きみの嘘、僕の恋心
八重垣ケイシ
きみの嘘、僕の恋心◇コメディ
「おーい、たーすけてくれー」
「なんだよ? うんざりしたダルい声出して」
「また、先輩がこんなタイトルでなんか書けってさー」
「オマエ、やっぱりその文芸部の部長に可愛がられてんだろ?」
「しらねーよ、こういうの苦手なんだよ、俺は」
「で? 次のタイトルは? 『きみの嘘、僕の恋心』? あー、これはお前に恋愛もの書けってことだな」
「書けるかよ俺に。恋愛ものなんて。いまだに女と付き合ったことも無いっていうのに」
「簡単だぞ? 女なんて顎を詰まんでクイと上げれば目を閉じる生き物だぞ?」
「オマエなんて刺されてしまえ!」
「そのタイトルだと相手が嘘をつくわけだ、その嘘に気づいて恋心を自覚するか、それとも失うか、そんなところ?」
「それをどうストーリーにしろってんだよ。もー、あの先輩は俺に何を書かせたいんだよ?」
「困らせて遊んでるんじゃね? んーと、婚活かな?」
「婚活?」
「そう、婚活パーティで獲物を待ち構える結婚詐欺師。相手の恋心が金になる飯の種っていうわけだ」
「夢もポエムもねえな、おい」
「恋心なんて所有欲のエゴだろ? そこに夢を抱く乙女ロマンチストを手のひらで転がして、有り金むしりとる。恋心に投資して破産する経済ドラマとなるのかな?」
「相手の嘘に気がついたときは借金まみれと、嫌にリアルだな」
「リアルから離れて夢が見たいのか? しょうがないな。じゃ、無人島だな」
「また無人島かよ?」
「限定条件として使いやすいんだよ。推理ものの孤島の別荘みたいに。で、だ。無人島に漂着して食べ物を探していると、バナナが成っているのを見つけると」
「お、今回はあっさり食べ物が見つかった。良かった」
「そのバナナをいっぱいに胸にかかえて戻ると、同じように漂着していた女がいる。その女がバナナを抱えるお前に気がつくわけだ」
「漂流してたの俺なのか? まぁ、いいけど。で、俺ひとりじゃなくて、もう一人、女が流れ着いているのか」
「その女がお前に気がついて走りよってくる。意を決してお前に告白する」
「いきなりだな。告白って」
「ちなみにお前が女に告白されたことは?」
「一度もねえよ。女と付き合ったことねえって言ってんだろに」
「そんなお前に、この女は一大決心で告白するんだ。どうよ?」
「どうよ? って言われても、んー、ちょっとドキドキするかな?」
「その女は手を組んで、すうはあと深呼吸して、真剣な目でお前をじっと見て、意を決して言うんだ」
「うんうん、なんて告白するんだ?」
「あなたを愛しています。だからバナナ下さい」
「ウソだああ! バナナ目当てだ! そんな告白はイヤだ!」
「無人島に漂着して、腹を空かせてたらそうなってもおかしくないだろ」
「ひでえな、愛も恋心も欠片も無い。恋心どこにいった?」
「そのまま無人島に二人っきりで何年もいたら、恋とか愛とか湧いてくんじゃね? その島に二人っきりのアダムとイブだし」
「どこが恋愛ものだよ。ロマンチックがひとつもねえぞ」
「その後のことはわからない。嘘とバナナから始まる恋物語があってもいいだろ」
きみの嘘、僕の恋心 八重垣ケイシ @NOMAR
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