史はよく知っているな?」

「はい、魔界学校で勉強しましたし、歴史を知っておくことは、貴族としての嗜みみたいなものですから。」

「なら、話は早い。我々魔族の歴史は、異世界召喚の勇者に倒されるという事が繰り返されている。その状況を打破すべく、勇者の居る世界に行き、その強さの秘密を探ってこい。たまには奴らに一泡吹かせたいのだ。」

「そうなんですね~。毎回勇者にやられるのは、仕方ない理みたいなものだと思ってました。でも何で僕なんですか?他にもたくさん貴族はいますし、もっと優秀な奴にすればいい気がするんですけど。」

面倒な事だと思い、なんとか断ろうと思い他の者を選ぶように薦めてみたが、魔王の考えは違っていたようだ。

「いや、お前しかいない。というか、暇な奴がお前しかいなかったから。そうだろう、メルク。」

「はい、魔王様。」

魔王の座っている玉座の後ろから、スーッと出てきた赤い長髪、長身の無表情な男が返事をしてきた。というよりも居たことに気付かなかった。

彼は魔王の秘書のメルク。何時も気配を消しているのか、居るかどうか、全くわからない。無表情なので、何を考えているかも分らない。

「今現在の貴族には、何かしらの任務が与えられています。現在、お手隙な方はアレク様だけです。」

「だそうだ。だからお前にした。」

「そうなんですね、ついに僕も仕事をすることになるのか~。面倒くさいな~。」

「仕事しろよ、一生遊んで暮らすことは出来ないんだからな。金稼がないと生きていけないんだから。」

「魔王のくせに、まともな事言うんですね。」

「もういいや、とにかく、勇者の居る世界に行け。やっと長年研究していた魔法陣が完成したんだ。だからお前をすぐにでも向こうの世界に送ってやれる。お前も少し貴族としての自覚を持った方が良い。」

「面倒くさい、という事はわかりました。向こう側の世界に行ったらどうすれば、良いんですか?住むところとか、生活面ではどなたが保証してくださるんですか?」

「ごちゃごちゃうるさい。とにかく行け。定期的に報告は忘れるな。向こうに行けば分るから。」

そういって、魔王は僕の後方に魔法陣を映し出した。

魔法陣は怪しく鈍い光を放っていた。複雑な式がいくつもあり、古代文字で式が描かれていた。

「さあ、行け。お前が勇者の強さを解き明かすのだ。」

「はいはい、取りあえず行ってきます。家族にはちゃんと伝えておいてくださいね。」

「分ったから、伝えておくから、さっさと行けよ。」

僕は取りあえず、魔法陣に向かって歩き出す。まともな世界に行くことだけを祈って。

 これから僕の身に何が起きるのかもわからないまま、期待も希望もなく、これからの生活に不安だけしかなかった。

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いつもいつも異世界勇者に倒されるので、魔界貴族が異世界勇者のいる異世界に転生してみた。 穂明 響 @Meldybox

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