Ex.6 ここからまた一年

今日は新入生の入学式の日。ゆるふわ部の四人は、今日もいつもの部室に集まって、座って話していた。


「もう一年か……マイちゃん一年前の今日の事覚えてるー?」


ホタル部長が意地悪な感じで聞いてきた。


「もちろん覚えてますよ。私が校舎を探索してたらホタル部長にばったり会って……」

「そのままの勢いで入部してもらったんだよねー」


ホタル部長は一年前の出来事をさらっと言ってるけど、よく考えたらあれって誘拐みたいなものじゃないの……?

今でこそ、あの時ホタル部長に出会えた事はとても良かった事だって思えているけど。

今の私が居るのはホタル部長のおかげだし。


「あの日からもう一年経ったんだね」


ココ先輩も感慨深いものがあるようだ。


「あれ……ナツミだけ参加できてない……?」

「ナツミは途中から入ったもんね……」


こればかりは仕方ない。


「一年経ったって事はわたしとホタルは三年になって、マイちゃんとナツミちゃんは二年生になったんだよね。なんだか実感湧かないよね」


ココ先輩はナツミの頭を撫でながら言った。


「マイちゃんとかまだ一年生な感じするよね」

「どういう事ですかホタル部長ー」


私だって成長してますよ……!


「でもそんな一年生に見えるマイちゃんも今年には部長だよね?」

「え?」


ココ先輩が言っている事がすぐには飲み込めなかった。……部長?


「ナツミは途中から入ったし、マイが部長なのは普通じゃない?」


ナツミの言葉でようやく分かった。そうかもう私部長になる年なんだ……。

もしかして私成長してなかった……?


「あんなに『ホタル部長ー』ってホタルに」懐いていたマイちゃんが今度は部長かー」


ココ先輩私の真似上手ですね……。


「もうアタシに『部長』ってつけられないね」


……確かに。ホタル部長の言う通りだ。


「今から部長になる練習しておいたら?」


ナツミそれどういうこと?


「部長って言わないって事?」

「ココ先輩の言う通り!」


えぇ?!


「いいじゃんそれ!」


ホタル部長はとても乗り気だった。

学校で呼び捨てしちゃって良いの……?


「ほら、一回アタシの事呼んでみて?部長になった自分をイメージして……」


部長になった私をイメージ?そんな難しい事を……。


「ホタル……こんな感じですか?」

「もちろん部長なんだから敬語もダメ!もっと偉そうにしないと!」


無茶な……ココ先輩とナツミも見てるのに。


「ホタル……こんな感じかな?私よくわからないよ」


部長になった私ってどう言う事……?


「うーん、まぁこれから慣れていけば良いよ。よし、頑張ったねのギュー!」


ホタルはそう言って私を優しくハグしてくれた。

そして、私の耳元で小声で囁いた。


「なんだかお泊まりの日の事思い出しちゃったね」


お泊まりの日……。思い出しただけで甘く幸せな気分になる。


「マイは学校でもあの日みたいに振る舞ってくれると嬉しいな」


私の事をお泊まりに日の時のように呼んでくれるだけでなんだか嬉しかった。


「……頑張ってみる」

「うん!それでこそアタシの可愛いマイだよ!」


ホタルのわたしを抱きしめる強さがさっきよりも強くなった。

こうやってずっとホタルに包まれていたい。


「ねぇねぇココ先輩、あの二人って……」

「さぁ……どうなんだろうね?」


遠くの方でナツミとココ先輩の声が聞こえた気がしたけど私は全く気にしなかった。


ホタルがゆっくり手を離す。


「ホタルー、もっとー……」

「満足してないの?もう、また今度ね」


そう言った後小声で「ココとナツミちゃんも見てるから」と、続けた。


横を見ると、遠くにいると思っていた二人が真横にいた。めっちゃ近い。


「あ、うん……」


ハグされて冷静さを失っていたようだ……。


「ねぇねぇマイー」

「どうしたのナツミ?」

「うーん……やっぱりなんでもない」


えー、そんな言い方されたらなんか気になるじゃん。何聞こうとしてたんだろう。



コンコン……


突然部室の扉がノックされた。


どうしたんだろう。


「顧問かなぁ……?」

「いや、マイ、大森先生はノックしないよ?」


なんて人だ……。


というか顧問じゃないとしたら誰?見てみないことにはわからないな。


「はーい」


私は立ち上がって扉の方まで向かった。


ガラガラ……


扉を開けると、そこには知らない少女が立っていた。長い金髪のサラサラとした髪に、青く透き通った目。もしかしてハーフの子かな?


「……どうしたの?」


私は膝を曲げて、目線を合わせて出来るだけ優しい声を出すよう心がけた。


「あのっ、あのっ。お姉ちゃんとはぐれて!」


どうやら迷子のようだ。とりあえず落ち着いてもらわないと。


「大丈夫だよ。こっちおいで。私たちがなんとかしてあげる」


ここからまた一年が始まっていく……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆるふわ部で放課後スローライフ! 時雨澪 @shimotsuki0723

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ