ムシ・ムシ・ムシ

朝凪 凜

第1話

 いつものように川沿いを自転車で走っている。川沿いは土手になっていて休みの日になるとランニングしている人や散歩をしている人をよく見かける。

 その土手から少し離れた所に公園があった。川の支流にあたり、桜並木があるのだ。しかしこの桜の木、毛虫が異常に多くて夏前の時期になるとほとんど人が通らなくなるのだ。

 そしてある桜の木の前で自転車を駐めた。見ている先はサナギである。

 しばらく前に通りかかった時にサナギがいることを見つけて、毎日観察しに来ているのである。

 小学校の授業が終わって、そそくさと家に帰り、取る物も取り敢えずこの場所に来ては一日眺めている。

 飽きないのかと聞かれるが、毎日微妙に変わっている様子が面白いのだ。

 そんな日々が過ぎていき、今まさにサナギから何かに羽化するところだった。

 イモムシから蝶になることは理科の時間に習ったから、このサナギが蝶になるということは分かっていた。

 だからこそ毎日毎日辛抱強く通っていたのだ。

 そしてサナギから蝶のようなものが……出て……

「うわっ! 蝶じゃねぇ!!」

 茶色い翅を見てすっかり見る気が失せてしまい、サナギの抜け殻を最後まで見ること無くそそくさと帰ってしまった。

 翌日、学校で先生に話をしたら「それは蝶かもしれないし蛾かもしれない」と言っていた。蝶も蛾もほとんど同じで種類によっては蝶とも蛾とも判断出来ないものもあるらしい。

 学校にあるパソコンで見せてもらうと、

「あ! こんなやつ!」

 画面に表示されていたのは「ジャノメチョウ科」と書かれている。

 茶色い翅で眼みたいな模様のある蝶らしかった。

「なんか蛾みたいでばっちぃ気がする」

 そういうと先生は笑いながら説明した。蛾は蝶に比べて鱗粉が剥げやすい種類が多いらしい。けれど、鱗粉が剥げにくい蛾もいるとのこと。

 蛾と蝶の違いを説明されるけど、いつも見てる蝶とは似ても似つかないものもいて、蝶なのか蛾なのか分からなくなってきた。

「翅が綺麗なのが蝶で茶色いのが蛾じゃだめなんですか?」

 そのほうがわかりやすいし、絶対覚えやすいと思う。

 そう言ったけれど、今度は逆に翅の綺麗な蛾がいると言われた。画像を見てみるとカラフルな翅や真っ白の翅、どう見ても蝶に見えるものが全て蛾だと言われた。

 もう、蝶も蛾も信じられなくなった。

「蝶も蛾も人を騙すということで同じじゃないですか」

 見た目で騙されたのだ。毎日通っていたのにまさかこんなややこしいことになっていたとは思ってもみなかった。

「もう蝶も蛾も騙されないように全部見なかったことにする!」

 そう宣言してやり場の無い感情を先生にぶつけて家に帰った。

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ムシ・ムシ・ムシ 朝凪 凜 @rin7n

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