Ex.5 わたしたちのメリークリスマス
「ココ先輩も来るよね?ね?」
ナツミちゃんは目をキラキラ輝かせながらわたしの服の袖を引っ張ってくる。
暖かいホタルの家でおしゃべりしたりケーキを食べたりしていたら、ふと公園にある大きなクリスマスツリーの話が出てきた。
わたしも一応存在は知っていたけど、「ホタルの家に行くから」と、あまりわたしには関係のない話だと思っていた。
しかしこう……わたしの目の前でクリスマスツリーという言葉に反応してとてもはしゃいでいるナツミちゃんの姿を見ると、どれだけ外が寒くても「行かない」という選択肢がわたしの頭から消えていく感じがする。
「もう、そんな引っ張らなくて大丈夫よ。もちろんわたしも行くから」
「やったー!」
ナツミちゃんはこうやってはしゃいで喜んでいる姿が可愛くてよく似合う。
***
公園に向かう道のりは人でたくさんだった。
みんな同じ目的なのだろうか。単に人通りが多いと言うわけではなく、みんながみんな同じ方向に進んでいた。
「うぅ……寒い……」
ナツミちゃんは自分の体をさすりながら歩いていた。いかにも寒そうだ。わたしは少し心配になってナツミちゃんの隣を歩くことにした。
「大丈夫?」
すごい寒そうだけど。
「寒いだけだから……」
寒いだけって……そのままだったら風邪とか引いちゃいそう……。
そういえば今日会った時もそうだったけど、ナツミちゃんの手、何もつけてない……。
「手袋とか持ってきてないの?」
「うん……」
そりゃ寒いよ……。
わたしはナツミちゃんったら……なんて思いながら「もう……」と口に出した。そして、わたしの手袋を取ってナツミちゃんと手を繋いだ。
ナツミちゃんの手はとても冷えていた。保冷剤みたいだ。
「ほら、これであったかくなった」
「あったかい……」
「そりゃさっきまで手袋つけてたからね」
わたしの手がカイロ代わりになれば……と、少しだけ思った。
「はい、もう片方の手につけて?」
わたしは外した手袋をナツミちゃんのもう片方の手につけるように言った。流石にナツミちゃんの両手を包みながら歩くわけにもいかない。
ナツミちゃんはわたしの手袋をつけると、笑顔で「お揃いだね!」と、言ってくれた。
***
しばらく歩いているうちに、いつに間にかホタルとマイちゃんと私たちとの間に少し距離ができていた。
まぁホタルは前から歩くの遅いしなぁ……。マイちゃんはきっとホタルの歩くスピードに合わせているんだろう。
あれ、ホタルとマイちゃんの二人で手つないでる?いつの間に……。
「わー!キレイ!」
後ろばかり見ていたら、隣でナツミちゃんが突然大きな声を出した、
何だと思って前を見ると、街路樹に沢山のライトがつけられていた。今の時期だけのイルミネーションだ。ライトは様々な色に変化したり、点滅したりして、見ていて飽きない。
「おぉ、キレイだね」
まだ日が完全に落ちきって無くて光も見えにくい中でこんなにもキレイだから、真っ暗になったらもっとキレイなんだろうなぁ。
「ねぇココ先輩」
上ばかり見ていると、ナツミちゃんに腕を引っ張られた。
「どうしたの?」
「人通り、多くなってきたね」
確かにさっきよりも人と人との感覚が狭まってきている気がする。
「そうだね。でもいきなりどうしたの?」
「はぐれちゃイヤだなぁって思って……」
ナツミちゃんは恥ずかしそうにそう言うと、一瞬手をほどき、また繋ぎ直した。ただ、繋ぎ方とはさっきとは違って……。
「ナツミちゃん……?これは?」
「……恋人繋ぎ、ダメ?」
ナツミちゃんがわたしの目を見つめてくる。その目はなんだか不安な感情を抱えているように見えた。
そんな目をしないでよ……。
「ダメなわけないでしょ?」
ナツミちゃんにはもっと可愛い顔をして欲しいからもっと甘やかしてあげないと。
***
ずっと二人で手を繋ぎながら歩いて、ようやくクリスマスツリーの目の前までやってきた。
「おー……これがクリスマスツリー?」
ナツミちゃんはツリーの一番上を見上げている。
「うん。やっと着いたね」
クリスマスツリーは、さっきのイルミネーションとは比にならないぐらい光に溢れていた。沢山のライト、沢山の飾り。とにかくスケールがとても大きかった。
「疲れたー……結構歩いたよー……」
「いっぱい歩いたね。お疲れ様」
「そんな事言ってくれるなんてココ先輩優しー!」
ナツミちゃんはそう言うと、わたしをぎゅっと抱きしめてきた。
「おっと……、どうしたのいきなり?周りにもいっぱい人がいるよ?」
突然抱きしめられたこと、不特定多数の人に見られていること、そういう考えがわたしの頭の中をぐるぐるまわって頭がいっぱいになった。
「ナツミが今そういう気分なの!それに周りの人たちもカップルばかりだよ?」
「カップルって……」
わたしたちは女子同士だよね……?
「ココ先輩はこういうのイヤ?」
イヤかどうかで聞かれると……。
「……イヤじゃない……かも」
こうしてナツミちゃんにハグされると、なんだか身も心もあったまっていく気がした。
ナツミちゃんは、わたしをハグしたままずっとわたしの方を見ている。
「クリスマスツリーは見なくて良いの?キレイだよ?」
「クリスマスツリーよりココ先輩の方がキレイだよ?」
「……!」
ありきたりな言葉なはずなのにとても恥ずかしくなった。
それがこの場所の雰囲気のせいなのか、それともナツミちゃんに言われたからか……。
ナツミちゃんは凸絶も周りをキョロキョロと見回した。
「ホタル部長たち、まだ来ないよね?」
「まだだと思うよ?」
どこにも姿は見えないし。
「じゃあ……」
ナツミちゃんは腕を解くと、わたしをじっと見上げた。
「ココ先輩背高いなぁ……ちょっと屈んでほしいな?」
「え……屈むの?……こう?」
わたしは膝に手を置いて、少し屈んだ。
「うんうん、いい感じ。そのままじっとしててね?」
するとナツミちゃんがゆっくりと近づいて来た。
わたしの首に手を回す。
そして……
そっとキスをした。
とても長かった。
それが本当は十秒もなかったのかもしれない。でも、わたしには一分にも一時間にも感じるようだった。
やがてナツミちゃんがゆっくりと離れていく。
「……メリークリスマス。なんてね」
甘やかしていたはずの子にいつの間にか心を揺さぶられていた。
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