Borrow 序章

咲(さく) 最中(さなか)

第0話 終わりの前兆

「……ぅ……ぁ」

 眼下に広がった地獄から助けを求め、焼けたのどを酷使しながら赤黒く染まった空に手を伸ばす。

 2時48分で止まった時計を視界の隅に見ながらまどろみの中へと意識が遠のいていく。遠のく意識は非情にも苦痛からすぐ開放してくれることはなかった。


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「あっちィなぁ…薪も重いし。」

「しょうがないだろ、こうでもしないと生きれないんだから…」

「わかってんけどさァ…」

 愚痴をこぼしながら体の半分くらいを覆う程の薪を運んでいるのはカール・クロイス。カールは孤児院の一人であり僕の幼馴染だ。ちなみに僕ーシュウも孤児院の一人である。

「今年は充実して冬を乗り越えれそうだな。あれだけありゃァずっとまきをもやしつづけれんじゃねェか?」

 薪を倉庫に置きながら笑みをこぼす

「八割は王都に売りに行くから今年もそんなに薪ないよ。暖かさも大事だけど食べ物と水がないと生きてけないからな。それに最近はここら辺にも騎士隊もいないから治安悪いし、自衛できるものも必要だからね…」

「だよなァ…」


 11時18分


「おかえり、シュウ」と後ろから聞きなじみのある藍髪の少女の声を聴く。

「ただいま、リーザ。みんなは今外?」え?俺は?と横から聞こえた気がした、気がした。リーザにもその声は聞こえていないようだ。

「そうだよ。一応もうご飯はできてるけどみんな呼んでくる?」何かが間に割り込んで俺が呼んでくるよ?と主張している。空耳だ。

「頼んだリーザ。僕はその間に井戸で手を洗ってくるよ。」

「頼まれました!5分で呼んでくるね。」リーザは走って孤児院外へと走っていった。追いかけようとしていたカールは僕がげんこつしといた。


「お前…リーザの前だとなんでああもしつこいんだよ。」

「いいだろォ?俺の恋愛道はしつこいくらいがちょうどォいいだよォ。」キメ顔で言ってくるが受ける側としてはやめてもらいたい。

「とりあえず井戸に手洗いに行くぞー」


 11時58分


 ご飯も食べ終わった僕は町はずれのすたれた教会に来ていた。

 ここは誰もいなくて静かな場所で木々も生い茂っているので空気も澄んでいる。休憩するにはちょうどいい。ここはよく使う場所なので私物を持ち込んでいる。一種の秘密基地状態だ。青空はきれいで気温もよくいい昼寝日和だ。昼寝をしようと目をつむる。風が木々をゆらし木々が語り合っているようだ。こういう日は時計の針の音が聞こえくなるのでよいBGM代わりだ。(意識すると聞こえるな、これ)


 1時21分


 夢を見た。酷い、それはひどい夢。孤児院の子供たちが目や口から赤黒い血を出して僕に助けを求める。僕は唖然として立ちすくみ眼を失った一人につかまれる。その手を放したが別の手がまた僕を逃がさないとつかむ。つかむ。つかむ。つかむ。つかむ。逃げれない逃げれない逃げれない逃げれない逃げれないにげれni逃^げre]ないnいげれni:nige:/.:ip;w]


「助けて」


 はっと目が覚め夢だったということに安堵する。

「こんないい昼寝日和に悪夢見るなんて…」心拍数がだんだんと落ち着いてくるような感覚を確かめながら時計を見る。2時45分。夕飯までにはまだ時間がある。市場で何かお土産買って帰るかぁと思いつつ違和感を感じる。胸騒ぎがする。急いで外に出る。街の風景が少し見えるがいつもと変わらない風景。

「とりあえずいそいでかえr」


 赤い閃光と爆発的な衝撃と熱風、これ以上は何も感じなかった。

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