第1話 聖剣から魅入られたんですけど!?

 オルファ王国のお城に、正装に着替えさせられた僕は来ています。はい。


 「新たなる聖剣の持ち主、オルバー。前へ」

「は、はい!」


 威厳が高そうな格好をした人の声に合わせて、僕は王様に向かって一歩、前へ進んだ。


「おお! よくぞ、参った! 新たなる聖剣に認められし『守護者』よ! 我は、楽しみにしておったぞ!」

「きょ、恐縮です……!」


 よし、恐縮って言葉が言えた。王様に何か言われたら「恐縮です」って言えば何とかなるって、幼なじみが言ってから大丈夫だろう。問題はない……はず。


「これからの期待にも、楽しみにしておるよ」

「きょ、恐縮です!」


 大丈夫、大丈夫。


「それで、お主は聖剣を持つ前は、何を?」

「きょ……の、農民です! ただの!」


 僕が、そう言った瞬間、周りはざわついた。

 ……危なかった。また、恐縮ですと、言おうとしてしまった。……バレてないよね?


「おお! 農民でありながら、聖剣に認められるとは運命であるな! 素晴らしい!」


 王様は、自分の座っている王座の裏から一本の剣を取り出した。


「うむ、我はお主を同じ『守護者』として歓迎するぞ! オルファ王国8番目の『守護者』オルバーよ!」


 それは、王様の持つ聖剣『グランティ』


 始まりの聖剣と呼ばれ、オルファ王国の歴史と共に受け継がれてきた聖剣。

 見た目は、なんと言っても圧倒的な重量や大きさで、僕なんか身長の低い人間からすると、自分と同じ大きさにも見える。多分、今の僕にその聖剣が落ちてだけでも、真っ二つになることは間違いない。


 ……ちなみに、王様はそんな聖剣を片手で持っている。


「きょ……」


 恐縮です。って、また言おうとしたが何か違う気がした。目の前の王様は、僕が何を言うのか、ニコニコしながら待っている。


「あ、有りがたき幸せ……この不肖オルバー! この剣に誓い、この人生『守護者』としての運命を全うします!」


 良かったぁ……なんとか、言葉が出てきた。本とか出てくる言葉を、少し真似して出た言葉だけど、ちょっとは、様になった言葉が出たんじゃないかな。


「ハハハ! 慣れないことはしなくてもいい!」


 ……王様には、見抜かれたけど。


「それでは、剣に誓うと言うことなので、オルバーの持つ聖剣を我に見せてみよ」


 イタズラっ子のような顔で、王様は僕に話しかけてきた。さっき言ったことが、とても恥ずかしいのでやめて頂きたい……。


「どうした? 早う、みせよ」


 ニヤリと笑う王様は、まるで子供ようだ。そんなこと思ったら、失礼かも知れないけど。


「わかりました……笑わないで下さいよ?」


 僕は、気さくな王様に心を許し、腰にかけた鞘から一本の聖剣を抜いた。


 ギギギ、と少し金属が擦れ合う音がした後、僕の持つ聖剣はお目見えした。


「……なんじゃその、茶色のは?」


 これには、王様も素の返答である。


「僕の持つ聖剣です……聖剣『ハイエルン』僕が見つけて、握った時に、聖剣からそう聞こえたので間違いないです……」


 僕の持つ聖剣は、見た目は茶色……というか錆びていた。錆びまくっていた。

 元々、金属であっただろう刀身は輝きを失っていて、全体が錆びて茶色一色になっていて……見るからに聖剣と呼べない。

 持ち手も、何かベタベタしていて、握った感触は最悪。

 鞘がなかったので、新調してもらったのだが、サイズが合っているにも関わらず、ギギギと不快な音を出す。……聖剣は、この鞘が気にいらないとでも言うのだろうか。だからといって、聖剣を出し入れする度に、不快音を出して、周りの注目を浴びる仕様をどうにかしてもらいたい。


 ……まぁ、しゃべらない聖剣に、何を言っても無意味だと思うけど。


「ハハハ、面白い聖剣だな!」


 もはや、王様に気を使われてしまった。


「して、どんな能力があるのだ? その聖剣には?」


 ……やはり来てしまった能力の話。


「……光ります」

「え? なんだ、もう一度言ってくれ」

「光るんです。聖剣が」


 王様が、僕の言ってることを聞いて困った顔をした。それはそうだろう。僕だって、未だにこの性能の仕組みをよくわかっていない。


「僕の持つ聖剣の能力は、光ること……しかも、黄金色に光り、ただ眩しいです! 使用している僕の目さえ見えなくなりますから、容易にこの能力は使えません。また、聖剣は共通して壊れにくいので、固さには自信がありますが……なにぶん、僕の聖剣は錆びていますので、物が何も切れません。ならば、ただの鈍器として、活用しようとしたんですけど、元々農民だった僕が鈍器として活用できる力は持っていないので、ただの棒切れです。投てきとして、聖剣を投げてみたんですけど……聖剣は、何が気に食わないのか、その後しばらくは、鞘に聖剣が収まらないんです。サイズは、合っているはずですから、この聖剣が悪いのは確かなはずなんですけど……僕にはどうもわかりません。あと、強いてあげるなら、この聖剣は重いです」


 僕は、自分の持つ聖剣の、性能のすべてを話を終えた。


「えっと……」


 さすがの王様も言葉が詰まっていた。


「なんか、ごめん」


 そして、いつも通り、僕の説明を聞いた人たちが言う言葉を、王様から聞いてしまった。

 

「いえ、いつものことなので……」


 変に、気まずい空気が流れる。


「ま、まぁとりあえず、聖剣は聖剣なわけなんだし、オルバーが聖剣を拾ってから、この王城までくるまでの話でも聞こうかな! オルバーが住んでいた村からここまでは、ずいぶん遠かっただろう? それを話せ!」


 また、王様に気を使わせてしまった。


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聖剣から魅入られたんですけど、人生そんなに甘くないです!! 猫のまんま @kuroinoraneko

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